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僕と手錠とベッドとその心 「…ほんとに、ここまでする必要なんてあるのかな…」 ジャラリ、と鎖が音を立てて、僕の体に接触する。 極力左手は動かさないようにはしているが、裸身に鎖がぶつかる感触はどう考えても不快だ。 どうせバスルームには出入り口以外の逃走経路なんてないのだから、外してくれたっていいのに。 (…まあ、あの竜崎がバスタイムだけとはいえ一人の時間を作ってくれたんだ…。御の字だと思うべき) そこまで考えて、月はフっと苦笑した。なんの因果でキラ容疑者なんかになってしまったか。 まあ、ミサは物的証拠があるから仕方ないとはいえ、Ｌにしてみれば、月にも疑う要素がたっぷりなのだから仕方ない。 (ただキラを捕まえようと思っただけなんだけどなあ…) だが、キラ容疑者とはいえ、世界の切り札と一緒に捜査出来るとは、考え方次第によってはかなりの行幸では無いだろうか？ 大学に通うよりもきっとずっと貴重な体験になるだろう。 そう考えて、よし！とマイナスな気分を切り替えた。 (…ああ、でもやっぱり…) 長期に渡る監禁生活で溜まった欲情を見下ろして、僕はため息をつく。 (鎖は外して欲しかったよ…) 罪悪感に蝕まれるったらありゃしない。 スウィートルームはおよそ『不自由』という言葉とは無縁の場所だ。 けれども、手錠で繋がれた僕らには、この広さが逆に不自由にもなる。 (何が悲しくて、男と同衾しなきゃいけないんだか…) しかも相手は立派な成人男性。 ベッドが広くても、さもしい気分は打ち消せない。特に今朝のような事があれば。 「じゃ、おやすみ」 「はい、お休みなさい。今日はミサさんと間違ったりしないで下さいよ」 「僕が抱き寄せた確証なんて無いだろ！」 「じゃあ、私があなたの懐に潜りこんだと仰るんですか」 フッと馬鹿にしたように鼻で笑われて、目の前の男を殴り倒したい気分に襲われた。 だが僕は温厚で真面目な優等生だから、滅多にそんな真似はしないけど。 「どっちにしろ、お前だってスヤスヤ寝てたんだ。確証もないのに責められる謂われもかわらわれる所以もないね」 「では今日は録画して差し上げましょうか？絶対私じゃないですから」 涼しい顔で挑戦状を叩きつけられて、僕はにっこりと受けて立つ。 「ああ、どうぞ？絶対僕じゃないから」 バチバチと火花を散らしながら、ワタリさんに連絡を取ると、僕らはベッドに腰かける。 「では、勝負です」 (この負けず嫌いが) そうして僕らは眠りにつく。 朝、昨日と同じ格好で目を覚まして確認した答えは…。 (早く本部が出来ないかな…) ドローの勝敗に僕は遠くへ思考をやった。 殴った手は予想以上に痛かった。 (それもこれも、竜崎があんな事をいうからいけないんだ…) 確かに僕とミサはキラ容疑者だが、『僕がキラじゃないからがっかりした』とは、言葉の綾だろうがなんだろうが、赦せない。それも『友達』だと思ってる奴に言われたら、手が出てしまっても仕方ない事だろう。 まあ、世界の切り札を一般人が友達といってしまうのは世間的におかしな話なのだろうが。 (だけど、僕にしてみたら、やっぱり友達だ。少なくともお前の体温が嫌いじゃないくらいには) 昨日やっとベッドが離れて、ここ数日慣れ親しんだ体温が無い事を残念に思ったのはきっと僕だけなのだろう。 全く酷い男じゃないか、竜崎ってヤツは。人の命をいたずらに弄んだとは言わないが、今になって『頑張らないほうがいい』なんて、亡くなった人に対して失礼だ。 間違いなく、人の気持ちを弄んでる。 少なくとも、僕の気持ちは弄んでる。 『友達』という言葉がキラ容疑者への吹っかけだったにしても！ 目の前で竜崎が少し切れてしまった唇を、こちらの心中なんて無視して舐めている。 それにハァ、と溜息をついて、漸く移った本部で、手錠をかけられた状態でも眠れる状態にある己のベッドの足をかけた。 「…人の顔見てため息とはいい度胸してるじゃありませんか」 「お前がそうさせたんだろ？」 「人のせいにしないで下さい」 ふんっと竜崎が鼻息も荒く息をついて、とっととベッドに潜り込んだ。 そして、チラリと布団の端を捲り上げる。 「で、一緒に寝ますか」 「…喧嘩の後のなし崩しじゃ無いんだから」 そう言いながらも僕は隣のベッドに侵入した。 NOVEL [0]back |