■【Lovers】■ 07

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 英

問答無用で朝が来た。
イギリスは「…うぅ」と往生際悪く唸ると上掛けを被ったままベッドを降りる。ずるずると布団を引きずり扉に耳を当てた。
(…キッチンにいるな…)
奴は既にキッチン入りしているようだ。時々物音が聞こえて来る。
(…結局、朝飯…作れなかったな…)
1日くらいと思った休暇も取れなかった。
(…取れなかったっつーのは語弊があるな…)
取れなかったのでは無い、取らなかったのだ。仕事自体は予定以上に消化してしまって、会議後の休暇が増えてしまったくらいだ。
(まぁ、朝早くに出社して残業もしたらそうなるよな…)
だから朝食を作れなかったのも自業自得なのだ。せっかく一緒にだったら料理をしてもいいと言ってくれたのに。
(バカだよなぁ…)
好意をもったが故に臆病になるなんて。それが原因でやりたい事が出来ないなんて。
愚かだと自嘲しても何も変わらない。自分に対しての嫌悪が募るだけだ。
はぁ、とイギリスはため息を付き踵を返した。何時までも布団を被ったままドアの前で聞き耳を立てているワケにもいかない。
こうしている間にもプロイセンが朝食を作り終えているかもしれない。冷めるまで待たせるのは流石に悪いだろう。
(…多分呼びには来ねぇだろうしな…)
この間の一件から、プロイセンは自分からは近寄って来なくなった。
呆れられて嫌われたのでは無い、とは思う。…多分、恐らく、希望的には。
しかし何故プロイセンはあの時イギリスから離れて行ったのだろう。いっぱいいっぱいの時には思いつかなかった疑問が今頃頭を過る。
イギリス的には助かったけれど、普通あの場面で引くだろうか。もしかして、プロイセンも戸惑っているのだろうか?それとも、イギリスがいっぱいいっぱいなのを汲んで引いてくれた?
(……いやいや、流石にそれはねえ…よな?つか、…アイツの方は俺の事どう思ってんだ…?)
始まりが始まりだから、キスをしてもセックスをしても約束の延長線上というか、プロイセンにとってはただ単純に性欲の処理だとか、、、そういう風に考えるのが普通だろうけど、
先日キッチンでされたキスはなんていうか、もっと真面目な、もっと真剣な何かを感じたように思った。イギリスがドキドキしているから、そう勘違いしただけなのかもしれないけど。
(俺の事好きだったりしないかな…って何考えてんだよばかああああ!!)
顔に朱がのぼる。恥ずかしい、恥ずかしい、死にたいと思いながら頭をぶんぶんと振った。これではイギリスがプロイセンの事を好きみたいである。期待しているみたいではないか。好意はある、性的な対象としても見ているが、断じて惚れたとか、好きだとか、そんな意味ではない。…多分。なんだか先日も惚れたかもとか同じような事を思った覚えがあるが、しかし感情がより深刻化しているようだ。考えるだけで、心臓が逸って血も沸騰しそうだ。
(もうやだ!もうやだ!もういやだっ!!)
