■【らぶラブらぶ】■
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… side ギルベルト … 「なあおい、これからちょっと映画見ねーか?」 「映画?」 特に何も変わった事も起こらずに迎えた週末、ギルベルトは「今話題の新作だぜ!」と隠し持っていたホラームービーを見せびらかした。 「おっ、そいつか。別に構わねーぞ」 日を追うごとにアーサーの態度は気安くなっていたが、YESの返事は予想外だ。あまりにも簡単にOKが貰えたのでギルベルトは内心で首を傾げる。料理以外で付き纏うとうざったそうにされるので、一度は断られるものだと思っていたのだが、(そして最後は『お前の為じゃない俺の為なんだからな!』という最早様式美なツンデレ発言で収束する)、アーサーは夕食の後片付けをしていた最後の皿を戸棚に仕舞うと、「何か摘まむもんいるか?」と機嫌よく尋ねて来た。ギルベルトはまあそれならそれでいっか、と「適当でいいぜー」と返す。 ギルベルトの返事に気安く「おう」と請け負って、アーサーがペットボトルとグラス、それからスナック菓子を持って来てギルベルトがいるソファの隣に座る。心なしかウキウキとした様子でアーサーが口を開いた。 「どうもおかしいと思ってたんだよな。いつもない買い置きがあるから」 「こういう映画だったらやっぱりこうだろ」 「まあなあ。紅茶とかコーヒーでもいいけど、スナック菓子とかのが映画館っぽくて雰囲気は出るよな。あ、電気消すか?」 アーサーがいそいそとグラスにコーラを注ぐ。ギルベルトは同意を示してから疑問を口にした。 「お前…、もしかして、こういう系大丈夫な方か?」 「大丈夫っていうより好物だな」 「………」 失敗した、とギルベルトは内心舌打ちする。ソワソワしている様子を見れば好物というよりも大好物といった所だろう。怖がらせて抱きついて来させるという目論見はあっさり崩れたわけである。むしろギルベルトの方が怖がってしまいそうだ。 (ルッツほどじゃねーけどよー…) 物理で証明出来ないものは苦手である。これは作りものだと分かっているのでさほどではないが、ホラーなんて怖がってナンボのものだ。あの手この手でこちらの恐怖を煽ってくる演出に怯えてしまわない自信はない。 (あわよくば向こうから抱きついてこさせてーって…思ったんだがアーサーだもんなぁ…。そりゃ簡単にはいかねーよなー…ハハ…) 漫画のような事をしてくれる割りには一筋縄ではいかない。 アーサーが電気を消しに行っている間に、ギルベルトはディスクをプレイヤーにセットすると先にソファに戻っていたアーサーに密着するようにして座った。 最初は寄るな触るなうざったいと言っていたアーサーもすっかりこの距離感に慣れたのか、それとも大好きなホラーを前にしてギルベルトの行為に気付いていないだけなのか、特に何を言うでもなくリラックスしているようだ。 ギルベルトはチラリとアーサーに視線をやった。片手はソファの背にそわせるように上げているのであともう少し動かせば肩を抱けそうな位置である。この手をどうするべきか、僅かに迷った。 「ルートヴィッヒが戻ってくるまで待たなくていいのか?」 T近日公開される映画の宣伝予告が流れだす中でアーサーがリビングの扉に視線をやって言った。テレビから放たれる明かりを照明にして、アーサーの顔がギルベルトの視界に映しだされる。ムードのある近すぎる距離に動揺を表に出さないようにしながらギルベルトは「ああ〜」と言葉を濁した。 「ルッツは明日も部活があるし見ねぇだろ」 「それじゃあ明日にすりゃ良かったのに」 日曜だって休みだろ、と言われて新作だから今日しか無かったんだよ、と返す。アーサーは「そうか」と何の疑いもなく頷いた。新作で一泊二日、しかも人気作なので、明日あるかどうかは分からないというのは本当の所ではあるが、それは1割程度で、8割はホラーが大の苦手な弟が部活を口実に逃げられるようにとの配慮である。 