■【タイム・リープ〜凍結氷華〜】■ 01

ここで生きると決めたけど。
僕の未来は氷の中。


【タイム・リープ】
〜凍結氷華〜


本能で選び取ったけど、
最大限に考え果てたとしてもきっと答えは同じ筈だ。
竜崎と一緒にいたい。月の一番の望み。
しかし、帰れなくていい、と言い切った月に竜崎は相変わらず容赦がなかった。

「何言ってるんですか。バカじゃないですか?」
「な…、バカとは一体なんだよ!」
「バカだからバカだと言ったんです。帰れなくていいはずないじゃないですか。どうして帰らなかったんですか」
立て水の如く続けられて些か気分を害しながら月は口を開いた。
「だから、お前と一緒にいたいからって…!」
「戻った先にいるじゃないですか」
「…………」
思わず「え」となった。竜崎の言葉の意味が上手く咀嚼できない。
「ですから、戻れたのがあの日ならば、やり直せるじゃないですか」
「…いやでも、あの日に戻れる確証なんかないだろ…」
一瞬「本当だ」と納得しかけたが、思いなおして月の腕の中にいる竜崎を睨みつける。竜崎はあっさりと「まあ、そうなんですけどね」とそれを認めて、ああもうコイツは…と思いながらあまりの嫉ましさに月は溜息をついた。
「…僕はお前をこんなところに一人にしないで、残ったんだよ?もっと涙ながらに喜んでくれてもいいじゃないか」
もっとも、竜崎が涙ながらに『月くん、私の為に残ってくれたんですか?!嬉しいですっ』などと言ったとしたなら、熱でもあるのかと疑ってしまうだろうが。
しかし、竜崎は熱なんか出すはずもなく、相変わらず竜崎だった。
「バカ言わないでください。月くんにはやるべき事があったんじゃないですか。あっちに辿りつくことが出来て、もし、記憶を保つことが出来たなら、多くの命が救えました」
「だけど…」
「それが月くんの一番の贖罪になりえたのに、私と『一緒じゃなきゃ嫌だから』?そんな事で放りださないでください」
「……そんなことって、言うのか?」
「言いますよ。犠牲とするなら私と、月くんの気持ちと、この二つで数え切れない命が救えたかもしれないんですよ?そう言わないでどうするんですか。可能性が高いほうに賭けるのは当然でしょう」
竜崎の淡々とした声に、月は臍を噛む。竜崎は月を挑発する天才のようだ。一々ごもっともだが、その言葉はこの氷の大地並みに冷たい。悔しすぎて涙もでなかった。
「今度道が開いたら、一人で戻ってください。…どうせ貴方が一緒に残りたいと思った相手はこんな人間です」
冷たく言い放って、竜崎がぐいっと月の胸を押し、抜け出そうとする。立ち上がって離れていこうとする腕をとって、一度きつく目を閉じると月は毅然と面をあげた。
「嫌だね。僕を挑発して諦めさせようとしても、無駄だよ。僕を誰だと思ってんの?キラだよ?」
月は不敵に唇の端を上げる。そして続けた。
「確かに、捕まったからにはキラは廃業するし、犠牲にした人間にも悪いとは思ってるよ。それだけの犠牲を出して新世界を完成できなかった償いはするつもりだ。…でも、それでも僕は自分を優先する。…お前の目の前にいるのはキラだ。世紀の大悪党を野放しにしていいの?またとんでもない事を考えつくかもしれないよ?」
「脅すつもりですか?」
「嫌だな、責任とって、悪行しないように見張っててって話しだよ。…だから、もうわざと『こんな人間』だなんて言わなくていい。…お前はよくやってるよ」
「…。」
「分からないとでも思った?わざと挑発して、次こそは僕と世界を確実に生かそうと思ったんだろう?でもそんな挑発に何度も乗るほど僕はバカに出来てはいないし、…それに、おあいにく様。もう僕も戻れない」
「…どういう意味ですか」
「僕も自分の死因を思い出したんだよね。だから恐らくもう戻れないよ」
「……折角のチャンスだったというのに」
そう告げると竜崎が静かに瞑目してから小さく溜息をついた。
「でも記憶も残るか分からない賭けだよ?そもそもあのトンネルを抜けきれる保証だってないし、向こうにつくのがこうなる前だとも限らない。だったらこっちに残って、まだ生きている人間を救済したほうが確実だと思わないか?キラとLなら最強だろ?」
「勝手なことを…」
「なんとでも言えよ。それに勝手はお互い様だ」
不敵に笑って竜崎の腕を強く引く。
たたらを踏んで体勢を崩した竜崎の頭を引き寄せ口付けた。
「止めてください」
ぐいっと押しのけられて睨むような黒い瞳がひたと月を見据える。月は突然拒否されて首を傾げた。
「どうして?約束しただろ?」
「あれはどうにもならない状況だったからです。自らの意思でここに残ったのなら、それも覚悟の上でしょう。月くんの性事情を私が考慮する必要などありません」
「ふぅん…。まあ最初から嫌がってたしね…。一理あるね。…分かったよ」
「……」
「何?やけに素直だって思ってる?…そうだね、何か企んでいるかもよ?」
くつくつ笑うと、月は険しい表情をした竜崎を挑戦的に見つめて笑った。
「ずっと僕が何をするかで悩んでなよ。お前のその回転のいい頭が僕の気持ちを分析しきるまで、ずっとね」


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