恥ずかしい、死にたい、苦しい、ドキドキして、苦しい。泣きたい。
火照る顔を手の平で必死に抑えつけて、治まれ治まれと念じる。早く、早く平常な自分に戻りたい。こんなもの感じずに、ただ、今の状況を楽しめるくらいの余裕が欲しい。
(好き、とかじゃねぇ。愛して欲しいとか言語道断だ…!だって、だって俺は…)
ぎゅっと心臓付近の服を握り込む。
(大丈夫、好きとか、無い。そりゃ、したいとは思うけど、そんなのは好意の延長線上っていうか…、生理的な処理をするのにはやっぱり嫌いな奴とはしたくないっていうか…兎に角、俺が望むのは、最初みたいな感じだよ。もっと気軽で奔放な…。だから、あいつが何考えてるかなんて知らないし、知りたくもない。これまで通りに接して、時々…抱き合えれば、それで…)
だから落ちつけと、イギリスは熱くなる体温を逃すように、小さく息を吐いた。
どちらにせよ、現状は有り難い。今、イギリスの心の準備が無いままに近寄られたら、反射的に逃げてしまう。
だから、プロイセンが不用意に近付いて来る前に、この関係を保つために勇気を持ってイギリスから行動を起こさなければならない。相手からの接触が怖ければ、こちらから接触すればいい。そっちの方が心に余裕が出来るってものだ。恋人になりたいわけではないが、このまま何も無かったことには、したくない。プロイセンはまた来ると言ってくれたが、何日も避けている状態では、もう来てくれないかもしれない。
プロイセンがイギリスの態度を容認しているのが、プロイセン自身が戸惑っているのか、イギリスの心情を汲んでくれているのかは知らないが、このまま何もしなければ、遠ざかるのは目に見えている。それだけは嫌だ。
(…見限られちまうのが怖いだなんて随分弱くなっちまったもんだ)
だが、それは、本音で…。
(せめて明確な次の約束が欲しい。)
イギリスは「よし」と気合いを入れると先ずは身を守る為の布団を元に戻して、代わりに着替えの服を気合を入れて掴み上げた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 普

「…はよ」
突然背後から声がして、プロイセンはピタリと一時停止した。いきなりで驚いたのだが、それは悟らせないような自然な動作で動きを再開させた。
「よぉ。もう出来るぜ」
「…ん。悪いな、いつも。何か…手伝う事はあるか?」
「じゃあテーブル整えてくれ」
「分かった」
イギリスが頷いた気配がして、ごそごそとカラトリーの準備をすると遠ざかる。プロイセンはゆっくりと肩の力を抜いた。
(あー、びびったぜ)
まるで気配を感じなかった。敵地に侵入するのでは無いのだから、そこまで見事に気配を殺す事も無いだろうに、そう思って苦笑する。
きっと、自分から声をかける為に、プロイセンが知らない間、背後で百面相をしていたに違いない。その必死な様子を思い描くと、微笑ましいやら愛しいやら何やらで、しょうがねぇなぁと思ってしまう。
何にせよ、完全に逃げられたわけではないようでほっとする。
守りに入ったイギリスを落とすのは至難の技だろう。
(…あまりつつかねぇようにしないとな…)
この様子ではまともに話せるようになるまで随分と時間がかかるだろう。何せまだアメリカの独立を引きずっているような奴だ。
プロイセンは自分に言い聞かせてから朝食の準備を急いだ。

「…いつも、ありがと…な」
顔を上気させながら、イギリスが言ってプロイセンは緩く微笑んだ。
「別に構わねーよ。お前残さずに食ってくれるしな」
「…いや、…その、…うん」
(何だよ『うん』って可愛いな!)
鼻の下が伸びそうになるのを我慢して表情を整える。まあ、ここには二人しかいなくて、イギリスは視線を合わせようとしないから、プロイセンがどんな顔をしていようと気付かれることは無いのだろうが。
「で、今日は午後には向こうに渡るんだよな?」
「…あ、ああ。2時のフライトの予定だから、ちょっと早めに昼食とってからにしようかなって…」
「お前まだ仕事あんの?」
「……、無い。…今日は、移動、だけだ…」
ぽつりぽつりと答えられて、プロイセンは内心よし!と拳を握った。いい感じだ。やっぱり途中で引いたのが良かったようだ。イギリスの方からじりじりとであるが近付いてこようとしている。その様が手負いの獣のようでプロイセンは小さく笑みを刷くと「じゃあよ」と声をかけた。
