七転八倒堂

駆引き。（※中盤生描写を含みます。）

僕の上にのしかかった竜崎がバッと男らしく上着を脱いで、僕はその痩せた痩躯の思ったよりも豊かな２人の膨らみに目を奪われた。
「やっぱり夜神くんもコレが好きですか」
「ばっ…ちが…！」
僕の視線に気付いた竜崎が当たり前の顔をして自分の膨らみをやわやわと揉む。
それから顔を逸らして真っ赤になってしまった僕に、竜崎がクスリと笑って上半身を屈める。
「可愛いですねぇ。ほんと、随分素直になっちゃったもんです。きっと監禁前の月くんだったら私の方が犯されてましたね」
「僕は、キラじゃない！」
「そう、今はね」
性別がどうであろうと意地の悪い切り込みに僕はぐっと詰まってしまった。
そこで、すっかり頭に無かった少女を思いだして罪悪感に駆られた。
「…僕を動揺させたいだけなら止めろよ。彼女に悪い」
苦み走った表情で視線を逸らしたまま声を押し出す僕の上方から「成る程」と呆れたような声がかかった。
「まあ？曲がりなりにもお付き合いしているわけですしね？でもそれを言うなら、ミサさんと付き合っていた時期に何人の女性がいましたか」
「だから、それは！」
「…それに、月くんの物いいですと、私が本気ならいい…という意味合いに聞こえましたが？『彼女に悪い』はただの言い訳ですよね？」
「…ちがっ、違う！僕は本気でー…」
「本当に違うなら、こちらこそ止めてあげてもかまいません。その代わり…分かりますよね？」
もう二度と、こんなことはない、と竜崎はいたいのだろう。
「…っー…」
『構わない』
そして何故僕はさらりとその言葉を出せないのだろうか。
ギリリと奥歯を噛み締めて返答に詰まっていると、大げさなため息が降って来た。
「その頭はいつからお飾りになったんですか？月くんほど優秀な人が、さっさと自覚しなさい。私そんなに気は長くないですよ」
「…自覚…って、なんだよ」
「まだ言いますか。驚いたのは知ってますが、これは酷い。夜神月らしくない。私が男であれ、女であれ、私に『Ｌ』に興味があるんでしょう？そうじゃないんですか。寝てるアナタは凄く自分の欲望に素直でしたよ？…毎日勃起したもの押し当てられて胸を揉まれる私の身にもなりなさい」
「！！？」
「毎日抜いてる癖にそう毎夜夢精するワケないでしょうが。寝ている癖にいやらしく私の体をまさぐる所を見て、こうしてキラと交代しているのかと手掛かりを掴む為に私毎日されるがままです」
「！！！！」
「更にいうと…」
「もっ…もういい！！」
僕の反応を確かめた竜崎が、また「はあ」と盛大なため息をついた。
「今日皆さんの目の前で服を捲ろうとした時は何の魂胆かと思いましたが…。あんなに私の体を玩具にしておいて、まさか本当に無自覚ですか」
「…ご、ごめん。」
自分が本当にそんな事をしていたとは思えないが、竜崎と一緒に寝るようになって毎日夢精している事実は消しようが無い。
それを僕は手錠のストレスからだと思いこんでいたのだが…。
「ごめんで済めば警察も探偵もいらないんですよ。まあ私は探偵ですから？一回は一回で許してあげない事もないです」

