■【タイム・リープ〜凍結氷華U〜】■
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それから数日後、鳥取大仙の中腹で粧裕達を見つけた。 【タイム・リープ】 〜凍結氷華U〜#5 「粧裕っ!」 バラバラというヘリの航空音を聞きつけて、シェルター仕様の避難所から数名の大小の人影と犬が飛び出て来て、月は窓にへばりついた。その中に見覚えのある面影を残した女性が一人佇んでいる。 竜崎を守ると決めてからも最後の最後まで不安だった粧裕への気持ちが、その顔を見ただけで吹き飛んだ。 「粧裕っ!!」 下降体勢に入ったヘリが着陸するのを今か今かと待ちわびて、地面すれすれの所で、飛び降りる。 成長し、月の年を追い越してしまった粧裕が、月の顔を見て目を見開いた。 生きてはいないと思っていた兄の姿を認めて、幽霊でも見るようにただ黙って眺めている妹に、駆け寄って抱きしめる。 「無事で…良かった…」 「おにいちゃん…?」 「遅くなって…ごめん、粧裕」 呆然と抱きしめられていただけの粧裕が、月の言葉にぶるりと震えて縋り付いて来た。泣き虫だった、中学生の頃みたいに粧裕が泣いて、月はもっと早く来てやれればよかったと思った。 「ごめん、お兄ちゃん。それと…えっと…」 「ま、松田です…!小さい頃に一度会ったよね…あの時はこんなにちっちゃかったのに…こんな綺麗に…」 泣き止んだ粧裕が目尻を拭いながら視線をやって、松田が顔を赤くしながら答える。そういえば、別たれた過去の未来にも(ええいややこしい)こんな事があったよな、などと松田を一瞥する。あの時は粧裕が軽くあしらっていたが、生き残りの少ない今はひとまわりくらいの歳の差なんて正直あまり関係ない。粧裕を害なす危険人物だと腹に決めてさっさと話題を摩り替えた。 「そう、父さんの部下の松田さんだよ。粧裕、父さんは無事だよ」 「本当?!…良かった…」 あっさりと粧裕の興味を松田から切り離すことに成功する。松田が所在なげに「あのー」と呟いていたが、粧裕の身の安全のために一切無視だ。そして月はにっこりと笑って最愛の恋人を紹介するために続けた。 「うん。時期が来たら、また会える。…それで、こっちが竜崎」 ヘリを降り立った竜崎が、月に紹介されてペコリと会釈をして口を開いた。 「…初めまして、粧裕さん。…よく頑張りました」 「…えっ…、あ、はい///」 最後に少しだけ笑って付け加えられた言葉に粧裕の頬が薔薇色に染まる。月の顔が一気に歪んだ。 「おい、竜崎…」 見た目は奇妙奇抜だが顔が整っていないわけではないし、心地の良いアルトの声と、猫背ではあってもかなりの長身の竜崎は十分に『男性として』魅力的だ。更に子供じみてもいるが落ち着いた雰囲気のある竜崎には、どこか不思議な吸引力があって、そんな人物に優しく微笑まれて労われれば、若い男が久しい昨今、粧裕が頬を赤らめてしまうのも別段おかしなことではないかもしれない。 しかし、年相応の異性と会う場面が少ないとはいえ、この美形の兄を目の前にして、得体の知れない男(実際は女だが)に頬を染めるなんて我が妹ながらどうかしている。 (てゆーか…) そんな事よりも、こんな時勢とはいえ一発で粧裕をたらしこんだ竜崎への小憎らしさに月の目が据わる。 はっきり言って面白くない。 「なんですか」 「人の妹に粉をかけるなよ…(僕という者がありながら)」 「…的を射ない嫉妬は醜いですよ、月くん。言いがかりはよしてください。ところで粧裕さん」 「はっ、はい」 あまりの腹立たしさに絶句している月を余所に、竜崎が粧裕に向き直る。粧裕は先ほどまでわんわんと縋りついて泣いた月の体をぐいっと押しのけながら(現金なものだ)、しゃんと背筋を伸ばした。 「生き残りはこれだけでしょうか。相沢さんの姿も見えないようですが…。一緒ではないのですか?」 感動の再会に水を差さないようにという配慮だろう。少し離れた場所に3人のお年寄りと、その傍にへばりついた5人の子供たちと目が合う。確かにその中に相沢の姿はなかった。 「あ、もう一人私よりも年上の女性の方がいらっしゃいます。その方と相沢さんは皆で一緒に移動できる安全な道を探しに出掛けてらっしゃるんです。もうじき戻られると思うんですけど…」 「今日中ですか?」 「そこまでは…。ただもう出掛けて2週間経つので…」 粧裕の言葉に竜崎の視線がヘリに向く。それで月は口を開いた。 「とりあえず、建物の中に入ろう、竜崎。ご年配の方もいらっしゃるんだ。寒さが堪えるだろ。粧裕、ここにヘリを格納する場所ある?」 「うん、えっとね、なんか広い場所があった。」 「じゃあ、ヘリをそこに格納しよう。詳しく場所教えてくれる?」 これでいいだろ?と目配せすると、竜崎が「では」と頷く。 それまで事態を見守っていた人々に、月は安心させるようににっこりと笑いかけた。 「初めまして、粧裕の兄の夜神月です。これからの事は建物の中でお話します」 ≪back SerialNovel new≫ TOP |