「昼メシは一緒に作るか?」
「え!」
頑なに逸らされていた視線がぱっとこちらを向いた。
驚きと期待を込めた視線を向けられて「そういうのもよくね?」と尋ねると、子供のようにふにゃりと笑ってイギリスが頷いた。流石俺様、いい感じである。
(やべ、可愛い)
「んじゃ、それまではどうする?」
「家でのんびりするのもいいかなって思ってるけど、お前がどっか行きたいって言うなら案内してやないことも、ない…」
「んじゃ家でのんびりしようぜ。明日は会議だろ?ちゃんと休んでた方がいいだろ。どっか行くのは今度にしようぜ」
「…こ、今度って…」
緊張したように肩を張るイギリスを観察しながらプロイセンは「また来るって言っただろ!」とケセセと笑ってやった。ゆっくり、イギリスがプロイセンに視線を併せる。目を細めて口角を上げて慈愛を含めて見返すと、またふいと顔を逸らされた。
「いつ頃…だよ。俺にだって予定ってもんが、あるんだし…。アポなしじゃ入れないって言ったから、聞いてるだけで、別にいつ頃になるのか気になってるわけじゃないんだからな…!」
相変わらずのダダ漏れっぷりである。プロイセンは笑いだしそうになるのを堪えながら「そうだな…」とちょっと考えた。
具体的には考えていなかったけれど、いつが効果的だろうか。
時間がかかっても確実に落としたい。けれど、プロイセンだってオトコノコだ。まごまごしているイギリスを見るのも嫌いではないが、手を出すのを我慢してばかりでは体に悪い。
「…お前の休み聞いていいか?」
「…会議終わって一カ月は休みだけど」
「一カ月?」
「えっと…うん、今回はちょっと長いんだ」
それって俺様避けて仕事してたからか?とか聞きたかったが、まあ、やめておくのが無難だろう。
「ふーん、そっか、一カ月か」
じゃあ、そのままお前についてイギリス入りするか!とか言いたい所だが、はっきり言ってこんな状態のイギリスが隣でちょこちょこしていて手を出さずにいられる自信は全く無い。少し放っておいただけで、また近付いてきたくらいだから、もう少し時間をおいたら、エロ大使の事だからもしかしたら自分からしたいと言って来てもおかしくない…ような気もする。
「んじゃ、そうだな…。最後の1週間って駄目か?」
「1週間も?」
「何だ?迷惑か?」
「いっ…いや、迷惑とかじゃ、無い。気にするな…ただ、飽きないかと思っただけだ…」
「…何で」
「えっ?!」
何でそこでびっくりするのかが不思議だ。イギリスという奴は普段は自信満々だけれど、個人的な事に関してはかなり卑屈というか後ろ向きらしい。
(まあ、こないだの事とか考えると不思議でもねーか)
よく隣国であるフランスや、元弟であるアメリカに色々言われているのはプロイセンも知っている。スペインも時々チクリとやっていたような気もする。
「…いや、だって…、いや…」
イギリスが好意から逃げようとする一端を垣間見たような気がしてプロイセンはその考えを訂正させる為に頭を捻った。何といえば、イギリスに伝わるだろうか。下手に口を開いたら、お前スゲー可愛いよとか口説いてしまいそうだから、慎重になる。今イギリスに必要なのはそういった手合いの言葉ではない筈だ。
「…俺様はお前と話してて楽しいぜ」
「!」
「お前ちゃんと俺の話聞いてくれるしな。そりゃ普段からバカ騒ぎするような奴じゃねえけど、俺様だっていつもそんな事してるわけじゃないし。こう見えても結構インテリだし?」
「バカ、何がインテリだよ、似合わねぇ」
くすくすと笑われて、良い感じだとプロイセンは満足する。
「突っ込みも抜群だろ。結構お似合いじゃねえ?」
「何言ってんだ、バカ」
ほんの少しだけ混ぜっ返すと、頬を赤くして睨みつけられたが、そんなの何の攻撃にもなっちゃいない、胸がきゅんとするくらいだ。
(ああ、早く恋人になりてーなー)
今の立ち位置では満足に抱きしめることも出来ない。
「ま、まあ、お前の都合がいいんだったら、俺の方は休みだし…構わない」
照れながら返す言葉にプロイセンは「ダンケ!」と軽く答えて食事の残りを口に運んだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 英

