|
嘘、だろ？ 【柘榴】 「もういいでしょう。離してくれませんか」 確信があったとはいえ、認められると急に動揺が体を走る。 「…ああ」 その動揺を気取られないように頷いて手を離した。 「…では」 そう言ってトイレへ行こうと体を翻すＬは、先程の諦めたかのような雰囲気の断片さえ香らせはせず、月は今までの経緯をまるで夢のように思った。 しかし、月の暴いたシーツには血痕がしっかりと残っている。 (いや…Ｌの事だ、裏の裏を掻いて、下血であっても可笑しくないんじゃ無いか？実はもう長くはなくて、キラである僕に余命を知られたくなくて、とっさに僕を謀った…) ありえない話では無い。 (どっちにしても確かめる必要がある…か？) 結果がいずれにせよ、月が取る行動なんて決まりきっている。心配を顔にのせて心優しい青年を演じるだけだ。 そう自分に言い聞かせて気持ちを落ち着かせると同時にガタン、という物音が聞こえてハッと我に返った。 ドアの前には倒れた時と同じように脂汗を流しながらうずくまっているＬがいる。 「…流河？！」 そこまでなるまで気づかなかないなんてどうかしてる、と月は内心舌打ちしながら駆け寄った。 「…大丈夫？」 声をかけると、元々生気の無い瞳が更に色を失って視線だけ寄越す。 その様子が到底『大丈夫』に当てはまらないものだったので、月はどうするべきかしばし迷った。 「…えっと、どこかに連絡出来る？」 「……………そうですね」 最早喋る事さえ難儀そうなＬに、月は小さくため息をついて「ちょっと待ってて」と一言置いてその場から離れた。医務室の備品をあさる。 ここはもうＬの言う事を信じた行動をとるより無い。 目的のものを取り出して、まさかこんな物に触れる日が来ようとは、と顔をしかめながら、ベッドに戻り、シーツを剥ぎ籠に突っ込むと、酷く緩慢な動作で携帯を取り出しているＬの元に膝を付いてその手を止めさせた。代わりに先程失敬した備品…生理用品をその手に握らせ、顔を見ないようにして抱え上げた。 「Ｌの居場所を知られると不味いだろうから、トイレの後はホテルに流河を連れて行く。それから服とかは僕が用意するから、着替えたら僕が父さんに電話する。流河が具合が悪いから、理由はそれでいいよな？その後は、お前の好きにしたらいい。…事情を知ってて今すぐ呼べるって人がいるならそっちでもいいけど」 「…やはり夜神くんは頭が良い。瞬時にそこまで考えるんですね」 「お世辞はいいから、どっちにするの」 言外にやはり『キラ』を含ませるＬを足早に男子トイレへと運ぶ。 「前者でお願いします」 相当具合が悪く、抱き抱えられなければ歩けず、キラかもしれないと疑っている月の手を借りる屈辱を味わっているくせに、その口元は少し引きつりながらも弧を描いた。 なんていう対抗心。 一種の感服を味わっていると、Ｌの腕が月の首筋に巻きつけられて、ドキリとする。足を下ろしやすいように、との自然な行為が、やたらと心臓に悪く感じられた。 「では宜しくお願いします」 息も絶え絶え、離れて行ったＬの胸は女と思えないくらいに堅かった。 ……………………… ・懺悔・ ホテル編も書きたかったのですが、あまりにも何もなさげなのですっ飛ばそうと思う水野です。 因みに設定的には、テニスの後、総一郎さんが倒れず、第二のキラもまだ現れてないっつー設定です。 NOVEL [0]back |