■【裁きの剣】■ 23

鈴の音に乗って、右足。
それに併せて左腕。
普段の猫背からは想像もつかない柔軟な体が、軽やかなステップを踏んでしなやかに仰け反った。
女王に捧げられる、舞踏。
その微かに伏せられたエキゾチックな黒の瞳がふと開き、舞の最中に目があった。
月はその吸引力に息を呑む。


【裁きの剣】


別段、黒目黒髪なんて、この国では珍しい事もない。
地域によって差はあるものの、むしろエデンでは黒目黒髪の人種の方が多いくらいだ。
(それなのに、何でLだけ特別に見えるんだろう)
月だけが色素の薄い茶色の髪と目で、その他の家族は全員黒髪黒目。
見慣れてる。
「…もうあんな事はするなよ」
その艶やかな黒髪を眺めながら月は怒ったように声を絞り出した。
「女王に剣の切っ先を向けるな、という事でしょうか?」
「そうに決まってるだろ」
Lがミサの要請を呑んで、王宮に上がった午前10時。
占いの前に、そもそもの生業である踊りを披露する、と言いだしたので月は驚いた。
Lのそもそもの生業は行商人だと思っていたからだ。
「そんなのもうしませんよ。次やったら首が飛びます」
「当たり前だ」
確かに、踊り子の衣装に身を包んではいたが、月はLの舞など見た事は無かったし、どんな踊りが飛び出るのやらと「流浪の踊り子の舞など王宮に相応しくない」と止めに出たが、肝心のミサの「いいじゃん。面白そうだよ♪」の一言で却下された。
内心ハラハラしながら、観覧したLの踊りは、月の想像だにしない荘厳で華麗と言っていいものだった。
剣舞。
近衛の者に借りた剣を体の一部のようにして踊るそのステップは、すぐにその場の人間を虜にした。
神に祀る為のその舞は、神聖であると同時に、エロティック。
月は鈴の音以外の音の無い世界の、大理石で出来た冷たい床を裸足で滑るLから目を離せずにいた。
長く白い腕が振られ、薄い衣が背景を透かし、シャンシャンと涼やかな音色が鼓膜を揺する。
目があってしまった瞬間、月は明確に情事の最中のLを思いだした。
「…で、嫉妬?」
それに月が気を取られていた瞬間、Lが素早く鞘から刀身を抜くとミサの喉元に切っ先をあてがったのだった。
「何バカな事を言ってんですか。ただの忠告ですよ。警備が甘すぎます」
「…確かにね」
月や他に居合わせた大臣なんかもそうだが、すぐ側にいた近衛隊長まで手を出せなかったのは問題オオアリだ。
(…ああ、またレムに恨まれそうだな…)
女王の近衛隊長は、ミサがまだ王女だった頃からずっと彼女を守り続けて来たレム、という。
以前この国の国王と王妃であるミサの両親が殺された時も、レムはミサの隣りで善戦を勤めた。
手傷を追い、それでもミサを庇いながら戦うレムと、…そしてジェラスという少年がいなければ、恐らくミサはもうこの世にはいないだろう。
確かに駆けつけて謀反を起こした賊を切り捨てたのは月で、ミサが月を慕うのも無理らしからぬ話だが…。
(レムには嫌われてばかりだね)
でも、月が悪いわけじゃない。
力が足りないレムが悪いのだ。
(本人も分かってるからあからさま…というワケじゃ無いけど…)
「…何ですか?」
(チカラ、か)
冷たい石廊を歩きながらLを眺める。
「L」
「月くん?」
訝し気に立ち止まった月を振り返って、それから覗き込んで来るLの手を取った。
「…ん!」
ぐぃっと引き寄せて、古い資料室の扉を背中で押して唇を併せたまま忍び込む。
「ちょ…何するんですか」
「何、ってナニだよ。…欲情した」
きっぱりと告げるとLが嫌そうに顔をしかめたが、月はそんな事は気にしない。
「僕を挑発した罰だよ」
「…バレてましたか」
悪びれた様子も無く、Lが肩を竦めた。
剣を抜く一秒前、視線を合わせたのは月に邪魔させない為だ。
意図してやったのなら、それ相応の罰を受けてもらったって構わないはず。
「仕方ないですね」
Lもそれを十分にわかっていたようで、剣と同化したような鋭利でしなやかに空気をないでいた腕で月の首筋に絡みつく。
吸い込まれるような黒が目を伏せるのを合図にして、月はLの体を押し倒した。



To be continiued



…あとがき…
こういう場面を書くのはとっても楽しいです!パラレル大好き!
…知識はないので、勘ですが…
data up 2007.07.16


≪back SerialNovel new≫

TOP