季節は巡り、
やがてまた夏が来る。


【ひぐらしの鳴く頃に】


入道雲が、真っ青の空に映えていて、
高く覆い茂った蒼がザワザワと少しだけ冷たい風を送った。
蝉の声がオーケストラのように鳴り響く。
「………」
合掌し二人で黙祷を捧げた後、月はゆっくりと目を開けた。
「祖母ちゃんやえるのお祖父さんに逢いに来るのは久しぶりだ」
「…私は毎年来ていますが、月くんと一緒なのは初めてですね」
木立が作る日陰の中、静かに振り返る。
真っ白な長袖のTシャツにジーンズといった軽装のえるが呟いて、そしてゆっくりと瞼を開くのが目に入った。
ドライブに行こう、とえるを誘い出して、数時間。
「どこにいくんですか?」というえるの質問に「内緒」と答えて連れてきた先は、月の祖母とえるの祖父が眠る―…二人が出逢った土地だった。
あれから五年の歳月が過ぎ、えるは月の傍にいる。
一度は魅上からも月からも離れて、えるは自主退学の道を取った。
大学進学を一つの区切りとして、月の元に戻って来て以来、二人の友好関係は続いている。
(友好関係、ね…)
何故、友好関係なのかと聞かれれば、失笑を買うような理由しかお答え出来ないと思う。
…大事過ぎて、触れられなくなってしまった。
それが理由だ。
傷つけたくなくて、一度手を出したら止められなくなるのが怖くて、キスすら、手を繋ぐことさえ…していないのだ。
自分自身、笑ってしまいたくなるけれど、未だに月は自分が恐ろしい。
色んな経験を経て、穢れる事なく、綺麗になるえるを手に入れるのが恐ろしい。
(…でも…)
このままでいられる筈も無い。
「お祖父さん、えるを僕に下さい」
パン!と両手を合わせて、はっきりとした口調で声に出す。
「え?」
「結婚してくれないかな?僕らが大学を卒業したら」
「…私と…?」
振り向いた顔が心底驚いた風なのに、月は苦笑する。余程信用されていないのか。
「お前以外に誰がいるんだよ。…幸せにするから」
「…私…」
「…愛してる、える」
一陣の風が吹き抜けて、木立から光が差した。
艶やかな黒髪が光を弾いて、陶器のような白い面が浮き彫りになる。
(ああ、初めて逢った日によく似ているな…)
月が恋に落ちた、あの蝉の鳴く、夏の、日。
目を閉じずとも、月の視界には、月が恋したあの日のえるがいて、
たくさんの、
本当にたくさんの思い出の日々が、鮮明に懐かしく胸を焦がした。
唇の隙間から、零れ落ちるように、月は今一度、告白した。
ありったけの思いをこめて。
「…愛してるよ、誰よりも」


その想いの丈をうけて、えるが少しして微笑んだ。

手が伸びる、その手を引き寄せる。



「私もです」



Fin


…………………
■有難うございました!■
僕達は手を繋ぐ。
今までの僕達と、未来の僕達を繋ぐために。
突き抜けるような青空の下、光の祝福を受けて、手を繋ぐ。


長い間お付き合い下さり、有難うございました。
おかげさまで、第2部無事に終了いたしました!!
最後はワリと短くなってしまって、大変申し訳ない、といった気持ちでいっぱいです。限定公開してこれかよ!というお声が聞こえてくるようです。うふふ…(現実逃避)

この後、二人はらぶらぶで、またついうっかり車の中でプレイオフです(笑)
きっとえるが「触って欲しいです」って言って、月くんが「運転中なのに勃っちゃったよ、バカ」とか言いながら、突入です。
終わった後、「ワタリさんに泣かれるかもね。嫁入り前なのに」とか言って、えるが「テニスコートよりもましだと思います」とか言っちゃうんだ。

ひぐらし〜は今までにない程コメントもいただけて本当に楽しく作らせて頂きました。
恋愛だけに絞って書いたパラレルだったので、とても面白くかけたとも思います。
その後の二人や、魅上や、1・2部で飛ばした月くんとえるの中学時代の話なんかも想像はあるので、いつか機会があれば書きたいですね!
(もしかしたら3・4部(またもや波乱万丈)なんかも出来るかもしれませんが、予定未定!(笑))
一応、現在のメルフォのお礼文が月とLが大学に入学した頃の照視点のお話になっています。もしよければ一緒に読んでやってください(^-^)

最後まで本当に有難うございます。

それでは
支えて下さった、皆様に愛を込めて!
また、他の機会にお逢いましょう!

dataup2007.03.25
水野やおき拝


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