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【卒業】 僕はその日。キャプテンではなくなって、 僕はその日、先輩ですら無くなってしまうのだけれど。 見送ってくれる彼の目を見て、不覚にも衆目の前で抱き締めそうになりました。 「キャプテン！」 最後のＨＲも終り、僕達卒業生は卒業証書と共に至る所で思い出話に花を咲かせていた。 そこに駆け付けて来てくれた下級生達が花束や何やらをいっぱいくれて僕はその中に埋もれてしまう。 「流石也・・・牛尾」 「・・・どうでもいいけど、助けておくれよ・・蛇神君」 隣で微笑んで見守っている親友に僕は苦笑しながらそう言う。 「ははは。キャプテン三国一の果報者っすね！」 1年を代表してか、天国が健康そうに歯を覗かせて笑う。 何故か後ろの犬飼が、天国の手を握っていることに少し笑みを誘われる。 「・・・有難う。皆。・・・嬉しいよ。・・・でももう僕はキャプテンじゃ無いんだけどね・・・？」 微かに微笑みながら言うと天国がいけねっと舌を出す。 「流石にバカ猿だ」 「何っ！このアンポンタン犬めっ！！」 天国はそれでも繋がれた手を離そうとはせずに、表情と言葉だけで牙を剥いてこちらに顔を戻す。 「そういう事で・・・先輩達、卒業おめでとうございます！」 いつの間にか揃った鹿目や、三象、獅子川、一宮にも花束は贈られていて、天国はそう締めくくった。 それに僕は心中を隠して「ありがとう」と言う。 「・・・そう言えば、子津君の姿が無い・・ね？」 「子津君は今日の日直だったそうでして、何かご用事がおありのようで遅れると言ってらっしゃいましたよ」 犬飼の隣に控えた辰羅川がそう言うのに兎丸が「子津くんらしいよねー、司馬くん」という言葉が聞こえた。 「つーか、そんなもんさぼっちまえばいいのによ」 天国の言葉を聞きながら、それが出来ない彼を僕は好きになったんだけどね、と思う。それから。それなのに、淋しくも思う一面もあって。 （だって今日が最後だよ？） 彼に会って、彼に口から『さようなら』を聞いてしまわなけれならない苦痛から逃れる為に、来て欲しく無いとも思う気持ちと相反しながら、僕は視線を逸らした。 「―――キャプテンっ！」 僕は迷わずに彼の姿を捉えていて、彼は少し目を赤くして、僕以外じゃ気付かないくらい、ほんの少しであったけれども、どこかで泣いて来たのだろう、そんな瞳で僕達の元へ走り寄って来た。 「・・・子津くん」 「・・・あ、皆さんご卒業おめでとうございますっす」 彼はちょっと上気した頬を隠すようにペコンっと僕達に向かって一礼をした。 「・・・有難う」 （僕にとってはちっともおめでたくなんか無いんだけどね・・・） 「・・・それで・・、あの。ちょっとキャプテン・・・じゃなかった。牛尾先輩お借りしてもいいっすか？」 「あ？そんなもの幾らでも貸してやるのだ。持って帰っても別段構わないのだ。なあ、蛇神」 「・・・うむ」 「・・・『うむ』って・・・」 僕は苦笑しながら隣で頭を下げる彼に手を引かれて、人気なの無い、飾りっ気の無い、それでも爽やかに感じる木々の元につれて来られた。 「牛尾先輩」 「・・・・なんだい？」 僕は微かに感じる胸の痛みを隠して笑みの形を作った。 「・・・退部してから・・・あまり来てくれなかったっすね・・・。忙しいのは分かってるっすけど・・・」 彼はじっと僕を見つめて言った。 「・・・うん。やっぱりケジメもあるし・・ね」 その瞳から逃れるように僕は薄く瞼を閉ざす。 本当は彼が別の人を『キャプテン』と呼ぶのを聞くのが嫌だったなんて理由で、そこを離れたことを彼は知らない。 「・・・そうっすか」 彼は僕の言葉を聞いて少し面を伏せた。 「・・・じゃあ、卒業しちゃったら・・・会ってもくれないんすね・・？」 少し儚げな笑みで彼は僕の頬を包んだ。 「・・・たった一度のことでしたけど・・・僕は嬉しかったっすよ」 僕は彼の言葉が、僕がキャプテンと彼に呼ばれる最後の日に、彼を抱いた事をさしているのだと悟って、言葉を詰まらせた。 「・・・『キャプテン・・・好きです』」 そう彼はその日も言って抱かれてくれた。 「・・・御門さん・・・大好きっす・・・ずっと」 そうして彼はそう言ってキスしてくれた。 「・・・子津・・・くん？」 「・・・そ・・卒業祝いっすよ・・・」 ぱっと離れて行ってしまいそうな彼の腕を捕らえて、僕は弾かれたように抱き寄せた。 「ありがとう・・・最高の卒業祝いだよ・・・」 彼は僕のされるがままに胸の中に収まっていて、 「・・・でもそれだけじゃ足りないよ・・・。ずっとそう呼んでくれるんだよね？」 それからゆっくりと腕を回して来てくれた。 「・・・いいんすか？」 僕はその言葉にしっかりその目を見て頷いた。 やっと心の底から笑みが広がる。 「当たり前だよ」 僕はその日。キャプテンではなくなって、 僕はその日、先輩ですら無くなったのだけれど、 それ以上を貰ったので、卒業も悪くは無いなと思ったのだった。 NEXT？ ＝懺悔＝ こんにちわ～。これ、実は夏に発行した犬猿・牛子・馬兎・芭猿？の『春スペシャル』の一部の牛子です。すんげー小部数ですから多分読んだ事のある人は皆無だと思うんですがね・・・。 っていうか。この前の話が書きたいっす。ええ。そりゃあもう。（でもこの後の話も書きたいなあ・・・） か・・・書けるかなあ。いつか書きたいなあ、と言うことで、宜しかったらまた会いましょう！ 水野八百起。2003.10.22. ≪new[3] NOVEL [0]TOP。 |