■【冬の陽だまり・夏の影】■ 06

【冬の陽だまり・夏の影】
―5―



 タイミングを見計らって、照は生徒会室を抜け出した。
 二人が向かう場所は決まっているので、迷うこともなく、最短距離で体育館の扉をくぐる。
 姉妹校と合同の文化祭は、例年にないことだったので部活動は早くも休みに突入していて、照は無人の体育館内を足音を立てぬように気を配りながら歩き、地下の倉庫につながる扉をそうっと開けた。
 中は沈黙で保たれていて、まだ二人が来ていないのかと思わせるくらいの静寂に、照は思案しながら死角からゆっくりと身を乗り出そうとした。
「ん……」
 ちゅっ、という濡れた音が耳に響いて、即座に動きを止める。
「…ん、月く…」
 聞いたことのないような甘やかな声に照はコンクリートの階段の敷居に無意識に爪をたてた。
「して、ください…」
 言葉の内容に思わずぎょっとする。
「ぁっ…」
「える…」
「んっ…ゃっ」
「嫌じゃないくせに…もうとろとろにしてるよ?」
 くちゅっという淫らな水音と、卑猥で意地悪そうな夜神月の声、えるの喘ぎに、照は一瞬だけこのまま地下をでようと思った。
 頭がおかしくなりそうだ。
 だが、まだ全部を確かめていない。
 そおっと慎重に慎重に仕切ってある壁から身を乗り出した。
 声は小さなコンクリートに覆われて反響してはいたが、おおよその見当はついていたので、すぐに照は二人を認識することができた。
 そして、その瞬間。

 裏切られた、と感じた。
 何故だかわからないし、実際二人が照を裏切ったわけではないのに、(夜神月に対しては判別がつかなかったが、)照は二人が裏切ったという理不尽なやり場のない怒りを感じた。
 このまま割り入って止めてしまえればいいと思った。
 壊してしまえればいいと思った。
 それほど照にとって、ショッキングな映像だった。
(………)
 今にも「お前達、何をしている!」と飛び出そうな一喝を無理やり嚥下して、夜神月とえるの情事を観察する。
 どちらに非があって、どう処理すればいいのかを、冷静に見極めることが自分に課せられた使命だと言い聞かせて。
 身近な二人の情事に、照が欲情することなどは無かったが、その夜、照は鮮烈な悪夢にうなされたのだった。


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