早計でした…。

【悪魔の条件】


駅前のブティック。エルは殆ど買い物に出る事はない。必要なものは殆どワタリが揃えてくれる。
それが女物の洋服店ならば更に行く確率は低い。興味もなかったので、メロと二人で店に入ることがどういう事か、あまり考えてなかった。
メロと店内に入った瞬間の異様な目。
わりかし肝の据わったエルでも思わずたじろいだ。何だか入ってはいけない空間に入ったようだと思った。
でもそれは当たり前だ。いきなり金髪の男と背格好の悪い男が入ってくれば、驚いて異様な目で見るのは至極真っ当な反応である。
「め、メロ…」
でましょう、と伝えたかったのに、メロは我関せずといった体でずかずかと奥へ入っていってしまう。自分の事なのに、外で待ってますとも言えず、エルは仕方なく後をついていった。
「…贈り物ですか?」
戸惑った客を宥める目的もあってか、店員がそそくさとやって来た。男二人で入ってくる事自体がおかしいが、一応目的の見当をつけたのだろう。
エルは出来るなら「はい」と言いたかった。
しかし、それよりも前に、メロが「いや」と答えた。
「こいつにあうサイズの服を探してる。着替えて行きたいんだけど?」
エルは顔から火が出るかと思った。


「これなんかいいんじゃねーの?」
オレの好みじゃないけどな、と言いながらメロが一枚のワンピースを差し出す。
おかしな二人組みではあるけれど、メロの美男子ぶりが効いているのか、追い出される事もなく、二人は小さい店内をさらっと見物した。
「ああ、ではこれで」
エルは早く視線の渦から逃げたくて、メロの差し出された服を持って試着室に飛び込むようにして逃げ込んだ。
「靴とかもいるのか…」というメロの呟きが聞こえて、邪魔者がいなくなったからか、店員が再び近づいてきたようだった。
はあ、と思いっきり溜息をつく。離れた街を選んで正解だった、とエルは思う。こんなのがバレたらどんなことになるやら。
そして、びらっと渡された服を摘み上げる。
今更だが、これを着なければならないのだろうか?
白いワンピースはどこかタイトな感じのするフリフリしたものでは無かったし、白はエルの好む色でもあったが、いざとなると抵抗感がある。
しかし、今更何も買わずに出るわけにもいかないし、これは嫌だと言って余計ハードルがあがっても、困る。
仕方なくエルはもそもそと上着を脱いで、ワンピースに袖を通す。
「おい、もういいか?」
「え?あ?ま、まだ…です!」
メロが店員との談笑を割って声を上げる。エルが悩んでいる間に随分と仲がよくなったようだ。しかもこの声の数からして、店の客も取り込んでいるようだった。
慌てて、前のボタンを閉める。鏡を見て今すぐ脱ぎたい気分になった。
「おい、開けるぞ!」
「え!?ちょっ!メロ!!」
せっかちなメロがざっとカーテンを開ける。もしまだ着替えていたらどうするつもりなんだと思うが、そこがメロなのかもしれない。
「んー?オラ、ちゃんとこっち向け」
背中越しに振り返ったエルの腕をメロは無造作に引っ張って前を向かせる。
泣きたいなんて思ったことなどないエルだが、今ばかりは少し泣きたいと思った。
ちらりと鏡で見た自分は、殆ど、女装した男だった。店員や客の見ている前でこんな醜態を晒すなんて!
「んー…、何か、なぁ…」
「申し訳ないですけど…っ」
「ああ、お前痩せてっから…さらし取ればいいじゃねえ?」
「な!?」
メロの声音を聞いて、反射的にカーテンを閉めて元の服のまま出ると言い掛けたところに、暢気な声と不用意なメロの腕が伸びてきて、プチリと一番上のボタンを外された。
客と店員も一様にぎょっとした顔で二人を見ている。
メロ以外が固まった空間の中で、やはりメロだけが自由だった。
「おっと、ちょっと失礼」
シャッとカーテンを閉めると、固まっているエルのボタンをみっつほど開いて、胸のさらし布をさらさらと解いていく。
何をされているか分からずに、真っ白になっているエルの前で、メロは「おお」と少し笑ってまたボタンを戻してゆく。
「まったく無いのかと思ってたけど、そーでもねーじゃん。後は髪だな。おい、姉ーちゃん、それ、貸して」
ざっとカーテンを開けて、まだ固まっていて、ロボットのような動きの店員の手からカチューシャを受け取ると、エルのサイドの髪を耳に掛けながら、カチューシャを宛てる。
「ま、こんなもんだな」
少し離れて得意げそうにしているメロの周りは、今度は目が点になっている。
「後は何か履くもん用意してくれっかな」
店員に命令して、彼女が少し上擦った声で「はぃ」と返事した数秒後、エルは怒りと恥ずかしさのあまりに滲んだ涙を目尻に湛えてフルフルと震え、キッとした目でメロを見据えると思いっきり腕を振り上げた。
「何するんですか!!この助平〜〜〜〜!!!!!」
バッチーン!と大きな音が店内に響き、店内は凍りついた。
先ほどまで少し奇妙な青年が、女の子に変身して、美青年を平手打ちにしたのだ、目まぐるしい変化について行けるものがこの場のどこにいようか。
しかし、彼女達は一様に「何だかいい思いをした」と後で思った。


Next second stage


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ひとこと。

ちょっとしたシンデレラストーリー?(笑)
酷い王子もいたもんだ(笑)
自分勝手なメロとそれに翻弄されるLの構図がとても好きです。
半年以上放置していてすみませんでした!!!
update2007.09.15




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