【七夕】 「ねーづ、くんっ」 一頭分違う体と体重が背後から乗りかかって来て、子津は「わっ」とたたらを踏んだ。 「キャ…キャプテン…っ!いきなりびっくりするっすよ…」 慌てて音楽の教科書を抱え直すと後ろを振り向く。 「…あ、ごめんね?」 にっこりと貴公子とか言われている笑顔で牛尾はおざなりに謝った。 子津は溜め息一つで返事をする。 大体常に牛尾と学内で鉢合わせする時は、前触れがある。女子の歓声が聞こえくるのだ。彼の教室の前でなければ。 聞こえなかったから油断していた。子津は一歩程後ろに下がった牛尾を見上げる。 「どうしたんすか?こんな所で。キャプテン、次の時間は体育っすよね?」 保健の授業になったとは思えない。先程運動場に牛尾のクラスメイトが何か準備をしているのをみかけたから。 「…つれないね。せっかく子津くんを待ち伏せしてたのに。」 「え?…でも…。」 「でも、僕の授業の日割り覚えててくれたから、いいよ」 「……」 誰にでも公平。温厚で人当たりが良くて、完璧。…そんな風に言われてるその実、牛尾は結構自分勝手だと子津は思った。…人の話を聞きゃしない。 ただ、それが自分だけに対してだというのに少し優越感を感じてしまうのだが… 「じゃ、行こうか」 「は?!今から、授業…」 困惑しっ放しの子津に牛尾は「子津くん音楽苦手だよね、だから行こう」と勝手な事を言って手を引っぱる。 「~~~…」 牛尾がなんだか怒ってるような、悲しそうな感じに見えたので、子津はそのままつき従った。 はい、座って。 そう言って連れてこられたのは鍵がかかっている筈の屋上。 子津は快晴というワケでも無いが、まあ晴れている、に分類される空の下、コンクリートの上に腰を下ろした。 隣に座るのかと思った牛尾は何故か子津の背後に、座る。 お互いの背中が寄りかかって、丁度良い背もたれだけど、少し話にくい。 「…ど」 「今日の夜は何してるんだい?」 「…え?今日は七夕っすから、家族で一応天の川の見物とかっすかね?」 どうしたのかと問おうとした先に質問が来て、そのまま答える。 「末の妹が、学校で色んな折り方を習ったって言ってはしゃいでたっすよ。帰ったら父さんと笹をたてなきゃいけないっすね。今日晴れてて良かったっすよ」 とりあえず話を繋ぐ為に今日あるであろう出来事を話す。牛尾は「そっか。子津くんらしいね」と苦笑した。 「………」 やっぱり何かおかしい。 そう思った子津がやはり問おうとすると、牛尾が苦笑したまま呟いた。 「じゃあ、今連れて来て、正解だったね」 「え?」 「天の川は、あの辺かな?」 牛尾の長い指がすっと天を指す。 子津はつられて、顔をあげ、それから星なんて一つも見えない空をぽかんと見上げた。 「…………ええと」 思わず牛尾の顔を覗き込もうとする。しかし体をひねった途端牛尾の手の平が子津の顔を覆った。 「別に、夜じゃなくても7日は7日なんだ。…だからね」 表情を見たくて、牛尾の手を外そうとしたが『ダメ』と言われてしまった。…それで子津は困ってしまった。 「…ダメ。今は情けない顔してるから」 どうも子津にはイベントというものは家族で過ごすものだという刷り込みがある。しかも今までに恋人を持った事が無い。…なのでうっかりしてしまった。 「…あの、今日ウチに来ないっすか?」 「…いいよ。ご家族の迷惑になるから」 「………、じゃあ、僕が会いに行くっすよ。きっと夜空見てたら、逢いたくなるっすもん」 「…本当に?」 「はい。…織り姫みたいにちゃんと待ってて下さいっす」 「…なんで僕が織り姫なんだい…」 それに子津は大きく笑った。 おわり。 ……………………………………… …懺悔… 本当にスミマセン…。 拍手でたまには牛子を!という嬉しい言葉をいただいて、よしきた!と書き始めたのが七夕。 色々と本当にスミマセン… 牛尾がかなりヘタレのいじけっ子になってしまった…けど、子津の顔を覆うのは書いてみたかったのでとても楽しかったです! それでは、また。 水野やおき 2005.07.12 ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |