犬飼はその不可思議な手紙を手のひらで握りつぶした。
 裏には『てんごくから』、と書かれている。
「なんだよ・・・・これは・・・」
 呟き、犬飼は握り潰した手紙を取り敢えず机の中に仕舞おうと引き出しを開けた。
「・・・・この手紙・・・・」
 懐かしい匂いを孕んだ手紙。
 犬飼は逡巡して引き出しを閉めた。
 不意にぱたた・・・と音がした。
 手紙の文字が滲む。
「この・・・・バカ猿・・・・」
 犬飼は熱くなった目頭を隠すように掌で覆った。
 そこからは隠しようも無く涙が溢れて消える。
 手紙の上に降り注いだ。
「余計な・・・お節介、しやがって」
 鼻の奥が堪らず痛かった。
「何が『てんごくから』だ・・・・」
 そこに行く権利さえ放棄したくせに。
 素直に『あまくにから』と書けば良かったのに。

 指が小刻みに震えた。
「猿・・・・」
 何時の日か触れ合った唇が戦慄くように震えた。
「・・・お前の願いは叶えてやれねえ」
 既に聞こえない存在に向かって語りかけた。
「お前の魔法はかかってやれねえ・・・」
 一度魔法が成立したのなら、もう傍にはいないだろう。
 それでも、熱い涙とそのままに、言葉を吐露する。
「でも、約束してやる」
 止まらない目尻から伝う気持ちを覆う事を止めて犬飼は手紙を見つめた。
 ぱたたた。。。と手紙は濡れていく。
 けれども構うつもりもない。
「お前を忘れる日はねえ。

 お前との約束を忘れる日はねえ。

 投げれる限り、投げ続けると約束する。

 お前が俺の球を打てる限り打ったのと同じに。

 約束する。

 誓う」


 手紙はいつでも、机の真中に座り続ける。


終り。


////後書き/////

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