イギリスは昼食の後片付けをした後に紅茶を入れてソファまで運んだ。昼ご飯も一緒に作れて気分がふわふわしている。だからお礼を言ってくれるプロイセンの横に意を決して座ってみた。…ただし、人一人ぶんほど空けて。それが限界だ。
プロイセンはこちらをちらりと見てから紅茶に口をつけた。
「ああ、やっぱりお前が淹れる紅茶はうめーな」
「…サンキュー…」
たかが礼を言われたくらいで全身がカッカしてしまうが、なんとか平常心を取り繕う。
なんだか心臓が出てきそうな気がするが、そんなもの気の所為だと言い聞かせて、じりっと数センチほどにじり寄ってみた。恋人ではないが、キスだってセックスだってした仲だ。もう少しくらい近くに寄ってみた方が不自然じゃないんじゃないかという言い訳を自分にしているけれど、本当はただ単純にくっついていたいだけだという事は明白だ。けれど、それは認めないで、見ないフリをする。
(触りてぇ…)
思って、どこを?と自分自身に問う。
(例えば…)
その手の平に自分の手を重ねてみたい。そうしたら、プロイセンはどうするだろうか。ちょっと驚いた顔をして「何だよ、構って欲しいのか?」とか言ってちょっと意地悪く笑うのだろうか。それとも、初めてした日のように「もっと近寄れよ」と言って抱き寄せるのだろうか。ちらりと盗み見ると、テレビを見て普通に笑っている。イギリスがやきもきしているのに随分と余裕のようだ。なんか腹立たしい。自分ばかりが踊らされているようで納得いかない。考えてみればずっとそうだ。イギリスに余裕があったのは初日のちょっとだけで、後はずっとプロイセンに翻弄されてばかりだ。目の前にいない時でさえ、ベッドに匂いを残してイギリスを振り回していた。
何だよ、それ…とイギリスは思う。自分ばかりが振り回されてばかりだなんて、そんなのプライドが許さない。プロイセンももっと悩めばいいのにと理不尽な事を考えたからだろうか、自分でもわざとかよく分からないけれど、気が付いたら唇から自分でもどうかと思う言葉が零れていた。
「今夜、…いいか?」
ぶはっ!
イギリスの発言にちょうど紅茶を飲みかけていたプロイセンが盛大に噴き出した。
「うおっ!お前何吹き出してんだよ!汚ねぇな!」
気管に入ったらしく派手に咽せているプロイセンに驚いて普段通りに罵倒してしまって、しまったと思う。流石にこれはない。
「…つーか、大丈夫、か?」
「…いや、悪ぃ…つーか…、お前、それって…」
げほっ、ごほっと咳き込みながら涙目でこちらを窺うプロイセンの背中をさすりながら首を傾げると
「………俺様はいつでもいいんだけどよ…。…あー…、今夜のお誘い、だよ、な?」
とんでもない事をいわれて飛び上がってしまった。
「はぁ!?なっ?!ばっ!!ちっ、違げーよ馬鹿ぁ!一緒の部屋でいいかって聞いただけだ!」
「………」
だが、それでも充分に夜のお誘いである。気がついてしまえば、どうしてそんな言い回しをしてしまったのか、戸惑う。確かに、ちょっとくらい困ればいいのにとは思ったが、これは自分にとってもダメージがありすぎる。
「ツイン!ダブルじゃねぇぞ!」
プロイセンが無言なのを見て焦ってイギリスは慌ててつけ加える。
「…最初から、それを、言えっつー…」
もう一度けほっと咳き込んだ後プロイセンは目尻に溜まった涙を些か乱暴に拭い取った。
「ああくそ、鼻の奥がツーンとするぜ…」
ぐりぐりと鼻の付け根を揉むプロイセンに、今更罪悪感が湧いてくる。だからだろうか、ちょっと口が滑ってしまったのだ。後から受ける仕打ちも知らないで。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 普


(…わざとじゃ無ぇだろうな…)
『今夜、…いいか?』なんて言ったイギリスがおろおろしている。プロイセンはその様を眺めて、イライラとムラムラを同時に抱え、眉間に皺を寄せた。
物凄く虐めたい。泣かせて謝らせて、本音を引きずりだして、虐め倒したい。嗜虐心をそそられる。
(あ”ー、ダメだダメだ。絶対ダメだろ。神様一体何の試練なんだよこれは…)
「…おい!聞いてんのか?!ち、違うんだからな!本当なんだからな!」