残りの1割は、思う存分いちゃつけないという下心である事は目を瞑って貰いたい。 (まあ、1割の下心くらい許せよな…) 思って、画面に視線を戻したアーサーを見つめる。アーサーはこちらの視線になど気付かずにまっすぐにテレビを注視している。 ギルベルトはそんなアーサーを眺めて目を眇めた。 心の中に存在する下心。それは紛うことなき『下心』であり明確な『劣情』だった。 別にギルベルトにはそっちの趣味なんか無い。 では何故この劣情を容認しているのか。 そんなものは、ギルベルトがアーサーの秘密に勘付いているからに他ならない。 アーサーはバレていないと思っているだろうが、しかしギルベルトはアーサーが女だという事に勘付いている。『勘づいている』というか『確信している』と置き換えてもいい。ギルベルトは9割方、間違っていないと踏んでいた。 (じゃねーと、ウチに来るとかおかしいだろ) 色々とタイミングが良かったのも、説明された事柄も嘘ではないのだろうと思う。けれどもそれだけでは押しが弱いというか、違和感が残ると思うのは恐らくギルベルトだけではないだろう。 親父が一枚噛んでいることと、アーサーがあのカークランド家の嫡男である事を思えば、アーサーの事例は異例でしかない。 (つーか、何でカークランド家の坊っちゃんがあんなに家事に手慣れてるのかって話しだよな) ギルベルトは傍に付きまとっていたのでよく分かるのだが、料理以外の手つきはそれはもう板についたものだった。テキパキと流れるようにこなす姿は相当な年季を積んでいるとしか思えない。アーサーの母親が変わりものだったとしても、メイドがいるような家でここまで仕込むというのはあり得ない話だ。 それに、毎回全ての体育を見学している割には、アーサーは健康体そのものだ。肉付きは悪いが、体調を崩しているのも見た事がない。皮膚が薄いのか隈が現れることはあるが、ただの寝不足である。少なくとも毎回見学するような人間の行動と体力ではない。 話しを聞いた時から何かおかしいと思っていたが、背後から抱きついた時に確信した。あれは男の体ではないだろう。 (いつもカーディガンとかベストとかで隠してはあるけどよー…) 肌も露出させないから分かり辛いが、抱きついてしまえば一発だ。普通男ならあんな風に腰はくびれない。胸は何かで押しつぶしているのだろう。 (まー、こいつの家庭の事情を考えれば無いとは言い切れないわな) そうしてそう考えると、今回の事にもすんなり納得がいくのである。 (それだって特殊ではあるけどな…) だが、アーサーを男として考えるよりも女として考えた方が理解しやすい話しなのだ。 (いくら末っ子とはいえ後継者のいる家にやらねーだろ…子供がいねーならともかく) しかも家政夫とか。あのカークランド財閥が。 それが娘だとしたらまだ意味は分かる。こんな社会に属しているから、政略結婚なんて日常茶飯事の話しである。本人の意向も考慮はされるが、あくまで考慮されるレベルでしかない。両家の意向で幼少時に婚約者として定められることだってあるのだ。その辺から吐き出される答えといえば。 (まあ、婚約者とか嫁っつー…) それがギルベルトに対してなのか、弟に対してなのか、どっちでもいいからという事なのかは分からないが、内々に決めてあって、それで預けようという事になったのでは無いだろうか。 無暗に外に放りだして早期に女だとばれればカークランド家きってのスキャンダルである。それを家には置きたくないが、目の届くところに置いておきたいというのならば、ウチは格好の隠れ蓑になるだろう。これがフランシスの家なんかだったらすぐに騒ぎになるだろうが…。 (後はビジネス的な要因と…) アーサー自身の意思もあるのかもしれないが、そこはなんともいえない所である。 (出来れば俺様がかっこいいから!っつー理由だったらいーんだけどよー) 何にしろアーサーの事である。そんな艶っぽい話しはありそうにない。 ギルベルトはそこだけふくふくした頬と、形の良い唇を見ながらキスしたいなーと思った。もっというと食いたい。正直エロい展開に持ち込みたい。 節操無しと言われようが、年頃の男なんてこんなものである。現在特に思う相手もいないし、多少乱暴ではあるものの意外に可愛い同年代の女が一つ屋根の下で暮らしていたら邪な妄想を抱いて普通である。 (ああああ〜〜〜〜手ぇだしてええええええ) 気を抜くと脳内がピンク色の妄想に励んでしまって、ギルベルトは内心悶え転がった。 性別を隠した女と一つ屋根の下(しかも恐らく未来の嫁さんだ。)とか、どういうエロシチュだよ、と言いたい。 ギルベルトは脳内で「ああ〜!」と呻いた。 アーサーに秘密を知っているんだぞとバラしてしまって「なあ、バレたくないんだろ?分かってるよな?」とか言って…、そしたら涙目にで睨んで来る少年の姿をしたアーサーが、根負けしたように震える手でブラウスのボタンを外していってやがて少女である膨らみを晒し―…とかメッチャ萌えるだろ!と心の中で力説して、 (はっ!やべえ!また脱線しちまった!!) いけねぇ、と頭を振る代わりに目をぎゅっと瞑って妄想を追い払う。 気付いてしまえば、もう駄目だった。親戚の女の子を預かるっていうシチュエーションだけでも妄想は忙しい事請け合いなのに、秘密の関係なんて心くすぐるオプションも加えられたら、バリエーションが広がってしまうではないか。 今日だって、このホラー映画と共に(親父の会員証を使ってさりげなく)借りて来たAVを満喫して色々と新しい扉を開いてしまったばっかりだ。 今までは正直巨乳ばっかりだったから上手く服の下を想像出来ない所があったが、今はアーサーを見るだけでバッチリ脳内で再生出来るっていうか、目を開いていても幻覚さえ見えそうな気がするんだから非常にヤバい。 (思春期の童貞の妄想なめんなコラ) 悶々とするが、せめてもうしばらく我慢するべきである。多少の面識はあれど、今までそんなに親しい間柄とは言えなかったし、今だって好意を持たれているとはまだいえない。せめて意識されるぐらいの距離感を感じるまで待つべきだ。 (まあ、いつまでも自制が利くとは限らねーけどな) 相手はギルベルトがこんなにベタベタしているのに、何にも疑問に思わない鈍チンである。ギルベルトの壮大な勘違いでなければ、本人は結婚前提でウチに来ている筈なのにギルベルトのことを一切意識しようともしない恋愛オンチなのである。正直いつまで経っても気付かないのではないかという危惧さえ抱いてしまうような相手であるからこそ、 (この際距離感とか言ってねーで、とりあえずキスぐらいしとくべきなんじゃねーかとか思うけどよー) 手っ取り早く意識して貰うためには有効な手段だと思うと、『待つ』と『待たない』が拮抗してしまう。どうすっかなーと溜息をつくと、アーサーの体がぴくりと反応した。 「バカ、くすぐってえよ」 どうやらギルベルトの吐いた吐息がアーサーの首筋をくすぐったらしい。手をやってさすりながらちょっと睨まれた。 「予告が長いのは分かるけど、こういうのも楽しめよ」 「…飛ばせないの不便だよなー」 全くの見当違いなことを言われたが合わせておく。否定したって『じゃあ今の溜息は何だよ』と言われても本当の事は話せない。 アーサーはギルベルトが同意すると『仕方のない奴だなー』という表情で苦笑する。 (あー、顔が近けー。やっぱりキスぐらい…) 思いきって身を乗り出して顔をくっつけてみようと思った所で、無情にもドアが開いて弟が現れて、ギルベルトはがくりと項垂れた。 一度リビングに姿を現した弟は、何の映画か気付かずにしばらく見ていたが、ホラーだと気がついた途端途中で退席した。