「お前らはいらないのに」

なんて残酷な言葉だろう。



【僕らの青空】




また、体操服がなくたった。
メロは小さく溜め息をついて少し考える。
どうやら、ターゲットは完璧にニアからメロに移ったようだ。
3年になって、ニアにちょっかいを出していた奴らはメロと同じ教室になった。
そして相変わらずニアとメロは別々の教室。能力的に分散しなきゃならないから、きっとニアと同じクラスになる事は無いだろう。
(それにしても、よくやるよ)
確かに、僕は頭もよくて、運動神経も抜群で、女の子にだってもてるけどー…
幼稚だとしか思え無い行為に、メロは半ば呆れて探す気も半減してしまう。
でも、探さないワケにはいかないので、辺りをぐるっと回ってみた。
奴らは、悪戯が見つかる事をまだ恐れ、かつ反応を楽しんでいる。なので、自分の目の届く所に置いている確率が高い。
以前ゴミ箱に捨てられていた事があったが、ゴミ箱は止めとけよ、と思わずにはいられない。
今度そんな所に捨てられていたら、すぐにぶっとばしてしまいそうだ。
「メロ」
「ああ?ニア?」
ここだ、と歩き回るメロを追う視線の変化で気づき立ち止まった時、ニアがひょっこり顔をだした。
「次は体育ですか。実は先程図書委員の方に会いまして。本の返却日が過ぎているそうですよ」
「…あ。そうそう忘れててな。で、今日の昼休みに返しに行こうと思ってたんだ。悪いニア、今から返しておいてくんない?」
「…仕方ないですね…いいですよ」
ニアが呟いて手を出すので、メロは自分の席から借りていた本を渡す。
どう見ても上級生向けの、それもぶ厚い本を。
「なんだ、売っちまったんじゃ無かったのか〜」
「…何の話だ?」
まだまだ高い子供の声で目一杯凄む。
僕は賢い。それなりの自負もある。だから纏える雰囲気というものがある。
僕は独りだ。ニアもロジャーも先生達もいるけど、家族じゃ無い。だからこそ研げる牙もある。
「…っは、俺はてっきりお前が金欲しさに売っちまったと思ったんだよ。貧しい孤児にしてはお前ら身なりいいもんなあ?」
少しだけメロの眼光に怯えた風の同級生は、それをゲラゲラと笑い飛ばす事で払拭したらしい。
「……………」
いっそ素晴らしいと褒めてやりたいくらい(勿論皮肉だが)の揶揄にニアの視線も僅かに鋭くなった。以前僕等はLに聞いた事がある。
僕等の暮らす孤児院は、ワタリの特許料やLの仕事のお金で賄われている。それで、彼等は僕等に何不自由無いー…とまではいかないが、実際他の院よりも充実した生活をしていた。
充分な書物・優しい先生。綺麗なシーツにLが見込んだ質の良い遊具。
もちろん、贅沢はしてないけれど温かい料理に、僅かではあるがおこずかいだって貰える。
なのに着るものに関してだけは、丈夫で綺麗なものではあるが、簡素なものが多くて、別にメロやニアはどうとも思ってはいなかったけれど、世界の探偵と呼ばれているLは、もう少し身なりの良い服を着ていたっていい筈。
それをLに問うとLは笑って答えた。
『私達の価値は着るもので決まる訳ではありません。幾ら豪華に着飾ったとしても中身が伴わなければ滑稽なだけです。別に華美がいけないと言っている訳では無いのですが、私達は私達が生きる上で、作って下さった人達の努力とその意味を知り、必要なものを選べばいいのです。私は必要なものを選び、これをもたらせてくれた方々に感謝して着ているので、これはとっても素敵な服なのですよ』
皺も気にせずにいられるし、動きやすいですしね…とLはそう言って笑った。
『だから、皆には皆の個性を考えた上で一番良いものを選んでもらっているのですが…何か要望があれば先生方に仰るように皆にも言って下さい。』
なんて言われれば、僕等は俯くしかなくて。
支給される服一着にそんな意味があるなんて知らなくて…。
メロはやはり支給されたアイロンのパリッとかかっているブレザーの裾をグッと握り締めて奴らを見る。
「…撤回しろよ」
誇りを傷つけられた気がした。何より、総ての孤児を嘲笑われた気がした。
もし、借りたものを売り払ってしまった人がいたとしよう。
必要に迫られて、罪を犯したとしよう。
それを、どうして嘲笑う奴がいるのだ!
両親が揃ってぬくぬくと暮らしている奴らがぬくぬくと暮らしていけるのは、自分のお陰でも無いくせに。
人の事も思いやれずに努力もせずに見下す馬鹿がいるのかー…!
許せず、メロは一歩近寄った。
メロとニアの怒りの形相に彼等ははしゃぎ、騒ぎたてる。
余程今まで何の反応も無かったニアの反応が嬉しかったらしい。
…ー本当に、反吐が出るー…。
「っは、人をいたぶる事ばっかに、こそこそと人の物を隠したりする泥棒に言われたかねぇな。それに服も泣いてんぜ?モノの価値も分からねぇ豚に着られてんじゃ、精がねぇ…ってな?…なあ?ニア」
「全くもってその通りですね。思慮する脳も持って無い豚以下、自分方がしているからと言って人まで物取りなどと仰るウジ虫と口を聞くなんて汚らわしいですがー…」
「っ!!俺達が泥棒だって?!っへ!これだから孤児は嫌だね!なんで俺達がやったってゆうんだよ!お前の汚い体操服なんて触りたくもない…っ」
真っ赤になって所々知らない言葉もあったからだろう、喚き散らす奴らに僕とニアは薄く笑う。
「おや?誰が体操服なんて言いました?メロ、貴方一言もそんな事言ってませんよねぇ」
「ああ。しかも動かぬ証拠があるんだ、これが。『おっと、足を引っ掛けた!』」
ニヤリと笑って、メロは奴らの机の一つを蹴っ飛ばす。
散らばった机の中身から、それは出て来た。
「んー?何で『触りたくもねぇ奴の体操服』がお前の机から出て来るんだァ?」
「チキンでその上ウジ虫とくればこの程度が精一杯という所ですかね。両親が揃っていた所で蠅の子はウジ虫。その程度のものです」
「親がいりゃ偉いってワケじゃねぇんだぜ?報告してこってり絞られてみるか?あ?」
彼等はカタカタ震えながら、真っ赤になり、睨む。
これが学校に知れれば、奴らの親は奴らの親だけあって、相当息子らに酷くあたるであろう事が容易に想像出来た。しかしこちらはこちらでLが心配するだろう。そして悲しく思うだろう。
ニアじゃ無いが、それは嫌だと思った。
「心配しなくても、弱いモノ虐めは嫌いでね」
だから、僕はひょいっと体操服を拾い上げて、ニアと一緒に教室を出ようとする。

その背中に凍えた声が突き刺さった。


「お前らはいらない子供なのに…っ!」


なんてなんて
理不尽で残酷な言葉だろう。


…………………
…懺悔…
レッツ懺悔ターイム!
何かすみません。偽物ですみません。ニアとメロが仲良しですみません!

ニアとメロのブレザーって何だか凄く萌える管理人でした。
書いたのふた月は前なのに、早くアップしろって話です。

2005.11.26


////next stage/////

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