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強引。 ぐいっと上着の裾を引き下げられたTシャツには、いつも猫背で気にも留めていなかった胸元の、その膨らみの形が有り体に浮き彫りにされていて、僕達は「うわー！｣とか｢ぎゃー！｣とか｢わわわっ｣という悲鳴をあげると同時にその胸元を注視したまま固まった。 因みに注視してしまったのはけしてエロ心からではない。事態を正確に把握するための手段だ。 そんな僕達を竜崎はつと見回してから、ふんっと鼻息を吐き出しながら「私の勝ちです」なんて、およそ勝ち負けでの問題では無いセリフを口に出して満足げに口許を吊り上げた。 「それじゃ、着替えてきますので。…月くん」 「………」 裾から手が離され、元の姿勢に戻った竜崎の胸元を注視したまま、まだ誰もが今起きたことを信じられずフリーズしている。 当たり前だ。世界の切り札だから、男…と決め付けるのは早計だと思うが、この涼しい顔をした憎たらしい男―いや、女か。ええいややこしい―を目の前にして、男と思えといわないほうが可笑しい。 それに、こいつ。僕の大学の入学式で堂々と『流河秀樹』って名乗ったんだ。そして、この上背と、この容姿を加えたら…。バカらしい。いつもの竜崎の手に決まってる。 「月くん」 ぐるぐると竜崎の促すままに歩いていた僕は、扉の閉まる音と、ガチャリという鍵の音、そして竜崎が僕の名前を呼ぶ声を耳にして顔を上げた。そこには、今までと同じく人の心を忖度することのない意思の強い瞳。 「さ、しますか」 「はああ？！」 しますか、って何？！ 僕らを凍りつかせた張本人は僕を部屋まで引き摺ってくるなりこれだ。 僕はまだ混乱する頭を抱えながらも、体勢を整えようと必死に脳をフル回転させたが、驚きのあまり、僕の声はまだ機能を取り戻さない。 （するって何を？！あ、着替えを？ってゆーか、着替えするのに、なんで僕に宣言することが…。あ、さっきの胸の件で手錠が邪魔ってこと？でもそれじゃいつもと同じように僕と手錠をどこかに繋げばいい…ってそういえば、僕はこいつが着替えているとこみたことないよな･･･。でも、だからといってこいつが女？バカをいうな…！） 「ぐるぐると余計なこと考えたって真実にはいつまで経っても辿り着きませんよ。…というか、まだ疑ってんですか、疑りぶかいですね」 「お前に言われたくはないよ！！」 思わず叫ぶ僕に、竜崎は緩く溜息をつくと、黒以外に色の浮かばない瞳で僕を掬いみるようにして口を開いた。 「だからハリウッドの特殊メイクとか思ってないで、確かめついでにしましょうって言ってるんです、よ！」 ぐい！と強く手錠を引かれて、僕がたたらを踏んだところに竜崎が強烈な足払いを食らわす。本格的に体勢を崩した僕は、竜崎を押し倒すようにしてベッドへとダイブした。 「な、何…っ！」 びっくりして素早く上体を起こそうとする僕の襟首をガッ、と掴まれたと思ったら、不意に唇が重なって僕はめいっぱい目を見開く。 「なっ…ん、んんん～～～」 情けない事に一瞬でパニックに陥った僕の咥内に竜崎のねっとりした舌先が滑り込んで、あからさまに熱が発火した。 ゾクリと背筋に不穏なざわめきが走り抜けて、僕は眉根を寄せる。熱く濃い、大人のキス。経験が少ないというわけではないのに、意識を全部持っていかれて、僕は観念したと認識する前に目を瞑ってしまっていた。 「…ふ、は…、っ」 やっと頭の芯が犯されるようなキスが終わったかと思えば、竜崎の足の爪先がはしたなくも僕の股間をやわやわと揉み上げて、僕はビクリと躰を震わせる。 そんな僕に竜崎はというと「おやまあ、元気ですねぇ」などと暢気な声で告げながら、膝の力の抜けた僕をベッドに悄然と腰を落すように体勢を変えさせ、カチャカチャとベルトをくつろげる。 「さすが、十代」 すっとした開放感と共に、竜崎の意地が悪そうな声が響いて、僕はやっと正気に返った。 「ちょ、まっ…！」 声をかけたが既に遅く、僕の起立は竜崎の咥内に吸い込まれる。 「ウ…ちょ、竜崎…。ダメだって…ば」 直接的な刺激に、僕は正常な意識を手放しそうになる。 「こ…こういう事は好きな…ウアっ！」 いきなり吸い上げられて、うっかり爆発しそうになった息子はソレを仕掛けた本人によって阻まれた。 「何を今更カマトトぶってんですか。あれだけ沢山の女性と関係を持って。ネタは上がってるんですよ。…散々好きでも無い女性とヤっておきながら、私とは出来ないと？」 「…っ、竜…崎」 ぎゅっと骨ばった指が根元を強く圧迫して解放を押し止めている。 「まあ、女性的でないのは自覚してます。ですがこう見えても上手いんですから。…キッチリ天国見せてあげますよ？」 ニヤリ。 挑戦的に笑われて、僕は心の中で叫んだ。 (犯されるーーー！！) END いつもはLばかりが襲われる話が多い気がするので、襲ってみました（笑） Ｌに襲われて、月くんは存分に慌てて欲しい！ という願望。 NOVEL [0]back |