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手を伸ばしても。伸ばしても。 掴めることの無い雲はまるで。 自分の未来を物語っているようで。 『手のひらに一つ』 「そういや あんさん まだ一年やろ？ なんでそんな焦るん？」 その言葉に返って来たのは、 皆と同じ場所に立ちたい、 一緒に野球がしたい。 誰にも負けないくらい野球が好きだと。 誰もが望んで、かつては自分が望んでいた事だった。 一緒に野球がしたい。 「白鴎・・・」 呟く一片の欠片に勿論返って来る言葉などありはしなかった。 「白鴎・・・、白鴎・・・堪忍したってぇや」 目ぇ、開けてくれ。 ズキズキと体中が痛んだ。 万力で締め付けられるような痛みに、黒豹は一言も悲鳴もあげず、目を瞑った。 目の前には、血だらけで項垂れる相棒がいた。 リトルの時から一緒だった。 ずっとずっと一緒だった。 「どぉしてや・・・どぉして・・・わいやなかったんや・・・」 目の前で。夢を語り合った。笑い、泣き合った親友が撥ね飛ばされた。 悲鳴すら、出なかった。 「白鴎―――っ」 喉が震えた。 片翼を失ったものに、待っているのは暗闇だけだった。 無機質な白い部屋。 消毒薬の匂い。 白い空間に埋め尽くされた。 春の日。 アイツの球がとれんようになって。 わいはゆっくり、ゆっくり死によった。 一緒に表舞台に立てることを信じて。 立てることなど、なくても。 あんさんが、元気に歩き回れるように。 白球を追い駆けられるように。 青い空でひとつ。 希望を掴みとれるように。 信じとったわいの心は。 お前の球ぁ、受けられんようになって死によった。 あんさんとが、良かった。 人のええ顔しよった、あんさんの球が。 ああ、白鴎、堪忍したってや。 わいが悪かったねん。 あのぼんが、一瞬あんさんに見えた・・・なんて。 歯を食いしばって、投げてる子津があんさんに見えたなんて。 すまんかった。 一瞬でも見間違おうなんて、堪忍や。 でも、背格好も、バンダナつけて、髪形まて似てるなんて詐欺やろ？ ピッチャーで最も希少なアンダースロー投手なんて、詐欺やないか。 『二人でレギュラー狙えるかもしれないっすよ？』 猿野の言葉に一瞬でも詰まったわいが悪かった。 二人でなんてな。 二人はあんさんやて、決めておいたのにな。 許してくれへんのも、分かるよって・・・ 見て、られへんと思ったけどな。 大丈夫やで。 あんさんと一緒におるからな。 『黒豹』 『一銭』 『野球』 『腕落ちたらしょーちせーへんでー！』 『これはぼくの痛みや。お前がずっと欲しがってた、お前の痛みや』 『えかったなあ。えかった。ようやくお前、甲子園の土踏めるんやな？』 『大丈夫やで？一銭。半分もらって行ったから。お前も貰ってくれたやろ？』 『行きぃや。ホラ、駆け足！お前も『いい仲間』置いてやめたクチやろ？』 『その、僕たちの過去形になってしもーとる後輩と、一緒に土踏みぃや。甲子園の土をなぁ』 『一銭が、優勝旗持って返ってくれよったら、嬉しくて飛び起きてしまうかもしれへんなぁ』 『そしたら、お前帰して貰おうかー？その子津ってヤツと、一緒に球ぁ、磨きあってなぁ。ああ、楽しそうや。皆は元気やろうか？』 『約束やで？一銭。』 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |