■【タイム・リープ〜凍結氷華U〜】■ 12

胸にナイフが刺さった感覚がした。


【タイム・リープ】
〜凍結氷華U〜#12


「Lの癖にキラを許すというの―!!!」
部屋を出ると、途端に発作が襲いかかった。ゼイゼイと息を切らせながら壁伝いに彼女らを探していた月の耳を南空の声が打つ。
「…要約すればそういうことになります」
そこにひたすら静かな声が聞こえて、月はもうその場から一歩も動くことが出来ず膝を折った。発作の苦しさを押しのけた涙が両目から溢れ出る。
(バカ!何を言ってるんだお前は―…!お前だけがキラを許さなかったんじゃないか…!最後まで疑って、追って、捕まえて…!なのに…!)
「一体どれだけの人間が犠牲になったと思っているの?!貴方がキラを許すというのなら、レイは貴方に殺されたも同然よ!」
「…申し訳ありません」
(何で否定しないんだよ!何でお前が謝るんだ!お前のせいじゃないだろ?!僕が…僕が殺したんだ…!レイ・ペンバーも、南空ナオミも…お前も…!!!!)
弁明してくれよ。
釈明してくれ。
「人殺し!レイを返して!!」
(違う、違う!違うんだ!!罵られるべきなのは僕であって、お前じゃないのに―)
駆けつけて否定しなければ、竜崎は南空ナオミにとって世界を裏切った人間になってしまう。
『あなたにはLと近いもの、同じものを感じたから』
そう南空は言ったのに、
『Lなら信じられる―…』
婚約者を失って、どれほど胸が痛かっただろうか。毎朝、何かにつけ、その人がいないことを思い知らされる。月も竜崎を自らの手で葬ったというのに、壮絶な孤独感を味わった。目覚めるたびに、何か考える度に「ああ、もうアイツはいないんだな…」と葬った相手のことを思った。それを婚約者という掛け替えのない人を失って折れてしまってもおかしくない状況で、それでも南空ナオミは強い女性だった。それを…、その南空に…月はこんなことを言わせたのだ。
月が南空を殺した。南空の最後の希望、その息の根を止めた。キラだと告げた時のあの表情。全てのものに見放されたような…。

南空ナオミの婚約者を殺しました。
南空ナオミの気持ちを殺しました。
南空ナオミ自身をも殺しました。
南空ナオミの最後の拠り所さえも―…。

それが全てだ。
だから、竜崎が責められることなんて一つもない。
確かに月は、ミサのような犯罪被害者を救ったかもしれない。
けれど、同時に幾人もの人間を…最も大切な人達を…犠牲にした―。

息が詰まる。
全身が冷える。
それでも、月はもう竜崎のもので、
竜崎ももう、月のものだ。
昨日、抱き合ったときに確信した。
『逃げられませんよ』
『逃がしませんよ』
声にならない声を確かに、聞いた。

竜崎。
竜崎。
竜崎。
竜崎。
それが僕の希望の名前。
光。


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