■【裁きの剣】■
08
薄布はありありと情を晒す。 「…L」 透けた絹の上から色づいた躰を愛撫した。 舌先で、唇で、指先で、彼に触れる、総てで。 膝上からを岩肌に横たえられて喉を鳴らすLは、まるで陸に上げられた魚のようだと思う。 勿論、海などは滅多に見られるものでは無いが、官房官である月は、その権限を利用して港を有する国への視察と称して赴いた事だってあるのだ。魚がどのようなものなのかくらいは知っている。 同僚の中には日干しにされたまま水に浮かんでいると思っているのだというから、呆れてしまうが。 「…水が恋しいか?」 「…?」 ふと、世界をあちこち回っているLに話を振ってみたくなった。 博識のLが、魚を知らない筈は無いのだけど。 「今なら、まだ逃がしてあげられるよ。それとも僕の腕の中で渇いてしまうか?」 うっすらと、涙を湛えたLの瞳が月を捕らる。 「…っ」 その、思考を巡らせている無色透明の色に、月の胸はせり上がる。 「それでは…私は、人魚のようですね…」 「…人魚?」 「そう。海底に住まうという半分人の形をした魚の事です」 「…へえ」 「海岸に面する街では、かなり知られている伝説ですね。このような砂に囲まれている国には馴染みの無い話かもしれませんが。」 「そうだね、僕は聞いた事が無い」 既に体液を溢れさせるLの鈴口に軽く舌先を当てると、微かだが淀みなく紡がれる唇がわなないだ。 「…最も有名な話で人魚姫という話が…あります。人魚は華麗で優美な夢の生き物。大概人魚は女性として語られるのですが、彼女達の声はとても透き通り、人間を魅力し、その涙は真珠になると言われ、半身から魚の尻尾の形をしたヒレはとても美しい鱗に覆われ、そしてとても早く海底を駆けると言われています」 「…面白いね」 「人間姫は、そんなとある人魚が、船が難破し溺れてしまった王子に恋したという話です」 「なんか間抜けじゃ無いか?」 「…ぁっ…っ、月くん…話を聞きたいんですか…そうでは無いのですか。…話辛いですよ」 刺激すればするだけ、快感の証しとして溢れるそれを嘗め取って、月は笑んだ。 「イかせて欲しい?」 「…率直過ぎますね。ムードも何もあったもんじゃ無いです」 「気にするようなヤツじゃ無いだろ…?…で、続き。」 月が先をねだると、Lは小さく息を吐いてから唇を開く。 「…溺れた王子を助けた人魚は、王子に恋をするのですが、王子は陸の人間。逢う事も出来ず、悲しみに暮れた人魚は、魔女と契約し秘術を使い声を失う事で人間となります。」 「…で、結ばれたのか…。お粗末な話だな」 「いいえ。これは所謂シンデレラストーリーとは違います。人魚は王子を助けた浜辺に誰かがやって来るのを感じて人目を忍び隠れました。人魚は高価な売り物、見世物になるからです。そして人魚の助けた王子は隣国の王女に介抱される所で目を覚ますんですね。それで結局は色んなものを失った人魚の気持ちや真実にに気づかず、その人と結婚してしまう」 「…」 「その婚儀は船の上で行われ、人魚は仲間に王子を殺せば人魚に戻れるのだと教えられます。…しかし、人魚はそれを選ばず、自ら泡となって消えた。それが人間になる事の契約の一つでしたので。」 「…バカだな」 「バカですよね。でも恋しい人を殺して海に戻れたとて…一体何になるというのか」 「そもそも近づくべきでなかったという話だな。人種が違い過ぎる」 「気付いて欲しかっただけなのでしょう。ただただ、その存在を」 Lが悼む心を隠すように視線を流すと、月は小ばかにしたような表情から一転、微笑んで繋げた。 「…それで?お前は海へと戻るのか?今なら水に浸かるこのヒレはお前のモノだけど?」 水を吸って月夜に輝くLを纏う布に月はうやうやしく見えるように唇を落としてみせる。 それにLの瞳がすっと細くして、月に手を伸ばした。 「そうですね。でも、泡になる予定はありませんし。出来れば貴方の手で陸へとあげて下さい」 半身を起こして未だに水の中に浸かる月の頬に唇を落とす。 「…むしろ月くんの方が人魚っぽいですが…」 「違うんじゃないか?王子は溺れているのを助けられるのだって言ってたしね?」 「そうですね。…早く、来て下さい」 「…ああ」 Lの手を借りて、水から這い出す。 冷たい月夜に濡れた雫は体温を奪う筈だが、躰は熱くて仕方がない。 月はLの着衣を剥ぎ取る。水面に浸かった鈴はチリリとも鳴らなかった。 To be continiued …アトガキ… そしてまだ終わらないェロ物語。 ってゆーか全くェロくねえ…。今更ェロく無い事が発覚しました(遅) 思いっきり情交に満ちた文を細やかに書くつもりでしたが、つもりのまま進みました…。やれ困った。 ェロって起承転結が更につきにくいよ…(いつもついて無いけどよ) 人魚の話は微妙に適当です 水野やおき 2005.09.12 ≪back SerialNovel new≫ TOP |