■【裁きの剣】■ 13

「そこで颯爽と駆けつけたんだよ!」
「…はぁ」


【裁きの剣】



松田には行き着けのバーがある。
マスターは気さくな聞き上手で、時折冗談交じりに話す会話も相手を軽快な気持ちにしてくれる話上手でもある。しかも、良心的な値段の食事に美味しいお酒。…とくれば松田が常連になるのも道理というものだ。
いま就いている部署は大概がエリートばかりで、松田のような運と勘と多少のコネで配置された人間にはいずらい場所であった。
まあ、実家が名門という程では無いが、無名という程でも無い豪族の出という松田みたいな者は全体的に少なくはなかったので、あからさまに嫌みを言われたりする事は無かったが、それでも自分がお荷物に近い状態なのは知っている。
なので、その日も行き着けのバーへと運ぶ足は必然、速いものとなった。

「…それで今日も失敗してしまった…というワケですね?」
マスターはカウンター越しにグラスを拭きながら苦笑して言った。松田は既に酔ってカウンターにべたっと懐いていた。
「松田さんは官房官ですよね?まあ仕事外の仕事でのミスなら仕方ないんじゃ無いですか?」
「…官房官の仕事がちゃんと出来なかったから書類整理させられたんだけどねー…」
「ハハ、まあ何にしてもお疲れ様です。人間だから失敗はつきものですよ。また頑張ればいいじゃ無いですか」
「マスタ〜」
優しい言葉に松田がうるうるした瞳を向ける。マスターはウィンクをした後で軽くヒゲを撫でる。
「まぁ、私は商売繁盛でいいけど、この間のいい人はどうなったんですか?そういう人に慰めて貰った方が…」
以前、運命の人かもしれない、とか何とか騒いでいた時期があった、その人の話をすると松田は更に深く影を背負った。
「…運命の人じゃなかったんですね?」
「…そぅなんです」
松田から溢れ出る重い空気を言葉で喩えるならズウゥン…という感じだ。
「…じゃあ、いい人とまでは言わないですけど、新しく入ったヒトがかなり人気があるみたいですよ。行ってみてはどうです?」
「…ぅーん。確かに溜まってるし」
「ちょっと高いんですけど…華鳴館、知ってますか?」
マスターが耳元で小さく囁いた。松田は少し顔をしかめる。
「華鳴館…ですかぁ?あそこってエリート御用達で高い挙げ句イケ好かないって有名じゃ無いですか」
しかも油ぎったオッサン連中ばかりが通っていてなんだか気が乗らない。
「それがですね、最近はイメージチェンジを図ってるみたいで松田さんくらいの年齢の人も行ってるみたいですよ」
「へぇ。どうしようかな」
マスターはかなり耳よりな話をいつも披露してくれるものだから、期待が微かに湧く。話のネタにもなるし行ってみてもよさそうだ。


「で?!」
「はぃ?」
月の重たい声に松田は間抜けな返事を返した。その途端に月の顔がどす黒く染まるのが見えて、松田は狼狽えた。
「だから、颯爽と助けた後の話が聞きたいんですけど…!」
男が女に絡んでいた、それを助けた話の成り行きはそのまま進むどころか後退してまだ話の核心へと辿り着かない。
「僕は時間が無いんです、早くして下さい」
脅すように言って、月は松田から所要時間2分で事のあらましを知る事が出来た。
最初に話した話の訳1/4で済んだのだった。



To be continiued


…アトガキ…
何かどーでもいい感じになってしまって申し訳ない…。
2006.01.14



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