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彼がいた。 「・・子津・・くん？」 彼はそばかすの残る頬を照れた笑みで小さく掻いてから僕にドリンクを渡してきた。 「・・・本当は・・・一人で全部したいのかなって思ったんすけど・・・。ボール磨くの・・・僕にも手伝わせて貰えないっすか？」 どうやら彼は僕がグラウンドの整備を終えるのをずっと待っていたらしい。 「・・・帰らなかった・・・の・・かい？」 僕が缶を受けとってそう聞くと彼はバツが悪そうに苦笑した。 「・・・最後っすから・・・」 彼の言葉を聞いて僕の胸は有得ようが無い程ズキリと痛みを訴えた。 「・・・やっぱり・・・迷惑だったっすか？」 そう言う彼の言葉に僕は痛みを隠して首を振る。 「いいやっ・・・。嬉しい。・・・嬉しいよ。とても・・・」 嬉しいのは本当だ。 この痛みは嘘では無いが。 最後の期間が少しだけ延びて僕は確かに嬉しいと感じていた。 「・・じゃあ・・・部室でボール磨きをしながら・・・これ、貰おうかな・・・？」 「はいっす！」 それから二人、他愛の無い話しをしながらボールを磨き続けた。 後ボールが数個・・・という辺りになって彼がぽつりと呟く。 「最後に・・・一緒にボール磨けて・・・嬉しいっす」 寂しさと、嬉しさと。 混ぜた表情。 ねえ、子津くん。 最後だって分かってるんだ。 だから・・お願い。 『最後』だなんて言わないで・・・。 「・・・・キャプ・・・んっ」 気が付いたら彼の唇を塞いでいた。 そのまま固いコンクリートの上に押し倒して咥内を貪る。 「・・・ん・・・ん・・・」 小さくくぐもった声を上げて身を固くする彼の頬を撫でてゆっくりと唇を離す。 お互いを繋ぐ唾液の糸がつっと線を引いた。 「・・・・キャプ、テン・・・？」 少し上気した頬と、濡れた唇と。潤んだ瞳で呼ばれて顔を顰める。 ああ、ダメだ。 この子が僕に抱いてるのは、憧憬であって恋やましてや愛なんてものでは無い。 「・・・・大丈夫・・っすか？」 やめて、くれ・・・。 そんな心配そうな顔で手を伸ばさないで。 僕を好きじゃ無いのなら。 僕のものにならないのなら・・・。 このまま突き飛ばしてくれたら良かったのに・・・。 「・・・・抱いてもいいかい？」 彼の手が僕の髪を弄るように到達したところで、僕は彼にそう聞いた。 「・・・・え？」 地に仰向けに倒れている彼は僕の腕の下で瞠目して僕を見上げた。 「・・・・それは・・・・」 「・・・・こういう事さ」 するり、と彼のユニフォームに手を忍び入れる。 「・・・！」 驚きに声も無い彼のユニフォームを脱がし、アンダーシャツを捲る。 何度盗み見たか分からない彼の肌が手元にあった。 「・・・ゃぁっ」 それに指を這わせて舌で嘗めあげた。 彼が腕の中で小さく悶える。 「子津くん・・ちょっと痩せたかな・・・？」 甲子園のトレーニングやらのせいで少し減量したように思える彼の滑らかな肌に舌を這わせながらそう、言う。 その間も敏感なのか、彼は僕の肩口の服を掴みながら小さく震える。 それに少し笑みを深くして僕は色づいた胸の突起を口に含んだ。 「・・・あっ！」 思わず、といった様子で彼が声をあげた。 僕はそれに気をよくしてぴちゃぴちゃと音を立てながらそれを舌で転がす。 「・・・ん・・・んっ・・・」 「・・・少し硬くなってきたね・・・。感じてる？」 「・・・っ///・・・んぅっ」 僕の言葉に顔をゆでだこのように赤くした彼は、言葉よりも雄弁に、指先で少し硬くなったそれを押しつぶしただけで大きく喉を仰け反らせ、甘やかな嬌声をあげた。 「・・・キャプ・・・テ・・・」 「・・・何だい？」 途切れ途切れ、僕の呼称を呼ぶ彼の顔を覗き込む。 その目は今にも雫を零しそうに揺れていた。 頬を撫でながら先を促す。 「・・・僕のこと・・・好き・・・なんすか？」 手が頬に触れて一瞬体を揺らした彼が目を瞑ってそう聞いた。 聞いて、ゆっくりまた開かれる瞼を僕は震えそうな手で覆う。 何て答えればいい？ 『好きなんだ』 『ずっと見ていた』 そう答えれば彼は僕にその身を抱かせてくれるとでも？ 『同情で？』 『最後だから？』 彼は優しい子だから、そう考えないとも限らない。 僕は・・・。 僕はそれでもいいから、彼を抱いてしまいたいと思う。 でも。そうしたら・・・・。 この先ずっと彼を僕の言葉で、同情で、振りまわしてしまう事にはならないだろうか？ 「キャプ・・・んっ」 それだけは、出来ない。 それを問う言葉を、僕は彼の唇を塞ぐことで止めさせた。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |