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【甘い香り】 「とりあえず、いるか。こんなもん」 「え～？明美の愛、いらないの～？」 そんな会話をした男男の（男女でないので） 「いらねーって言っただろうが！！」 「そんな事言ってねーで俺への愛は無いのか！！とりあえず！」 夜。 『甘い香り』 「そんなもんねーな！！」 ふんっと鼻息荒く犬飼家の雑誌を投げ出す天国にずずいっと犬飼は迫り寄った。 「・・・俺のことが好きだって言ったのは嘘だったのか？」 じっと真剣な目で見られて、天国はうっと返事に詰まった。 きっと辰羅川が見ていれば、こんな所ばかりに脳みそを使わなくても・・・とか思ったに違いないが。 「・・・そ・・・それはよ・・・ごにょごにょ」 言葉を濁す天国に犬飼は更にずいっと天国に近寄った。 「俺はお前から貰いたかったんだ。明美も・・・お前だけどよ。でも、お前から貰いたい」 「・・・う・・・うぅ・・・。あんなのギャグじゃねーか・・・」 もっと軽いノリで受けとってくれたら、今まさにこんな恥ずかしい状況に陥らなくて良かったはずなのだが。 「・・・俺はちゃんとしたのが貰いたかったんだ。・・・分かるだろ？」 だから、苦手な女のコからのチョコも全部断った、と真剣な目で見られて天国はたじっと目を逸らした。 「でも、机とかに入ってたの・・・持って帰ったじゃねーか・・・」 苦し紛れに言い退けると犬飼はふっと笑った。 「何だ。ヤキモチか？安心しろ。食べねーから」 「だっ・・・誰がヤキモチなんて妬いたっつったよ！」 「違うのか？そうだと嬉しいと思ったんだがな」 こいつ酔ってんのか？！と天国は思わず心の中でドロップキックを入れた。 開いた口が塞がらない。 「まあ、予想を遥かに越えた展開だが、想像がつかなかったワケじゃねえ。そういう事で・・・受け取れ」 ぽん、と四角い包みを渡されて、天国は目を丸くした。 「・・・・えーと、犬飼さん？これって」 「チョコレートだ」 「・・・・チョコレート・・・・・」 ぼんやりピンクの箱を見つめる天国に内心犬飼はガッツポーズを決めた。 （よっしゃああああ！でかした辰！！お前は何時までも心の友だ！日頃から俺にはお前には何かあると思っていたんだ！！） 『はっくしゅ！！』 常日頃からぞんざいな態度をとりつつ、とられつつ、何でお前ら一緒にいるんだ的な二人の内の片方の固い決意に辰羅川は家でくしゃみをしていた。 『風邪・・・ですかね・・・』 『よし。それじゃあ、俺様が暖めてやろう』 『いえ・・・ちゃんと暖か―――って！何で貴方が私の部屋にいるのです！！』 『大丈夫だ。鍵はかけた』 『そんな事は聞いておりません――――っ！！』 「・・・美味しいらしい。生チョコとか言うヤツだ」 今心の友になった親友が危険な目にあっている最中にもかかわらず、犬飼は天国を口説き続けた。 「生チョコ・・・俺大好きvVな、な♪開けていいか？」 うきうきと包みを見て目を輝かせる天国に、犬飼は普段はしかめっ面の顔を溶かして頷いた。 「ああ。お前のために買ったんだしな」 女のコにもみくちゃにされながら。 「マジ？！サンキューな！」 バレンタインにチョコを求めて数十年（そんなに経ってないだろうという言葉は敢えて置いておいて）。初めて貰ったチョコが、男からのものだという事は頭の隅っこに置いて、天国は嬉々として包みを開けた。 「わぁ～！チョコだ！！チョコ！！」 美味しい物は大好きだが、チョコは中でも大好きな天国にとって、目の前に並ぶ小粒のチョコレートはこれでもか、という程美味しそうに見えた。 「いただきま～す」 ぱくっと、口の中に入れると舌の上でまろやかに溶けるチョコの感じ。 「・・・・・・・うま～・・・・」 「美味いか？」 余韻に浸っていると、ベット際に追い詰められていた天国の前に立ちはだかった犬飼が優しく聞いて来たので、思いっきり頷いた。 「すっげー美味い！でも生チョコって高いじゃん。悪かったなー・・・」 実はチロルチョコしか用意してないし。 渡すのが恥ずかしかっただけで、初めて得た恋人が例え男であろうと、バレンタインはちょっとした、心浮かれるイベントなワケであって。 一応、ギャグで済ませられる程度にチョコは用意してあるワケで。 その前にこんな高価なモノを渡されて、どうしようかなあとか思ってしまう。 「・・・いや。いい。お前が喜べば、それで」 何時もに増してっていうかもうこれ犬飼じゃねえだろう、みたいな感じで微笑まれて天国の心臓が高鳴る。 「・・・そんなに美味いなら、味見していいか？」 ふっと犬飼の体温を近くに感じて、少し赤くなりつつ、天国は頷く。 「・・・あ、ああ。お前が買ったんだし！ほら――――」 チョコレートの塊をひょいっと持ち上げ、犬飼の口に放りこもうと自分の足を跨いで、膝立ちしている男の顔を見上げる。 まさに辰羅川の戦略その２が目覚しく成功しそうになった所で。 ちゅ。 「・・・・」 犬飼の野生の本能が、辰羅川の戦略を上まった。 「・・・んっ・・ん」 舌が割りこんで来て、甘くなった咥内に侵入してきた。 「・・・んぅ」 微かに残る甘い香りを嘗め取ろうとするように巧みに動く舌に、思わず酔ってしまう。 犬飼にあげるためにつまんだチョコレートが、体温で溶けて指をべとつかせる。 「・・・っはぁ」 唇が離れたかと思うと、チョコレート色の唾液の糸が二人の間を一瞬繋ぐ。 「美味かった」 それを綺麗にするように、犬飼が唇を嘗めて、目を瞑る。 「・・・凄い甘かった。サンキュ」 優しく笑う顔を凝視も出来ず、さりとて行為を非難も出来ず、指先で溶けた茶色をみつめる。 「・・・ん？勿体ねえな、とりあえず」 犬飼はその指を発見して、すっと天国の腕を持ち上げた。 「いぬか――――・・・」 少し潤んだ瞳で、指を含む犬飼を見つめる。 多少、焦げてはいるけど、その端整な顔。 口に含まれて、丹念に嘗め取ろうと絡まる舌の熱さに、伝染したように自分の体が熱くなるのを感じた。 「・・・んっ・・・ゃ・・め・・・」 まるで自分自身を愛撫されているような感覚に陥って、体を捩る。 「なんだ・・・・、ちゃんと用意してあるじゃねえか」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |