■【Lovers】■ 09

鳥月ピヨ日、晴れ。
今日もカッコいい俺様はちょっと泣きそうです。スンスン。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 普

走るな、とイギリスが言うので競歩で会場の廊下を通り抜ける。
「マジ信じられねぇ!あそこまでやるか、普通!」
「お前だって最後は『まだ嫌だ』とか言ってたじゃねぇか!」
カツカツと革靴が床を叩く。朝一番で出る筈が一本遅れて時間がギリギリだ。
遅れたのはイギリスの腰が立たなかったからという話で、それで今朝から不毛な言い争いだ。
勿論、人のいる所では流石に言える話では無いので、ドタバタと出発の準備をする少しの間と、誰もいない廊下を進んでいる今くらいのものだが、そこに昨夜の甘い雰囲気など1ミクロンも存在していなかった。イギリスはぎりりと眉を吊り上げている。プロイセンはどうしてこうなったと思わずにはいられない。なり立ての恋人同士らしく、もっと甘ったるくてもいいじゃないか。
「うるせぇ馬鹿!お前がそう仕向けたんだろうが!」
掠れた声でイギリスが吠える。プロイセンも負けじと声をあげた。
「仕向けたって言わねーヤツは言わねーよっ!俺様だけが悪いワケじゃねえっ」
「そんな事知るか馬鹿!つーかそろそろ着くぞ下らない話すんな!」
「お前が言い出したんだろーが!」
なんという理不尽な言いがかりだろうか。寝る前まではあんなに可愛かったのに、これである。
可愛いくない…といえば可愛いないが、こういうイギリスが嫌いでは無いと思ってしまうのは惚れた弱みなのだろうか。判別がつかないが、まあ、いい。
見慣れた――、なんだか懐かしい男姿のイギリスを見遣る。今日も可愛い。
「イギリス」
「…何だ」
「愛してるぜ、ベイビー」
「…っ」
丁度会議室の前に到着して二人とも足を止めた。気持ちを入れ替えたプロイセンが、にやりと笑ってその耳元に囁くと、真っ赤になったイギリスに問答無用で殴られた。とても痛い。
「今度公衆の面前でそういう事言ってみろ。全治3週間じゃ済まねぇからな!」
「つまり家で二人きりの時と全治3週間を覚悟すれば言っていいワケだな?」
「違ぇよ馬鹿ぁ!」
「冗談だって怒るなよ。ま、ほどよく緊張もほくれた所でそろそろ行こうぜ一分前だろ?」
唇の端を上げて笑うと本当に冗談かよという視線で睨みつけられた後、まあいいだろうと鼻であしらわれた。それから、二人が繋いでいる手に向けて視線が落ちる。
「…手、離すなよ」
「………おう」
ヤバい今のはぐっと来た。
プロイセンの頭の中は現在ほとんどピンク色だ。そういう意味じゃないのは分かっているが、なんかとても可愛い台詞を言われて胸がきゅんと疼いた。出来る事ならちょっかいをかけたいが、悲しいかなタイムリミットである。プロイセンは肩を竦めると仕事モードにスイッチを切り替えたイギリスの手をきゅっと力を込めて握り返して、その後に続いた。
「よー坊ちゃん。今日はギリギリじゃないの…って…」
扉を開けると最初に二人に気付いたのはフランスだった。
口上の途中で言葉に詰まるフランスに次いで反応を返したのは弟だ。
「兄さ…いや、兄貴。どうしてここに…というか…」
「ヴェー。二人ともどうして手を繋いでるの?」
イタリアちゃんがザックリ切り込んで、異常事態に気付いた面々の視線が集中する。
「…こいつが地下室の道具勝手に弄りやがった。」
「あー」
それで通じたのはフランスだけで他は首を傾げている。
何時もは遅い面々もドイツ邸に泊ったお陰で弟に叩き起こされたのだろう、揃いがいい。 普段であれば開始後1時間くらいは遅れる所を今日はすぐにでも始められそうだ。
(つーか!呪いって事にするって言ってたけど、俺様のせいにするのかよ!)
内心抗議したが、もう口は挟めない。プロイセンは拗ねて唇を尖らせた。
「ウチにはバズビーズチェアとまではいかないが年代物の呪具が多いからな。おいそれと触った結果がこれだ」
「…兄貴…」
「ヴェー」
「…だから変な事になる前にこっちにおいでって行ったのに」
「うるせぇ髭」
「何で俺だけ?!」
イギリス=不思議な事、の図解が出来ている上バズビーズチェアは確かに有名で、あっさりと皆がイギリスの証言を信じる。
(…貸し1つだかんな…!)
なんといっても後で弟に叱られるのはプロイセンだ。
確かに切欠には携わったが、やってない事まで怒られるのは割に合わない。
「まぁ、んなワケだ。会議には支障は無い。始めていいぞ、ドイツ」
本日の議長国に水を向けると、弟は「…ああ」と困惑気味ではあったが頷いた。この程度の事ならばお得意の3枚舌が活躍するまでもないようだ。
プロイセンはよく回る舌に呆れ半分、称賛半分でイギリスを見やってから大人しく即座に用意された予備のイスに腰を下ろした。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 英

あーだこーだと論議は進み、『順調に』と言って差し支えない程度に会議が進んで行く。
そんな中こちらに視線を向けるものはいない。皆、各々が主張したい事を頭の中に描いて発言者の言葉に耳を傾けている。
イギリスはちらりと繋いだ手に視線をやった。
椅子に座っていると手を繋いでいるのは見えない。もし違和感があったとしても、注視する程皆暇では無いのだ。
この分ならば議案については乗り切れそうだとイギリスは肩の力を緩めた。
(これからどうすっかな…)
もう、己の演説は終わり、今回の主張はいい方向に進めることが出来たといっても過言ではなかった。予断は許さないが、少しくらいの考え事なら差し支えないだろう。
そう思ってイギリスは自分自身について考えた。会議は大切だが、この後の事もイギリス個人にとっては重要な問題だ。
魔法で誤魔化した性別の件については、会議が終わった後にさっさととんずらを決めてしまえば、何の問題もなさそうだが、その後の難関に眉を顰める。
問題があるとすれば、プロイセンとどうやって別れるか、という事である。
プロイセンは『俺のモノ』などと言ってイギリスを抱いたし、イギリスも結局プロイセンの事を好きなんだと言わされてしまったけれど、付き合う事に関して言及はしていない。
狂宴の只中で思い知らされた気持ちは、夜が明けてみても変わることも無くイギリスの中に鎮座している。つまり、プロイセンの事を『好き』だと思う気持ちはちっともブレる事なくイギリスの中に存在しているのだけれど、だからといって恋人になる事を承知する事など出来る筈がなかった。
ちゃんと拒否しなければ、とイギリスは固く決意する。好きだからこそプロイセンの恋人にはなれない。
しかし、どうすればいいだろうか。
昨日あんな状態になる前の話では、プロイセンは会議後にドイツに帰ると言っていた。その通りに実行するのならば、空港では一端うやむやにしてしまっても構わないだろう。イギリスに来る際にはアポを入れろと言ってあるので、もし連絡があっても拒否し続ければ、自然消滅を計れるかもしれないし、そうでなくとも時間はとれる。
困るのは、ついて来ると言われた時だ。はぐらかす為のいい口実がまったく浮かばないし、少しでも挙動が不審になれば、プロイセンはイギリスがこの後に及んで逃げようとしているのに勘付くだろう。そうなったら一環の終わりだ。イギリスはこれから一カ月の休暇に入ってしまう。仕事という口実も無いまま強引にひっつかれれば、絆されない自信はまったくといって無かった。だって好きなのだ。
好きな相手に好きだと言われて、絆されないわけがない。イギリスの中にある問題は個人的なものだから、構い倒されれば簡単に護りは崩されるだろう。不安と幸せに押し潰されそうになりながら過ごす自分がありありと想像出来て頭が痛い。
だが、それでは困るワケで。
イギリスの意思を伝えつつ絆されないようにするには…、と考えて名案が頭に浮かんだ。空港で着替えを口実に行方を晦ましてしまえばいい。プロイセンが不審に思う頃に空港を抜け出すなりして後を追えないようにする。メールで『ごめん』と謝り、一カ月間逃亡してしまえばいい。何だったらその後も家に帰らずに他に部屋を借りても構わないだろう。そのうち、きっと諦める。
考えると胸が痛んだが、どうしようも無いほど好きになるよりかはマシだった。
決意すると心の荷が下りてほっと安堵の息が漏れた。
そうすると、握られた手に意識が向かう。
暖かい掌。子供のように高いプロイセンの体温にイギリスは緊張を和らげた。
空港までプロイセンを騙す為にも、あとちょっとだけ素直になってもいいだろうと、恋人気分で隣に座っている男をチラ見した。
イギリスの左手を繋いでいるプロイセンは、椅子に深く腰を掛け、現在の発言者の方向を向いている。
その横顔はいつものふざけた面とは違い少し怜悧である。最早こういった場に出てくる事は滅多には無いが、スーツを着てこういった面をしているとそれなりに見えて、イギリスは頬を緩めた。
(…こいつ顔は悪くねーんだよな。)
まぁ大抵国というのは皆そこそこの顔をしているものであるが、ドイツのように髪を後ろに流せばよりぐっと来そうな出で立ちになりそうだと胸がときめく。
(喋ると台無しだけどな!)