で、どうしますか。

竜崎は容赦なく畳かけた。

僕がとった答えはというと…、
結局、竜崎のよいような展開に持ち込まれてしまった。まあ、側から見れば、美味しい思いをしているのは僕だと言われそうだが。
「…ん…はぁ…」
僕の上で腰を揺らめかせている竜崎の胸を揉みしだきながら、熱く霞みがかった頭の中で『成る程、確かによく馴染んだ感触だ』と思った。それは即ち、僕が寝ながらにして竜崎をいいように扱っていたという事に他ならない。
「…う…あ…竜崎…も、ヤバい」
確かにどこもかしこも女性的なまるみに欠ける竜崎だがその体に不釣り合いな２つの乳房と、絞り取るように絡みつくそこはいっそ凶器と言っても語弊がないくらいにヤバい。
「…く、ん…。いい、ですよ。濃いの、下さい…ね」
「えっ…？！」
驚いて竜崎の胸を掴んだまま停止してしまった僕に、竜崎は目を眇めてふふんと唇の端を上げると、竜崎の胸にやった僕の手をゆっくり外し恋人のように指を絡めた。
「今頃気付いたんですか？大丈夫ですよ、認知しろなんて言いませんから」
「ばっ…！そういう問題じゃ」
「確かに月くんはそういうつもりじゃ無いにせよ、ゴム無しでしておいて、そういうつもりじゃないっていうのがもうバカな話しなんです。例えゴムをつけていようが避妊なんて完璧なものじゃ無いんですよ？出来る時は出来ます。避妊するしない以前にその辺モラルが低すぎます。そして確かに避妊道具は世間的に必要ですが、今回は産む私がいいと言っているので、いいのです。月くんは強制同意で」
「な…な…」
なんだ、その単語はー！
「世界の切り札といえどそう自由でも無いんですよ？この遺伝子を残せ、って催促が山のように来ます。全く持っていらぬ節介ですが…、もしもこの先作らないといけないとするならば、せめて相手は自分で選びたい。月くんとの子供なら欲しいと思う」
「……キラかもしれないのに？」
「キラかもしれないのに。」
とても大変な事を堂々と宣言して、竜崎がゆっくりと上体を倒して来る。
「竜崎の…バカ」
「その割には萎えませんね」
体が密着して、唇が重なった。

「りゅ、竜崎ー！！！一体今まで私達を閉じ込めて何をしていたんだ！？」
事を終えて、いまいち顔を合わせ辛いと思いながらも皆のいるモニタールームに戻らずにいられないわけもなくて、まるで葬儀に向かう時にしかしないくらいの鎮痛な面持ちで戻った僕達への第一声が父の叫び声だった。
「…え、閉じ込め…？」
結局ゆうに２時間ほど休憩を取らされて、最終的には合意の上とはいえ、竜崎を手込めにした僕は俯いた顔をとっさに上げた。
(『閉じ込めて』って竜崎…)
本当にやる事にそつが無い。どうりで誰も邪魔をしに来ないわけだ。
今の心境を表すように竜崎の一歩ほど後ろで歩みを止めた僕は、斜め後ろから竜崎の横顔を窺って、竜崎に噛み付いている父の表情をチラリと窺う。
２時間も閉じ込められっ放しの(特に父の)心境を思うと居たたまれない。
「ああ、夜神さん、すみません。息子さん、お借りいたしました。閉じ込めてしまって申し訳ないとは思ったのですが、松田さんの言を聞くに、あのままだとどうもこの生活を送るには分が悪そうでしたので、さっさと決めこませて頂きました」
「き…決め…」
父の声が震えている。あわす顔がない。
「上手くいっていれば、今にも新しい命が芽生えてます」
「………！！！」
ばたん。
「きょ、局長ー！！」
「と、父さん！」
父が泡をふいて倒れて、ようやく僕は父の顔を正面から見やった。
キラ事件で、そして息子がキラ容疑者として拘束されて心労ばかりが募っているやつれた顔を見て、僕の心に罪悪感が沸々と沸き上がる。
(ごめん、父さん…。誘惑にすら勝てない息子で…)
父のありようを見ると、未成年の青年を一方的に竜崎がいいようにしたようにも見えるが(実際半分はその通りだが)箍を外して２回３回と竜崎に迫ったのは自分だ。
半ば強引に竜崎に対する僕の気持ちを悟らされた今では、最早父には『ごめん』しか言葉がない。
(…だけどもうちょっと言いようがあるだろ…。竜崎には気使いってものがたりない…)
他の捜査員は皆、父に気を使いながらも呆気に取られて言葉もないようだ。
「…は、はは。なんていうか、常人離れしたとこは腐っても竜崎っていうか…」
「失礼な、腐ってませんよ」
「す、すみません。誉め言葉のつもりで…。と、いうか竜崎…本当に女の子なんです…ね」
どんな状況にもいち早く適応する松田がしきりにうんうん頷いている。
「あっ！ミサミサはどうするんです？」
「はっ！そうだ月、お前弥は…」
「そう言えば、認知しなくてもいいとは言いましたが、どうしますか」
復活した父も含めて、いきなり全ての視線を集めた僕は冷静さなんて保つ事も出来ずに爆発した。
「竜崎とちゃんとするに決まってるだろ！！」

満足げに口角を上げる竜崎に、僕は敵の姦計に嵌ってしまった事に気がついた。

END

すまない、ミサ…。
久しぶりにこっちをＵＰ－。

NOVEL

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