■【冬の陽だまり・夏の影】■ 13

【冬の陽だまり・夏の影】
―12―

 えると二人、クリスマスを過ごしてから数日。
 本来、元旦の予定は無かった二人だったが、えるが幼少時に、よく一人でお参りに行っていたと聞いて、照は「では一緒に行くか」と初詣に誘った。
 待ち合わせの駅に時間通りに照が現われると、そこには艶やかな赤地に、黒や緑や金の紋様の入った着物姿のえるが落ち着かない、という様子で立っていた。溌剌とした若い気配の中に、艶やかながらも楚々とした着物が少女の中の女を垣間見せる。
「…なんですか…」
「いや。」
「わ、私は普通の服で来ようとしたんです!でも、ワタリが…」
 年始の挨拶も忘れ突っ立ち、じぃっと眺めている照に、えるが顔を赤らめて不本意なんだ、と告げる。それを目を眇めて眺めてから素直な感想を口に出した。
「似合っているぞ」
「…っ…、反則です…」
 真顔でそんなことさらりと言わないで下さい、とえるが詰るので、照は「?」を浮かべて頭を捻った。
 どうして、真顔で褒めることがいけないのだろうか。
 そんな表情で問いかける照に、えるは手に負えないとそっぽを向いた。
「おかしなヤツだな」
 問いただしてみようとも思ったが、ただ照れているだけのようにも見受けられて、保留にして「行くぞ」と歩きだす。えるが「はい」と言って下駄を鳴らしながら後を着いて来た。
(やはり竜崎には赤が似合う)
 緋色の着物は、えるの黒髪によく映える。やはりクリスマスのプレゼントを赤い宝石のネックレスにして良かったな、と思い、もう一度その姿をよく見ようと思えば、隣にいない。
「何をやってる…」
「歩くのが速いんですよ…!!」
 元旦なので神社につくまでの道すがらは人がまばらだ。すぐにえるの姿を見つけて戻っていくと、怒ったように服の肘を掴まれた。
「私、着物なので、歩き辛いんです!」
「なるほど…」
「もっと、ゆっくり、歩いてください」
 ぎゅっと服を握り込まれて、胸の中がざわめいた。このざわめきは不意に照を襲ってきては、時にはフリーズさせるまでに至る。
「会長?」
「あ、…ああ」
 ぎこちなく頷くと、えるがクスリと笑う。それで、照は再びギクリと身体を固めて、視界をえるから逸らした。
 これで、二度目だ。
 えるの言動に、照は心を乱される。そして、思わず照が固まってしまうような行為を、えるは取る。
 一度目は、クリスマスに一晩中えるを抱いた明け方のことだった。
 抱きしめて眠ってはくれないのか、と言ったえるに、思わず照は固まった。
 自分がえるに夜神月の事を忘れさせようと、アプローチするぶんには問題は無いのだが、そんな風に優しく受け入れられると、途端に照はどうしていいのか分からなくなる。
 こういった感情に慣れていない上に、好意にも慣れていない。
 だから、そういったえるの言動は容易に照を固まらせてしまうのだ。
「ゆっくりですよ、ゆっくり」
「バカではないのだから、分かっている」
 思わず早足で歩いてしまいそうになるのを、えるの落ち着いた声音と腕の重さで引き止める。
 その重みが嫌いではないと、照は思って、眉間に皺を寄せたのだった。


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