と思えば、おかしくなって偲び笑いを漏らしてしまった。
なんだか胸が暖かい。ずっとこんな風に些細な事で笑ったり、幸せを噛みしめられたらいいのに、と思いながら目を細めてその横顔を眺める。
端正な横顔だ。瞳は緋色というあり得ない色をしているが、とても美しい。まるで血潮のような、燃えさかる炎のような、生きている赤。それが感情を伴って色を変えるのを見るのが好きだと思えた。とても惹かれる。今だって、ちょっと目を離せない感じになりつつある。
なんとなく悔しくて、強引に視線を移動させた。すらっとした鼻梁を辿り、形のいい唇、顎のラインを辿って、耳へ、それから柔らかい髪の毛に。
ぼんやりと見惚れていると、右脇からツンツンとペン先でつつかれて、イギリスは眉を吊り上げた。折角楽しかったのに邪魔をしやがる奴は誰だと思えば、フランスだ。
「…何だよ」
「今日は打ち上げ出るんだろ?」
機嫌悪く声を出したが、フランスは気にすることなくイギリスを覗きこんだ。
「…出ねえよ。見りゃ分かるだろ」
暗に左手の事を示すと「お前ら利き手は空いてんじゃん」と返される。
「空いてたって不便だろ」
「なぁに。お兄さんがあーんしてあげようか?」
によによと他人ごとだと思ってからかうフランスに「いるかバカ」と吐き捨てる。
「…つか実際どーしてんの、それ。凄く不便でしょ」
「…やればできる」
というか、本当は呪いになんぞかかってないので何の不便もない。しかし正直に言うわけにもいかず適当に誤魔化そうとすれば、フランスが「帰るならお兄さんついて行こうか?」などと言いだした。
「は?」
「そんなんじゃ満足に料理も出来ないでしょ?まあお前は両手が自由でも満足に料理出来ないけど」
「うるせぇ。髭ひっこ抜くぞ」
「事実でしょうが。…後は着替えとかも大変そうだしさぁ…手伝ってやるよ」
いやいや何言ってんだこいつ、とイギリスは思う。昔からあれで世話焼きで、頼んでも無いのにちょくちょく海峡を渡って来るようなヤツだったけれど、今ついて来られていいワケがない。フランスがついてくる、などと言えばプロイセンまで一緒に戻らねばならないではないか。会議後に呪いは嘘でしたとバラしてひと悶着あるのも面倒である。
「…いらねーよ」
「またまたぁ」
はっきり言って有難迷惑だ。だからきっぱりと口を開く。
「いや、マジでいらねーから」
「…おい」
くんっと左手を引かれて、会話を中断する。
「…そろそろヴェストに怒鳴られんぞ」
「え?ああ。…確かに。…ま、フランス。そういうことだ」
告げてさっさと会話を切る。意識を会議に戻すとフランスも肩を竦めてから会議に意識を戻したようだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇side 仏

なーんか臭いんだよねぇ、とフランスは思う。
最初は呪いがとうのと言われて納得したし、今もそれ以外の理由なんざ浮かびもしないが、フランスの感性は引っかかりを覚えている。
伊達に千年お隣さんをやってはいない。プロイセンもそうだが、イギリスは尚更。
(違和感の正体は…距離感…かな?)
