■【タイム・リープ〜凍結氷華U〜】■ 14

南空ナオミが姿を消した。
外は既に一寸先さえ見えない猛吹雪に見舞われていた。


【タイム・リープ】
〜凍結氷華U〜#14


「南空ナオミがいなくなった!?」
「…すみません、私の失敗です」
「いや、竜崎僕が…」
「今はそれどころじゃないだろう…!」
「そうですね…。至急探しにゆかなければなりません」
相沢の言葉に、竜崎が頷く。相沢も数年みない内に随分と貫禄がついた。
「…ですが、この吹雪を闇雲に探すわけにもいきません」
「………竜崎、貴方はまた…」
とりあえず相沢だけを引っ張り出して3人で密談をするに、相沢の態度はあからさまに渋い。
「…けど、まあ、今はその気持ちも分からないではないがな…」
だが溜息一つ、相沢が苦そうな表情で眉間の皺を緩めた。それに月の心が小さく震えた。無為に流れているようにみえる年月はけして無駄ではない。
特にこの一年半の間は、相沢がトップに立つことも多かったはずだ。それで失った命もあるだろう。どんなに冷徹に見えても、堪えなければならないときもある。
それを知って、竜崎を理解しようとしてくれた事が嬉しかった。
「それで、どうする…」
「…今は衛星も利きません。とりあえず、ここの地形と風向きを考えて行き先を少なくとも幾つかに限定するべきです。放心状態にある人間がわざわざ行き辛い道を行くとも思えません。相沢さん協力してくれますか」
「…当たり前だ」
相沢が低く頷くと、作戦会議が始まった。松田に話すと事が大きくなる可能性もあったので、そこは秘密裏に話し合って、結果3つの道筋が浮かびあがった。
「これくらいでいいんじゃないか。これなら、月くんと私と松田で行ける」
「いえ、…まだもう一つ除外したいです。ここに男手が一つもないのは不味い」
「何?三手に分かれたほうが可能性が高いだろ?それに緊急時だ、竜崎も少しは働いてくれ」
「…私だって椅子の上に座っているだけじゃないですよ、相沢さん」
「じゃあ問題ないだろう」
「問題大有りです。私、今、妊娠してます。この命も守らねば」
「………、………は?竜崎、冗談は…」
「冗談じゃありませんよ。不足の事態を考えなければ、別に相沢さんの案でもいいんですけどね…、今や私は男性がいるという安心感さえ与えることができません。いても人手としてあまり意味がない」
ぶつくさと不機嫌そうにしながら竜崎がガリガリと爪を噛む。月が反対の手を握ると、こちらを見てから口許から指を離した。
「………」
絶句している相沢が問いかけるように竜崎の手を握った月を見遣ったので、月は小さく頷く。
「…可能性の高い、こちらと…こちら。この線ではどうですか?どう?竜崎」
「そうですね、それで行きましょう。二人とも、あまり無理はしないでください。捜索のためとはいえ今、外に出る事は既にバカげた行為なんですから」
「…分かった」
「…相沢さん?」
「…ああ、分かった」
言葉もない相沢に竜崎が平然と返事を促す。相沢は奇妙なものを見るような目で竜崎を眺めてから、それよりもまず人命が先だと顔を引き締めた。
「通信機の類もこの猛吹雪の中では使えるかどうかわかりません。くれぐれも慎重に。…いいですか?」
「「ああ」」
頷いて、支度にかかる。竜崎が皆を丸め込んでいる間、相沢がぽつりと呟いた。
「……月くん」
「はい」
「月くんがキラだったんだな…」
「はい」
時効だとか、そういうのではない。けれど相沢は「そうか」とだけ呟いた。

信じていた道が、信じるに足りると思っていた道が、目に見えるものだけが真実とは限らない。
沈黙が落ちた。
外は雪が音をたてて舞っている。


≪back SerialNovel new≫

TOP