「やはり明日も早い事だし…」と言っていた顔が引きつっていたのでやはり今日借りて正解だったぜとギルベルトは自分のナイス判断を称賛しておいた。 しかし、話題の新作な事だけあって、最高にハラハラドキドキさせてくれる。不気味な演出にヒヤヒヤしながら観賞を続けていると、アーサーはこちらがびびっている所で「ははっ」と笑ったりしていて、ギルベルトはとてもじゃないが、アーサーは頭がどうにかしていると思った。 (コイツなんでこれで怖がらねーんだよ!!) 普通の女の子ならば、万一強がっていたにしても、びくっと小さく震えたりとか、ギルベルトの服の裾を無意識に握ってきたりだとか、そういうのがあってしかるべきだろう。少なくともエリザベータが持っていた少女漫画の主人公や、同人誌の野郎共はそんなだった筈だ。 なのにアーサーと来たら、平気なだけじゃなく、笑うとか、ほんと意味分からない。 (あ〜〜〜も〜〜〜〜〜〜) そういえば、食材から人を昏倒せしめる兵器を作りだす奴だった。アーサーを常識の範囲で考えてはいけない。 ギルベルトはいっぱいいっぱいになりながら見終わってぐったりと肩を落とした。もう精魂付き果てた、という感じだ。 そんなギルベルトを尻目にアーサーはというと、スタッフロールのおどろおどろしいバックミュージックをBGMにしながら、機嫌良く元気いっぱいに 「普通ホラーっつってもチンケなの多いけどこの演出はー…ギルベルト?」 と言いつつ振りかえった。そしてギルベルトの様子を見て首を傾げる。 「あれ?もしかして怖かったのか?」 「いや、全然、別に」 乾いた笑いを貼り付けてどうにか虚勢をはると、アーサーは「嘘つけよ」と意地悪気ににやりと笑った。 うっかり100年の恋も冷めそうな表情であるというのに、不憫といわれる程度には残念な事例ばかりが降り注ぐ身である。幸か不幸か打たれ強さへの耐性をつけてしまっていたので、ギルベルトは心なしがっくりするだけで済ませた。アーサーはギルベルトの反応を可笑しそうに眺めながらからかってくる。 「げっそりした面してんじゃねーか。分かりやすすぎるっつーの」 怖いなら見るなよ、と言って笑いやがったアーサーは、次いでとんでもない言葉を口に乗せた。 「なんだったら一緒に寝てやろーか?」 「………………………………………………………………は?」 思わず目が点になった。上手く意味が咀嚼できない。 「アルフレッドも怖がりの癖に見たがるんだよなー。普段は近寄るだけで文句いう癖にホラー映画みたくなった時だけウチに遊びに来て『特別に一緒に寝てあげてもいいんだぞ!』とか言うんだぜ」 マジ笑うよな、と良作のホラーを見て上機嫌のアーサーは「べはははは」と色気も何もない思いだし笑いなんぞをしている。 ギルベルトはというとホラーの余韻なんか遥か彼方の方にぶっとんでしまった。『何言ってんだコイツ』で頭がいっぱいだ。アーサーの笑い方に突っ込む余裕すらない。 「まあ、ガキの言うことだからいつも聞いてやってんだけど、お前はどうする?どうしてもっていうなら一緒に寝てやらねーこともねーぞ」 にやにやにや。 自分が優位な立場にある余裕からか目を細めて笑う顔を見てギルベルトは思わず笑った。むしろ笑いしか出てこなかった。 何か突き抜けてしまった。 ので、 「へー。んじゃお言葉に甘えるとするか」 「え?」 「お前の部屋に行けばいいのか?それとも俺の部屋?」 「…あー、いや、えっと。」 恐らくノリで言ってみたはいいが深く考えていなかったのだろう。ギルベルトからイエスの返事が返ってきてようやく現実の不味さに戸惑い始めた様子のアーサーに反撃とばかりにギルベルトはにやりと笑い返してみせた。 「いやー、持つべきものは友達だよなー」 「え、あ…そうだよ…な…」 俺様な性格をしている癖になんてチョロいんだろうか。というか、もう少し危機感を持った方がいいと忠告してやった方がいいのだろうが、今は知ったことではない。 