仕事上の嘘をついたなら、フランスにも容易に見分ける事が出来ないが、フランスの感じている違和感はどうやらそういった類のものでは無いようだ。
(お兄さんの勘が正しいなら…。)
こいつら寝ちゃったよね、と思う。
(しかもきっちり絆されてやがる)
だから二人きりにするの嫌だったのよ、と嘆息した。
イギリスのプロイセンとの距離の取り方がもはや身内に対するものだ。
普段はツンツンしているツンデレ紳士は、内側にいない人間を不用意にパーソナル範囲にいれない。
無意識だろうが、それはもう徹底している。長年イギリスを見てきた自分が言うのだから間違いはない。
そんなイギリスが会議中に幾度かプロイセンと会話しているのを見て、フランスは嫌な予感がした。それからちょくちょくと注意を向けていれば、イギリスがうっとりとプロイセンを眺めているではないか。フランスは思いっきり顔を顰めた。疑念は確信に変わってしまった。
イギリスはプロイセンに恋をしている。
(こっちに素晴らしくカッコいいお兄さんがいるっていうのに何でそいつなのよ…)
見る目ないったら。
そう思うが実際問題、イギリスとそういった関係になる為の努力をフランスが放棄していたのは事実で、遣る瀬無い思いに胸を締め付けられた。でも、フランスとて理由もなく今の立ち位置に甘んじているわけではない。
(…だってこの子怯えるんだもん)
それに関係をもった最初の展開がすこぶる悪かった。
(…お兄さんも若かったからねぇ…)
食べ頃になるまでじっくりと待つ予定だったのに、横からかっさらわれてカッと来た。
古く苦い思い出だ。
あれさえなければ、とっくの昔に恋仲にもつれ込ませた自信がある。
イギリスは偏屈な性格をしているが、根が単純なのである。
フランスが過去に思いを馳せていると、ぽんっという軽い音と「「あ」」というユニゾンが聞こえて現実のイギリスに視線を向ける。
フランスは目を丸くした。少しばかり小さなイギリス。年齢が後退したわけではない事は、その胸の膨らみが証明していた。これも呪いの一つだろうかと考えてから苦笑した。イギリスとプロイセンの仲が進展した理由に合点がいく。魔法とか、呪いとか、フランスは詳しくは無いのだが、イギリスの家にいる存在の事は一応知っている。そう考えるとすんなりと答えが導きだされるではないか。
(実は女の子だった…とか?)
信じられない、という思いが無くはない。けれどもこの規格外の腐れ縁は、他国を天使の奇跡とやらで小さくしたりととんでもない前科を持っている。ならば過保護なイギリスの所の小さなマドモアゼル達がイギリスを守る為に魔法をかけたと考えても別に矛盾は感じられなかった。
それが解けて現状に至ったと考えた方が、うっかり呪いにかかって女の子になった、と考えるよりかは信憑性がありそうだ。何故二人が手を繋いでいたのかは知らないが…。
フランスは再び嘆息して、「どーしたのよ、それ」と声をかけた。

「こ…これは、その…」
「なぁーに。それも呪いの影響?」
しどろもどろと口を開閉するイギリスに、フランスはさり気なく助け船を出してやった。
「そう!そうなんだ!だから気にするな!」
「気にするなと言われましてもねぇ」
オーストリアが呆れ顔でイギリスに言えば、スペインがあっけらかんと
「何で?手ぇ離しとらんのに?」
と余計な事を言った。
「…あ…う…」
本当この子ってば仕事以外の事になるとダメなんだから…
心の中で溜め息をついてさてどうしようかと頭を捻る。何せフランスも全く想定していなかった事態だ。上手い言い訳が見つからない。
「イギリスって女の子だったの?」
いきなり核心をついたのはイタリアだ。
(天然ってこれだから困るんだよねぇ…)
イタリアには長い間性別を間違われていた事があるからか、特に何も考えていなかったのか、どちらかは知らないが、通常なら行き着かないであろう考えをぺらりと吐き出した。
「…うっ…、いや、その…」
イギリスも誤魔化したいのならそこで詰まっちゃダメでしょうよ、とアドバイスを送りたかったが既に後の祭りだった。思いっきり言い淀んでいる。
「なんや、呪いゆうんは嘘やったん?」
「…ぐっ…」
うん。もうアウト。完璧にアウトね。
「バレちゃあしょうがねぇなあ」
『さてどうしよう』と思っていると、はあ、という溜め息の後プロイセンが肩を竦めてそう言って、だよなぁと思いつつプロイセンを注視する。悪友はどう出るつもりだろうか。彼らに肉体関係があるのは間違いなさそうだ。イギリスがプロイセンに恋をしているのも、癪だが間違いではないと思われる。問題はプロイセンがイギリスの事をどう思っているかである。
「なっ!なっ!プロイセン!」
「お前のその反応じゃあ隠し切れねーだろ」
