七転八倒堂

【団扇】

　ぴ～ひょろろ～♪
　夜風に乗せて、軽快なお囃子が耳に届く残暑の色濃く残る八月末。

　近所の神社では、高校球児の為のプレゼントのように、お祭りが開催される。
「うおっしゃー！！！祭りじゃ！祭りじゃ！ワッショイショイ！！」
　十二支高校野球部では、甲子園が終わるまでは、他人に厳しく、自分には更に厳しい牛尾や、もはや法律の神というか、既に存在自体が神…みたいな蛇神のすっぱくなるくらいの教えによって、殆どの部員が夏休みの宿題を半分は終えていた。
　しかし、殆どの部員…から外れてカウントされる猿野達はまだ宿題の宿の字すら終わってなかったし、殆どの部員も主将が牛尾から虎鉄に引き継がれて以来、勉強なんてさっぱりってなもんで、最後の最後までひいひい言いながら友人と一緒に片付けるという作業に追われていた。
　今日はその宿題が、真面目グループ司馬、辰羅川、子津の努力により終わり、翌日の夏休み最終日に催される夏祭りに思いを馳せている猿野が雄叫びをあげ、ばっさりと司馬の部屋に転がった所だった。

「あー。最終日くらいはぱーっと遊ばねえと～～～、やってられっかー。凪さ～～～ん」
　ごろごろと、フローリングの床の上を転がりながら呻く猿野に、司馬がお気に入りのビーンズクッションを持たせる。
「うお～ふかふか～。まるで凪さんのおぱ…、…」
「あ！兄ちゃん今変な事思ったでしょう！・・・いた！」
　や～らしいんだ♪と口元に手をあてにやにや笑う兎丸の頭に、べしっと犬飼の手が下りて来て兎丸が小さく悲鳴をあげる。
「も～！何すんの！！犬飼くん！！」
「とりあえず、猿のイヤラシイ姿を想像するな」
「Σは！？何言っちゃってんの？！！犬飼くん！！！僕そんな事一言も言ってないヨ！！」
　勉強のし過ぎでオーバーワーク？どっかとチャネリングしてんの？！・・・な感じで兎丸が司馬と同じくらいの位置にある犬飼の顔を見上げると、コゲ面はむっとしたように不快を刻んでいた。
「・・・それで猿、明日は何時に集合だ」
　都合の悪い事は全てさらっと流す・・・というか聞いてすらいない犬飼がクッションに顔を埋めたまま寝転がっている天国に聞くと、犬飼のセクハラ発言に少し顔を赤くした天国がチラリと睨んだ。

「お、いぬ」
　その後、子津の発案（「皆で一緒に・・・・いえ、スミマセンっす（犬飼くん超恐いっす！！！）」）を却下した為、一人ぼんやり境内の前で立っていた天国がふとライトが翳ったのを見て顔をあげた。
「・・・、コゲ面だから超ヘン」
「照れ隠しもその辺にしとけ、猿。よく似合ってるぞ」
「！！！！！」
　顔が赤いので、反論しても意味はなさず、その前に珍しくヘタレてない犬飼の発言に思わず唇を噛み締める。
「・・・猿。お前、何か一つ欠けてる」
「は？」
「団扇、うちわがねえ」
　びっ！と女の子の色浴衣の帯びの間に刺さってる可愛らしい団扇を指す犬飼に天国は顔を顰めた。
「ありゃ、おんなのこがやってるからいいんじゃねーか。確かに暑いけど」
「バカいうな。女限定のモノじゃねえだろ。・・・とりあえず、俺はあれがいい。アレをお前の浴衣の後ろにさしてえ。もしくは持たせたい」

「・・・」

　犬飼の提案により、団扇を持たされた天国が、氷のイチゴと、タコヤキと、ヤキソバと、りんご飴と、イカ焼きに囲まれながら、花火を見てぽつりと呟いた。
「なー、犬―」
　どどーん！と夏の終わりを告げるかのように、空に輝いては、くすみ、消えて行くのが視界に入る。
「なんだ」
「オレ、この団扇好きじゃねえ」
「Σ！」
「だって、一人なんだもんよ」
「・・・？」
　薄く水色を掃いている左端を可愛らしい金魚がすいっと泳いでいる、そんな柄を天国は指さす。
「これ、なんかさー。本当はおっきいとこでスイスイ泳いでるって感じなんだろうけどさー・・・」
　淋しい。
「オレには、さ。淋しくて、他の誰かと一緒にいたくて、この枠を飛び越したいけど、出ていけない・・・、そんな風に思える」
　すっと夜空にかざすと、打ちあがった花火の光で七色に輝いて見えた。

　その横顔が、ふと、犬飼の中に棘棘して、一人でマウンドに立っていた頃の自分を思い出させた。
　その横顔が、ふと、その頃の自分を、遠くで見ていた天国の眼差しに似ている、と思った。

　天国は、この金魚がひとりぼっちでいるのを哀れんでいる。
　哀れむのは、非常に心地よくて、一人じゃないと思える。
　自分と一緒なのだと思える。
　シンクロしている。
　ひとりぼっちの自分を哀れんでいる。
　一緒にいたいと願っている。
　どこかに行ってしまわないで、と祈っている。

　犬飼はすっく、と立ちあがり、どこかから、ペンをかっぱらって来た。
　すっと天国の隣に立ち、事態を上手く把握できてない天国から団扇を抜いて、自分の膝の上に乗せ、ペンを走らせる。

「なにやってんの・・・、いぬ。」
　黒い黒い固まりを見て、笑いとも、苦笑とも、喜びとも、つかぬ表情で天国が呟いた。
「何って決まってんだろうがよ」
「本当、これ、いぬみてーに真っ黒」
「うるせー」
「もうちょっと絵心ってもんはねーのかよ。スバガキに習ったら？」
「・・・だったらアイツに描いてもらえよ」
　くすくすと笑い、破顔する天国に、ぷいっと犬飼がそっぽを向いた。
「いや、これがいい。・・・これからも、ずっと一緒だな」
　嬉しそうに夜空に再びそれをかざすと、天国の団扇の中の金魚と、犬飼が描いた犬金魚は楽しそうに光の中を泳いでいた。

END

　

†後書き†

冬夜様相互有難うございましたー！！！
っていうか、先に相互書きますよ～とか言って、先に貰った挙句、三ヶ月もかかって申し訳ありません――――ッ！！！！（泣）
しかも、犬・猿・・・と視点が変わりまくりでワケ分からない上に、
内容もあー・・・ってなモンです・・・（うふふふ）
リクは団扇、でしたが、クリア出来てない気、まんまん。

こんなものでよければ、受け取ってくださいー・・・。

それではこれからも宜しくお願いいたします♪

水野八百起拝。

２００４．０９．３０UP

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