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「・・・」 即答に、思わず言葉に詰まる。 「子津くんが帰るなら、寝ない」 「・・・ιそんな子供みたいなこと言ってないで・・・ちゃんと寝てくださいっす・・・」 「やだよ。次に目が覚めたときに一人だなんて、耐えられない。」 「・・・ご家族がいらっしゃるっすよね？」 ニルギリだって、ちょくちょく様子を窺っているはずだ。 「いるには、いるけど。こんな広い部屋で苦しい時に一人で目が覚めるときの気持ちなんか、子津くんには分からないんだ」 「・・・」 それは、分からないでも、無い。 子津自身、この部屋でただそこにいるだけでも、広過ぎる空間に一抹の寂しさを覚えるくらいだ。 それが、風邪で体力も精神力も弱っている時だったら、尚更そうだろう。 自分のたいして広く無い部屋でだって、むしょうに淋しくなるくらいだから、この部屋にいる牛尾がそれを感じない筈は、無い。 ・ ・・無い、が。少し意外だった。 全部完璧な人間なんていない筈だし、今目の前に横たわっている人物もそうじゃないことは分かっていたつもりだが、実際に目の当たりにすると、微笑みが漏れた。 「だから、僕は風邪なんか絶対ひかないって小さい時、誓ったんだよ。それが、今になって破られたのは、子津くんのせいなんだから、責任とってよ」 熱のせいで饒舌になっているのか、今まで聞いたことの無いような言葉を聞かされて、驚き半分、嬉しさ半分。 「僕のせい？」 「子津くんのせいだよ。僕が風邪をひいても、一緒にいてくれると思ったから、きっと風邪なんかひいちゃったんだから。・・・だから・・・、でも、ダメなら、仕方ないけど・・・」 小さい悲しい呟きに、子津は笑った。 「大丈夫っすよ。先輩が大丈夫なら、ご厄介になるっす」 ぴたり、と熱の為に上気している頬に触ると、その手に添わせて来る。 「だから、ゆっくり寝てください」 顔を覗きこむようにして微笑んで言うと、牛尾はとても柔らかい笑顔で「うん」と呟き、瞼を下ろす。 「・・・・・・」 子津はもう片方の手で口を覆って、俯く。 ヤラレタ、 そう思った。 玉砕、という言葉が脳裏を過ぎる。 それでも、玉砕して悪い気にはならないから、厄介だ。 「おやすみなさい」 子津は少し腰を浮かせて、氷嚢の置いてある額を避けて、こめかみにキスをすると、手を握りなおして、椅子に座り直し、天井を仰いだ。 END ■ おまけ 夜半に喉の息苦しさを覚えて、目が覚めた。 暗闇の中、ふと覚える一抹の寂寥感を今日は今日は感じずに、髪を掻き揚げようとして、気付く。 片手が、重い。 薄く引かれたカーテン越しには、綺麗な月が見えていて、枕元の時計は真夜中の２時を示していた。 片手の重しの原因は、疑う事も無い子津で、彼は椅子によりかかったままで、小さな寝息を立てていた。 「・・・参ったね・・・」 自分の屋敷には、ゲストルームというものが存在している。 きっと、ニルギリがそちらに移る事を提案した事は想像という言葉範囲以上に確信出来る。 有言実行。 きっと、牛尾の「淋しい」発言を聞いてこの部屋に忠実に留まったのだろう。 握り閉めた病人の手を離せずに。 しかし、病人と一緒の部屋で、こんな風にいくら部屋が温かいからといって、熟睡してしまって、体に良い筈が、無い。 一緒にいて欲しいとは言ったが、風邪をひかせたいわけでは無い。 牛尾が声をかけようと思った瞬間、子津の腹が小さくなった。 （・・・もしかして） どうやら、あれから、この場を離れていないのか、という考えが過ぎった。 過ぎった途端、確信に変わる。 （・・・そこまでしてくれなくても、いいのに・・・） 悪い事をした、 そう頭の片隅で思うのに反して、心はとても暖かい。 そのお陰で、きっとぐっすり眠れたし、起きた時も淋しいなんて一つも思わなかった。 それは、きっとこの繋いだ手と、そこに座る人物から与えられたもので。 （熱のせいとはいえ・・・、あんなにワガママを言った後だし。今起こすのも、可哀想・・・という事にしておこう・・・） もし、風邪が移ったら、悪いとは思うものの、その時は根性で風邪を治して、看病してあげよう、と固く心に誓う。 きっと、今までずっとひいたことの無かった風邪を、今というタイミングでひいた自分だから、きっとその時は必ず治るだろうと、勝手な確信に微笑んで、牛尾は少し冷えた体をベットの中に招きいれた。 …後書き… という名の懺悔。 久しく、牛子を書いていないのを、思い出した。 連載の方をちょこちょこ書いているけれども、アップしてないし。 犬猿のリクは来ても、牛子はまず来ないのが分かっているから、うっかりしてたら、1年かいてなくても、気付かないことに気付いた、１月５日。 妄想は、絶えず色んなカプでしてるので、気付かないんだなあ…（アホ丸だし） そんなわけで、久し振りの牛子。 このカプ。頭の中では不幸との代名詞みたいな感じになってるので（笑）、連載ではかなりの確立で悲惨な目にあう2人をラブラブにしてみました。 犬猿も、同様に悲惨な目（っていうか、多分全カプ共通か。お話作りには）にあっているのですが、犬猿はどっこい、苦難を乗り越えるカップルの代名詞みたいな感じなんですよねー。最終的に不幸な結末に終わっても、心は通じ合ってる、みたいな。 牛子は短編ではらぶらぶしてたり、変態にさせて愉しんでいるワケなんですが（笑）、長編になると、必ずすれ違うカップルになります。 多分努力家の癖に報われにくい所とか、天才の癖にあんまり発揮されないところとか。 コンプレックスからのすれ違い、みたいなイメージがあるからだと思います。 そこを行くと、剣紅もそんな感じ。でも、このカプは短文で大概不幸で、長文だと、幸せとまではいかないけど、緩やかな感じ。 芭無はキッパリ半分に分かれます。（私の中で） 芭無もしっかり書きたいなあ。帥墨も書きたいし・・・。 頑張っていこー！ ここまで読んでくださって有難うございました！ 元はかなり先まで思い浮かべてたのですが、機会があれば書きたいと思います。（でもクリスマスの話し・・・どこまで世間と逆行するつもりだ、水野） とりあえず。 子津の『ヤラレタ』と。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |