■【冬の陽だまり・夏の影】■ 15

【冬の陽だまり・夏の影】
―14―


「ちょっ!…んっ」
 ガチャ、と玄関のロックをかけた途端えるの体を抱きしめて唇を奪う。
「ん!んんんぅ〜〜〜〜!」
 優しい触れあいさえせず舌を絡める照に、えるは微かに抵抗の意思を示したが、すぐに諦めたように大人しくなった。
「っ、はぁ…」
 大人しくされるがままにしていたえるが、唇を離すとゆっくりと瞼を開く。
「…大丈夫、ですか?」
 潤んだ瞳で真っ直ぐに問われて照の心臓がグラリと揺れる。今更ながら、高田の言葉が脳裏に響いた。
(だからといって、そんな事は断じてない…!)
「わ!」
 ぐっと目を瞑って耐えると、照の顔を覗きこんでいるえるを抱き上げた。
 寝室に直行してベットに下ろすと、抱き上げた時にばたついていたからか、裾が僅かに乱れて白い足のラインが覗く。
「竜崎…」
 覆いかぶさるようにして膝をベットに沈めると、真意を推し量るように照を監視していた意思の強い目の光が、ふっと消えた。
「まったく…」
 小さな溜息をついて、えるが買ってきた破魔矢の袋を手放す。
「着物の着付けなんて、私一人では出来ないんですからね。着付けられたのも今日が初めてです」
 睨みつけられて、照はこんな時に思わず微笑んでしまった。ズクン、と響いた胃の腑の痛みが薄っすらと和らぐ。
「それは私がどうにでもしよう…」

 飾り帯だけ最初に除けてから、お互いに口付けた。
 触れ合った瞬間そこから熱が生まれて、照の脳髄を甘く犯していく。
「んやっ」
 何度も何度も角度を変えて口付けている最中に、襟首をくつろげて腕を差し込むとビクリとえるが大きく跳ねた。
「ぁっ…んんっ」
 手の平全体で探るようにして撫でてから、すぐに堅くなった突起を指先でなぞると照の首に回した腕の力が強くなり、口がお留守になる。
 それを意識させるように、深く貪って、袂を別つと太股を撫ぜた。そのたびにえるの体が返すどんな小さな反応も見逃さないようにする事で、沈みがちな思考が払拭することができた。
「着物が…皺になって、しまいます…っ」
 涙目で呼吸を早くして訴えるえるに、分かったと照は襦袢ごと脱がし、それを皺にならないように椅子にかけた。ベッドに視線を戻すと、えるが肩紐のずり落ちた下着姿のまま、白い足袋をもぎ取った所だった。
「…出来れば、カーテンも…」
 ぽいと、足袋をベットの下に捨てながら、『明るいのは嫌だ』と催促されたが、照はそれを半分無視して上着だけを脱いで掛け布団を捲り、潜むようにして覆いかぶさった。
 多少息苦しい感がある気もするが、こういう秘め事も悪くはない。
 己よりも小さい体を撫で回して、下着を取り払い露になった秘密の場所に指を這わせた。十分にぬかるんでいて、今すぐ突き立てたくなる衝動をなんとかやり過ごす。
「ひ…っ…ゃぁっ…、も、も…ぃ、ですから…っ」
 まだ若い膣に自覚させるように緩やかに指を増やし、小さな胸を吸い上げる。イヤイヤと首を振るえるの懇願は無視してぐちゅぐちゅと音を立てさせると肩に爪を立てられた。
「ゃっ、ゃだ、そこ、もっ痛っ…ぁっあっ、やっ、ダメ、イっちゃいま…っ」
 至る所への愛撫に、ビクビクと全身が震えてえるの体が脱力した。それを見届けてからギュウっとした締め付けから解放された指を引き抜き、名残惜しく乳房の先端を甘噛みしてから布団から顔を出す。サイドテーブルの引き出しを開け目的のものを持って戻った。
「…今のでお前の匂いが薄れてしまったか…」
 ベシリ。
「…何をする」
「は、恥ずかしいこと言わないでください…っ」
 思った事を口の出しただけなのに、力なく叩かれて、照はまだ快感の余韻を強く顔に残した顔をまじまじと眺めた。「ああ、もう」とえるが腕で顔を覆う。
「?お前の匂いが好きなのが、どこか都合が悪いか」
「…っ!も、もーっ、信じられませんっ!なんで、そんな事真顔で言っちゃうんですか…っ」
「先ほどもいったと思うが、思った事を言ったまでだが?」
「月くんより、性質が悪いですっ…!」
「………」
 思わず口を吐いてしまったのだろう。押し黙った照に対して、すぐにはっとしたようで、えるが顔を隠した腕を退けて真剣にこちらを向いてきた。
「悪い意味ではありません。…その度に私は心を揺さぶられます…」
「そうか」
「それにしても…。…私のどこがいいんですか…」
「どこ?」
「何故、私を好きになったんですか?」
 じっと問い詰められて、照は答えに困窮する。『どこ』と問われると、なんだか答え辛い。
「そうだな…」
 改めて考えを巡らすと、僅か数ヶ月がやたらと長い気がした。
 どうしてえるを好きになったのだろうか。
 気がついたのは、情けなく申し訳ないことにえるを無理やり組み敷いた時だったが、以前から嫌いではなかった。
 そもそも、『嫌いではない』と思うところがえるには多かった気がする。
 それは即ち照にとって、『好き』と同意義ではないだろうか。
「…も、いいですよ…。愚問でした」
 考え込んで黙ってしまった照に、えるがこそりと息を吐く。
「…私を真っ直ぐ見るところ…だと思う」
「え?」
 一旦寂しそうに逸らされた視線が驚きをもって照をみつめ返してくる。その瞳に向かって照はできるだけ慎重に、思いを言葉に集めてみせた。
「…上手くは言えないが、お前に真っ直ぐ見つめられる事が嫌いではない。何の遠慮もない、飾らずに向かい合う、そんなところが、私は嫌いではなかった」
「………」
「だから、愛しているのだと、思う」
 薄闇の中でもえるの顔がかぁっと染まるのが分かった。
「…その、照れるものですね…。っていうか、何で私だけが照れるんですか…」
「事実を言ったまでだ」
「…本当にもう!!」
 いつも真っ直ぐに見つめてくる視線が逸れてしまったが、それはそれで好ましく、照はゆっくりと微笑みの形を作り、「竜崎」と名前を呼ぶ。
 そろりと向いた顔が拗ねたような表情で、可愛いと思ってしまうものだから、自分に少し呆れる。
「でも、匂いが好きなんて言葉、変態ですよ」
 その、照れ隠しのような言葉を紡ぐ唇に、触れるだけのキスをする。
 それだけでえるは全身を震わせた。


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