■【裁きの剣】■
26
僕の野望は、 この世界を変えること。 統合し、統治し、人々の意識を変える。 秩序を整え、 古(イニシエ)の緑多き楽園に戻すこと。 【裁きの剣】 「…そうか」 魅上の報告を受けて月が押し黙ると、魅上は律儀に微動だにせずに沈黙を守った。 最早いないもの同然にまで気配を殺す魅上の正面から、姿勢を僅かに背けると、月は口元にスラリとした形の良い手を添え、考え込む。 (最近の松田さん情報はバカにならないな…) 意外に思いながらも、性格の違いを思って少しだけ納得する。 松田の情報は多様化で誤情報が多いが、内容の信憑性を確かめない分だけ早い。対して魅上は計測的な振り分け方をし、その後も報告するに足る情報を収集する。だから、無責任な噂話よりか、多少遅くなる。 月はそれらを効率よく収集して洗い出す。 「…軍を動かしておきながら、進軍ではなかった、と?」 「はい。スピードの遅い行軍だとは思いましたが、どうも我が国へと続く近隣諸国への威圧と食料の補給だったようです。砂丘を越えることなく帰ってゆきました。開戦間近と思わせて、こちらが浮き足立つのを狙ったのでは」 「ふぅん…どうだろうね」 そんな事をして得になるとは思えず、目まぐるしく思考が回転した。 (どういう意図だ?) 「嫡男は確か」 「マイル・ジーヴァスです」 「うん、そうだ」 世継ぎのくせに放蕩癖があり、年の半分も国内に留まっている事はなく、自国においても物心ついた時から「めんどくさい」と大々的な式典にも現われた事がない程の横着者だと聞く。 噂の信憑性は確かだ。崩壊寸前だった国を何とか立て直そうとしたディビット・ホープを死に追いやった時も、王子は不在、もしくはいたとしても表に出てくることはなかった。 とにかく。 父王が身罷ったとの報告を受けた帰国後の王位継承パレードにも城下に顔さえ出さないとなれば、うつけ者の世継ぎ、と判じても不味くはないだろう。 (…政権が交代したばかりでの愚案…だろうな…。父親も愚王だった。血筋か…) 疲弊しきった朝日の国と、我が国では国力が違い過ぎる。 どちらの国でもお互い仲がよく無いのは分かり切っている。特に朝日の国がエデンを嫌っているのは有名だ。 そんな国が軍を動かしたとなれば、我が国が開戦の準備を整えることぐらい、子供でも分かりそうなものだ。 準備さえ整ってしまえば、最早開戦の機会を作ることは容易い。 (罠の可能性は…?) だがどう考えても、あの国にそれだけの体力があるとは思えず、罠だったとしても、自ら火の粉を迎え入れる結果になる事は明らかだ。 (どっちにしとも愚策だな) 「このまま開戦させるように仕向ける。こうなったら一気に叩く。僕の、この手で」 月は結論を出すと顔を上げて強く言い放つ。 「どこまでもお供いたします、神」 To be continiued …あとがき… 王子=マット(笑)。 data up 2007.07.30 ≪back SerialNovel new≫ TOP |