あ、いつもの夢だな、と思った。

【残酷ピエロを幾度も殺し】


 柔らかいベットの軋みに、隣に眠るもう一つの鼓動。心地よい体温に、懐かしい匂い。
 現実的に味わった事がない感覚なのに、何故か体は覚えていて、月は夢の中でだけ、それを時折体験する事が出来る。
 そしてそれは、いつもの霧の中を彷徨う夢と同類のものだと納得する。何故かといえば、やはり声の主が分からないのと同様に、夢で一緒に寝転がる、隣にいる人物の存在が空ろであるからだ。
 何故か、その夢を見る時に限り、僕はそれが夢だと分かりきっていて、そのあまりにもいい夢が、醒めなければいいのに、と毎回思うのだが、いつもそれは目覚ましによって叩き起こされる。
 今日もまた覚醒の時間が近づいているようだな、と思って、少し苛立つ。
 霧の中の、僕の隣の体温の主は、一体誰なんだ?
 普通、これほどの夢ならば、目が覚めても、この現実のような存在感は存在するはずなのに、それは一度も叶った事がない。
 ピクリと指先が動いて、今日もまた「あ、目が覚めるな」と思った。
 しかし、いつもなら消えていくはずの存在感が、今日だけは消えてゆかない。
 もしかして、もしかして、もしかして。
 ひょっとすると、絶対に有り得ない、別の世界の僕として目を覚ますのだろうか?
 そう思って目を開けた。
 白い頬、赤い唇、今はまだ閉じられている、黒耀の瞳――。

「月くん…」

 Lの唇が微かに震えて、紡ぎだされる幻のような夢の声を、月は確かに聞いた。
 驚きに、一気に頭の中が覚醒する。
 これだ、と思った。
 この声、存在、この魂―。
 月がLの顔を凝視していると、すぐにLの瞳がはっと開かれた。
 その瞳の奥の真実を見つけだそうと、見つめていると、すぐにそれは逸らされて、それから、再び現実に戻される宣言を聞いた。
「容疑者らしき人物を見つけました」

「京都府地方検事、魅上照―。おそらく関東には出張で来ていたものと思います」


→Next second Stage

///中書き///

2006.08.31


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