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僕と爆弾発言 それは松田さんの些細なドジから始まった。 「いやっ、流石は月くんと竜崎。最初から手錠で繋がっているって感じしなかったけど、最近はそれすら忘れちゃうくらいで…」 繕った笑いと言い訳が尻すぼみに消えて、松田さんは最後消え入りそうな声で「ごめんなさい」と謝った。 事は３０秒前。僕に頼まれていた資料を渡そうとした松田さんが二人の鎖の間を横切ろうとして中途半端に地を這った鎖を引っ掛けた。 その反動で僕は椅子から落ちそうになり、 僕のいいつけでＰＣの置かないローテーブルでティータイム中だった竜崎はというと、椅子ごとひっくり返った。 「ま～つ～だ～……どうしてお前は」 事態を目撃していた相沢さんの声音に、松田さんがひぃ！と声にならない悲鳴をあげる。 「…竜崎、怪我ない？」 松田さんの失敗はいつもの事ながらも、取りなすかのような柔らかな声音で僕は竜崎に声をかけ、体を起こすのを手伝ってやった。 竜崎はその手助けを「いりません」と断りながらも、されるがまま立ち上がる。 「どこか、打ったりしてない？」 「とっさに受け身を取りましたので」 「そう…あ！でも、紅茶引っ掛けてる！早く脱がないと」 がし！ ばし！ ……………。 奇妙な沈黙が降りて、僕は叩き落とされた自分の手を見てから竜崎に視線をあわせた。 「…なにすんの」 「そうですよ！竜崎！男同士なんですから、恥ずかしがる事ないです！早く脱いだ方が」 心配した手を無碍に叩き落とされて、ちょっとばかり不機嫌になった僕は竜崎を睨みつけるようにしてみる。当の竜崎はというと、僕の不機嫌を歯牙にもかけず、腹部にかかった茶色の染みの部分をちらりと奇妙な仕草で持ち上げた。 「これで十分です」 「…ああそう。…赤くなってるけど…、平気そうだな」 焼けていない肌が薄く赤味がかっているが、そう酷いものでは無いらしい。 それを知って僕の不機嫌はまた少し加速する。 「たいした火傷じゃなくて良かったけど、何も叩き落とす事ないだろ？心配したのに」 そこに爆弾が投下された。 「何言ってんですか。レディの服をいきなり脱がそうとするからですよ」 え？ レディ？ レディ、って何が？ いきなりの突拍子の無い発言に、捜査本部はフリーズする。 「な、なーに言ってんですか、竜崎ってば！そんなんで僕らを煙に巻こうとしたって無駄ですよぅ！それに万一竜崎が女の子だったら大変じゃないですか！手錠生活なんてさせられませんよ」 そしてこういう場合、一番に復活出来るのは普段から難しい事は考えない阿呆…もとい天然の特権だ。 アッハッハ、と笑い飛ばす松田さんに皆も微かに乾いた笑いを浮かべている。 もちろん僕も例に漏れず。 そんな僕等にも我関せず、竜崎はというと、心底不思議そうな顔で松田さんに向かって口を開いた。 「煙に巻こうなんて思ってはいませんが、どうして私が異性だったら手錠生活は駄目なんですか？」 「へっ？！そ、そりゃ…月くんがいくら紳士としても…」 「松田さん、騙されてはいけませんよ。この人は『女性のそういう気持ちを利用できない』と公然と言っておきながら、陰では掛け持ちしてキスしたりするような男ですから」 「ああ！ならもっと駄目じゃ無いですかっ」 (松田ぁ～～！！) 僕は馬鹿な事をした自分への罪の気持ちと、松田さんの見事な身の変わりっぷりに苛立つ心と宥めながら、「竜崎」と声をかける。 「…それは、確かに僕に非があるけど…。何も父さんの前で言わなくてもいいじゃないか…。竜崎には心配りというものが無さ過ぎる。負けず嫌いのお前が謝るのが嫌だったからっていって、そんな風に誤魔化すなんて卑怯だぞ」 言った。 言ってやった。 満足げに言い切った僕に、竜崎が珍しく苛立ちの籠もった目を向けた。 「なんですか、自分の事は棚にあげて被害者気取ってんじゃ無いですよ。私が嘘つきで卑怯なのは十分承知していますけど、月くんだけには言われたくないですね。それに私は必要な嘘以外はつかないんですよ。面倒くさい」 「なっ…」 いくらキラ容疑者で確かに女性関係も誉められたものではなかった僕だが、これは酷い。 また取っ組み合いの喧嘩になりそうな所を、イライラした竜崎の視線と声と行動に遮られた。 「そこまで言うなら、目ぇかっぽじいてご覧なさい！」 ぐっ、と竜崎が自分の服の裾を引き下げた。 捜査本部が防音で良かったと思うくらいの悲鳴の反響で、いっぱいになった。 NOVEL [0]back |