■【タイム・リープ〜凍結氷華U〜】■ 17

いつか、
いつか、花を咲かせよう。
この氷の大地に一面の花を。
彼らの弔いにかえて。


【タイム・リープ】
〜凍結氷華U〜#17


空は晴天。
青く澄んだ光が白い大地を煌かせて、月は穏やかに笑っている。
「そんなにはしゃぐと転ぶぞ!」
「ころばなーい!」
こんな無機質な死にかけた大地でも、子供らしい明るい声が聞こえれば美しく見えるのだから、不思議なものだ。
きゃっきゃっと屋上ではあるが久しぶりの外に小さい体があちこちを駆け回る。
少し癖のある黒髪がポニーテールに結わえられて尻尾のように踊り、月に笑いかけるブラウンの瞳は優しく力強く輝いている。
「お父さん!」
無邪気な声が月を呼んで、その体は一直線に月に体当たりをしてくる。月はシャベルを放りだして、その体を抱えあげた。
抱えられて出来た影に笑顔が映る。あれから6年の月日が過ぎた。
一命をとりとめた南空はペンバーを探すために海外の救命捜査員に加わり、広く世界を回っているそうだ。
総一郎も南空とは違うルートでやや生存の厳しいとされている地域を回っている。
粧裕もそれについて行った。
結局皆には月がキラだということがバレてしまったようで、しかし誰もがその事を口にしなかったから、月は今でもそれに甘えている。蒸し返したところで、何にもならない。
相沢や模木、松田や生き残りの皆は南の地で頑張っているらしい。特に捜査員だった3人はニアにこき使われている、と聞いた。
そして月はというと、今は捜査本部でワタリと竜崎と、竜崎と月の子供の4人で厳しく忙しい生活ではあるが、心穏やかに暮らしている。
「二人とも、何遊んでいるんですか…」
竜崎の声がして、高い高いをしていた月は思わずギクリと凍り付いてから振り返った。
「…あれ、L…まだ時間じゃなくない?」
「月くんはこの子に甘いですから、様子を見に来たんですよ。早くしないと夜神さんたちが着いてしまうじゃないですか」
「…ゴメンナサイ」
どちらかというとルーズな竜崎の尻に敷かれて、月は軽くハハッと笑うと子供の柔らかいほっぺにキスをしてから着地させ、再びシャベルに持ち替えた。確かに我が子が幾ら可愛いとはいえ、時間に遅れるのはよくない。
なんていっても、今日は7年ぶりに家族が集まる日なのだ。しかも粧裕が新しい家族を、こさえて連れてくる。
「…ったく、なんでメロなんかと…」
「何か言いましたか?」
「…空耳じゃない?」
竜崎を諦めてくれたのは当初吉報でしかなかったが、その持て余した思いが粧裕に向くとは思わず、兄という立場からするとなんだか手放しで喜べない心境だ。
(まあ、粧裕に向いたというよりかは、粧裕が強引に向けさせたらしいんだけどね…)
メロの頭には粧裕を攫ったという引け目が残っていて、強く拒絶できなかったらしく、結局はそういう形に収まった。
(ああ、粧裕の子は男の子だって言ってたよなー、くそ、メロの子だけに手を出すのが早そうだ…。従兄弟って結婚できるんだっけ?…ああ、チクショウ。母方が違うと出来るんだった…!絶対渡さないぞ…!)
「月くん、顔がキラの時のようですよ」
「…ハハハ、気のせいだろ」
「親バカですね」
「お前もだろ…」
「正解です」
二人して顔を見合わせて笑う。
竜崎がゆっくりと口を開いた。
何度か噛み含めるようにして、声を押し出す。
「幸せです」
「僕もだ…」
「幸せです。あの子が出来てよかった」
「うん」
二人して、涙脆くなってしまってそっぽを向く。
竜崎は、生まれたばかりのわが子を抱いて、初めて涙の流し方を覚えた。
すってん、と二人の希望が大袈裟に転んで「「あ」」と声を揃える。
「「光!」」

氷の大地に力強く一輪の華が咲く。


あなたの名前は暗闇を行くものを照らす月を指す。
わたしの名前は法の正義を象った…Lowliet。

光、
ヒカリ。

貴女の名前が私たちの希望であり続けますように。



END


≪back SerialNovel 後書き≫

TOP