しかし、顔が赤い。涙目で否定して、視線があうとさっと逸らされた。
「ほ、本当はシングルとりなおそうと思ったんだ…、でも…、今日で、最後…だし…、一緒に…いたくて」
頬を染め上げてぼそぼそと言い訳を吐いているイギリスをジト目で睨む。何を言っているんだろう、コイツは、とプロイセンは呆れるやらムカつくやら複雑な心境だ。
イギリスが恋ってものが怖くて逃げ回っているのは、多分プロイセンの勘違いでは無いはずだ。そして、プロイセンに惹かれているのも、恐らくは。でないと、こんな風に隣に座ってきたりはすまい。一緒にいたいなどと、言うはずもない。
だから、プロイセンはイギリスを逃がさない為にも待ってやった。なのに、本人がその境界線をあっさりと越えてくる。準備が整ったってんなら大歓迎だが、恐らくはまだ覚悟も決めないままで、踏みこんで来る。
(テメーのせいだぞ)
「…イギリス」
「……………なんだよ」
思わず唸るような低い声が出た。それにイギリスが少し身を引いたのを見てプロイセンは大仰に溜め息を吐いた。それから怒鳴り上げる。
「この頓珍漢!大バカ野郎!」
「はぁ?!何だよその言い草は!」
着火点が早いイギリスがいきなりの罵倒に食いついた。人間関係に弱くて、子供みたいな言い訳をする癖にこういう事には威勢がいい。
「何だよじゃねーよ!お前アホだろ!」
「んだと!喧嘩売るってんなら買ってやる!表に出やがれ!」
ギッとイギリスの眦がつり上がる。本当にコイツは何も分かっちゃいない大バカだ。こんなんでよくエロ大使だとか言えたものである。(イギリスが言ったわけでは無いが)
プロイセンは登り上がる怒りに任せて口を開いた。
「お前を今すぐぎったぎたに抱き潰してやりてぇ!」
「上等だゴラァ!今すぐぎったぎたに抱きつ…、…………、ハァっ?!」
怒りに平生の顔色に戻っていた(普通は逆なんじゃないかと思うのだが、その辺は置いておいて)イギリスの顔がぼんっ!と赤くなる。
「お、おま…何、言って…」
いきなりしどろもどろになりだしたイギリスの手を取った。
「分からないとは言わないよなぁ?おい」
「なっ、なっ、何が…」
「俺様がどんだけ我慢してたのか、とか?」
「…が、我慢…って…」
「お前がいっぱいいっぱいって顔してたから優しい俺様が引いてやったんだろ」
「…そ、それって…」
涙目になって見上げてくるイギリスをプロイセンは目を細めて睨みつけた。
「煽ったのはお前の方だぜ?今も上等だって言ったよなぁ?」
「そ、それは…ちがっ」
「『それは』?じゃあ、煽ったのはわざとか」
「!…そ、そういうワケじゃ…無いけど…」
「けど、何だよ。さっきの威勢の良さはどこに行ったよ。ん?」
「さ、さっきのは…その、別に、俺ばっかりが振り回されてとか、そんなんじゃ、なくて、だな…」
「何逃げてんだよ。その様子じゃ、煽ったのはわざとだよな?だからお前は大バカ野郎だっつってんだよ」
「…ぐっ」
「せっかく優しい俺様が待ってやろうとしてたのにナァ?こっちの様子みたいっつってももっと言葉あるよな?振り回されてんのはこっちだっつーの。引き伸ばしたかったんだろ?お前、自分の失態、分かるよなぁ?」
「…うぅ」
ぐっと腕を押してソファに沈める。イギリスは切羽詰まった顔をしている。けれど。これで引いてやれる程プロイセンはお人よしではない。
そんな風に攻め込んで大丈夫か、と心のどこかがそう尋ねたけれど、プロイセンはそれを鼻で笑って退けた。
逃げられる?そんなの今更糞喰らえだ。
もうこうなったらこのまま囲って雁字搦めに逃げられないようにしてやる、と掴んだ手に力を込めた。だって、これはイギリスが悪い。
「本当は泣かせて許してって謝らせて、俺様の事が好きだっつーまで、体の方から素直にさせてやりたいんだが…」
「…っ」
「俺様は本当に優しい男だからな。許してやるよ。…でも分かってるよな?今日からお前は俺のもの」
「なっ!」
「…好きだっつってんだよ。言わせたのは、お前だからな」
瞳を揺らして泣きそうな顔をしているイギリスに、プロイセンは苦笑してその唇を塞いだ。


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