「で、どっちがいいんだよ」 「えっと…、…その…。じゃあ、お前の部屋で…」 アーサーは自身の部屋に入れるわけにはいかないという事の方に気を取られてしまっているのだろう。『冗談だ』と断ることを思いつかずそう答えるアーサーに、ギルベルトは口角を上げて『じゃー決まりな』と、とりあえずアーサーを風呂へと送りだした。 手持無沙汰になったギルベルトは冷静過ぎる頭を持てあましながら、テーブルを片付ける作業に勤しむ。 気を紛らわすように片っ端からシンクを磨きあげている辺り、冷静だと思いこんではいても多少は動揺しているのかもしれない。 (しかしまー) ありえない展開である。 ホラームービーを見せてちょっといちゃいちゃ出来たらいいな、と思っていただけなのに、何故か向こうからベッドを共にするお誘いがあった。アーサーは常にギルベルトの思いのよらない所から攻めてくる。 (しかも本人が気付いてない所が問題だよな) これ以上綺麗にする所がない、ピカピカのシンクを見下ろしてソファに戻った。アーサーのお陰でギルベルトの脳内には先程のホラームービーの余韻は欠片も残していない。 (つーか俺様は大丈夫なんだろうか) 人の気も知らないでと売り言葉に買い言葉状態で返事をしてしまったが、一緒のベッドに入ってしまって大丈夫だろうか。 (キスもしてないのに何でいきなりベッドなんだよ) 意味分かんねぇ、と思う。 意味は分からないが、こんな美味しいチャンスはそうそうないだろうからアーサーが戻って来ても「冗談だって」と笑えそうにない。欲の天秤は常にギリギリなのである。向こうが万一そう言って来た場合には拗ねて見せるぐらいは出来るだろうけど、自分から逃げ場を作ってやれるほどの余裕はギルベルトにはない。 ソファに身を預けて見るとも無しにTVの画面を睨む。組んだ腕の先をトントンと指先で叩いた。気が急いてやれない。 (一緒に寝るとか…) 向こうを意識させたいのに、何故こちらがこんなに意識しなければならないのだろうか。理不尽だ。指先のリズムが癇癪のように早くなる。一人で悶々としていると、アーサーがリビングの扉から顔を出した。 「…上がったけど…」 「んじゃここで待っとけよ。つーか髪はちゃんと乾かしとけな」 アーサーをソファに座らせると、ギルベルトは脱衣所からドライヤーを持って来て手渡した。 「…ああ、うん」 受け取ったアーサーの目が泳いでいるのを見て少しばかり溜飲をさげた。ギルベルトばかりやきもきしているのは割りに合わない。 「そんじゃ、俺様も風呂行って来るから」 告げるとこくりと頷かれた。 ギルベルトは突然の緊急事態から時間をおいた事で少しずつ逸ってきた心臓を宥めながら手っ取り早くシャワーで体の汚れを流す。 (抜いておくべきか?) 平静と混乱の間でそんな事を思う。 (あー……どうするよ…) 傍に体温があったら勃たない自信がない。しかしあまり待たせるのは得策じゃないだろう。 だが、体には既に熱が籠っている。頭をもたげている自身を見下ろして軽く溜息を吐いた。 今からこの臨戦態勢ではこのまま出ていくわけにはいかないだろう。 (なんでこっちがこんなに気ぃ使わねぇといけねーんだよ…) 思いながらまた厄介なのに惚れちまったなぁと溜息をつく。しかし綺麗で可愛いだけのお嬢さんなどでは満足できないのも事実だ。ハッキリ言って物足りない。 ギルベルトはボディーソープを手に取ると、浴室に籠った蒸気の中に熱の籠った息を吐き出した。バスタブの縁に腰をかけてゆっくりと息子を撫で上げる。 (くそっ…) 十代の青少年には意中の女が入った後の浴室など妄想の宝庫だろう。2、3度擦りあげただけでかなり気持ちよくなってしまった。 こうなれば風呂から出るのにそんなに時間はかからないだろうが、なんだか悔しくもあって、ギルベルトはおぼえてろよと、心の中で捨て台詞を吐いた。 ≪back SerialNovel new≫ TOP |