焦ったイギリスに向かって呆れたようにプロイセンが口を開く。そこに少し硬質なスペインの声が飛んで来た。
「ほな、嘘やったんか。本当けったいな嘘つきよって…よぉ今まで騙しとったなぁ…」
「知るかよ!俺だって知らなかったんだよ!」
「へーそーなん」
どうやらスペインは過去の経験から信じてないようだが。
(…まぁ知らなかったんだろうなぁ…)
この様子だと、と判じる。今の所プロイセンにイギリスへの恋慕を感じるものは無い。なりゆきってだけなら恩の字なんだけどね、と苦く思った。イギリスの性遍歴はフランスも良く知っている。だからちょっと手を出した、という事であって欲しいと願う。
「ヴェー…。イギリス女の子だったんだー。それだとあんまり怖くないかも。ね、兄ちゃん」
「…え…いや…」
「可愛いよね、イギリス」
「はあっ?!」
「ドイツもそう思うでしょ?」
「…いや、なんというか…、その、二人は手を離さないのだろうか…」
流石はイタリア、イギリスが女の子だと分かった瞬間に怖いのがどこかに吹き飛んでしまったらしい。
イタリアに声をかけられたロマーノとドイツは戸惑った様子である。
そして、不思議な事にてんで弱いドイツがとりあえず現実的な事に目を向けて言葉を継いだ。
その言葉にイギリスも手を握りっぱなしだったのに気付いてぶんぶんと腕を振り回す。手を離そうとイギリスは躍起になっているのだが、プロイセンは離す気が無いようである。
(…あーあ、さいあく)
どうやらプロイセンもその気のようで、フランスはにっこりと微笑みを浮かべた。どうやって二人の邪魔をするべきか。
「何やってんだ、離せよ馬鹿ぁ!」
「いやいや、離すなつったのはお前だろ?」
「バレた後じゃ意味ねーだろ!」
「そんな事ないぜ?恋人が不安定になってる時は握っててやるもんだろ?」
「「「「は?」」」」
一同がぽかーんとする中、フランスは思わず口笛を吹いた。
ふぅん。結構カッコいいコト言うじゃないの。
ケセッと不敵な笑みを浮かべているプロイセンに、イギリスはというと茹で蛸みたいな熟れた顔で酸欠状態の魚のように口をパクパクと開閉させるだけだ。フランスはとりあえず機能しなさそうなイギリスを放置してプロイセンに微笑みを向けた。
「なぁに。いつの間に?」
「まあ晴れて結ばれたのは昨日の事だけどよ」
「へぇ、そーなの、イギリス?」
水を向けるとイギリスは相変わらず真っ赤な顔で顔をぶんぶん横に振った。
「お、俺はイエスとは言ってねぇぞ!」
「はあ?!お前今更それ言うかよ!昨日あれだけ好きって…」
「わー!わー!馬鹿ぁ!」
この分なら工作しやすそうだとフランスは喉の奥でクツクツ笑う。
イギリスの堅い頭を侮ってはいけない。本当に面倒くさいヤツなのだ、コイツは。
フランスはイギリスの背後から凭れかかると「まあねえ」とニヨリと笑った。
「ベッドの中の睦言を本気にとっちゃあいけないよねぇ?だってその理屈だとお兄さん達千年来の恋人になっちゃう」
「おまっ…!なっ!」
イギリスが驚いたように目を丸くして此方を振り返る。
周りがとても騒がしく、女の子達には悪いなーと思いながらもここで引くわけにはいかない。
イギリスの目をじっと見て小声で囁く。
「決め兼ねてんだったら合わせとけよ。傷は浅い方が治りが早いんだぜ?」
こっそりと囁くと、『傷』という言葉にイギリスの目が揺らいだ。イギリスは個人的にここぞという所で不思議なくらい選択肢を間違える。
「ベッドの中で愛を囁くのは礼儀ってね?なあスペイン」
「え?それ俺に振るん?」
「お前だって経験あるでしょーよ」
「いや、まぁ、そーやけど…」
「なあ?イギリス」
小さくこくりと頷いたのを見てうっかり吹き出しそうになった。プロイセンの顔が苦渋に染まるのを悪いねぇなどと思いながらも喜ぶ。
「イギリス」
プロイセンに名前を呼ばれただけで腕の中の体が大袈裟にびくりと震えた。
「…お前、」
「いい加減になさい!このお馬鹿さん達が!!」
ばん!と大きな音と共にオーストリアが声を張り上げた。オーストリア、ナイス。
「大人しくしていれば破廉恥な事ばかり!そういうお下品な事は会議が終わって個人的になさいっ!」
ポコポコと湯気を出しているオーストリアに向かって「ごめぇん」と謝るとイギリスを解放する。
プロイセンもまた嘆息してイギリスの手を離した。
「俺様もう関係ねーから外出とくぞ」
「…あ」
はいはいそこで不安そうな声をあげない。
「おー。会議終わったら打ち上げ場所メールするわ」
何事も無かったようにフランスが返すとプロイセンが呆れたように「おお」と返事した。


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