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１日が終わる日には、傍にいて、優しいキスをくれる。 言葉はぶっきらぼうだけど、癖のある照れた微笑みを浮かべ、猿野は優しく髪を撫でた。 【隠れ家】 「あっち～っ！なんじゃ！この殺人的な暑さはっ！」 猿野が隣でぎゃーぎゃーと叫び、犬飼はいわゆる端正だと言われる眉間に皺を増やした。 「うるせーぞ、猿。お前のせいで日本は＋２度も気温があがってるはずだ…とりあえず」 「はあっ！？何で俺のせいなんだよっ！つーか俺のせいっつかどっちかつとお前のせいだろうが！そんなに焦げやがってこの焦げ焦げが～」 「…ワケ分かんねえ…」 「…」 言った猿野も実際よく分かって無かったらしい。 「…あちぃ…」 さっきまでのやり取りはまるで無かったかのように、呟くと、猿野は溶けかかったアイスをまぐりと口にくわえた。 「…コイツだけが俺のオアシスだ…」 先程コンビニで買ったソーダ味のアイスクリームは、そこだけ、やけに涼しそうに目に映った。 そして対照的に自分の持っているコーヒー味のアイスはほんの少しだけ猿野のアイスよりも暑そうに見えた。 「…お前なぁ、ワンコ…しょっちゅうしょっちゅうコーヒー牛乳味ばっか食べてんじゃねえよ…」 お前の舌は何かの病気か？と聞かれて、『とりあえずうるせえ』と返す。 猿野は元々目立ちたがり屋の性格からか、意外と話のレパートリーは広い。 だからか暴走していない時のコイツの話は、元々会話の苦手な俺でさえ面白い、と聞いてしまう事がしばしばで。 しかし、何故か毎日繰り返されるこの問答は季節が変わり、月日が変わっても変わる事は無かった。 「…おや、お二人共、少し涼し気ですね。アイスクリームですか？」 ふと十字路で辰とばったり遭遇した。 「…ああ、暑かったからな…とりあえず」 残りのハピコをずるる、と吸いあげると、辰は半眼で犬飼を睨みつけた。 「まったく、アナタと言う人は…他人を思いやると言う気持ちは無いのですか…」 半分呆れたような辰の苦言に、犬飼は首を傾げた。 「…どういう事だ？」 「…私はアナタをそんな犬に育てた覚えはありませんが…」 どこで教育の仕方を間違えたのでしょう、とぶつぶつ呟く辰に、流石にむっとして来た時、隣で軽やかな声があがった。 「あはは！辰っつんも報われねーな！ほら、俺ので良かったら半分やるぜ？」 笑いながら、猿野が辰にアイスを差し出して、なんとなく辰が言っていた意味が分かった気がした。 (つまり、俺が残りのアイスを食っちまったのが悪かったんだな…？) 流石にこれを口にすれば、けちょんけちょんに言われる自信(そんな自信があった所で何の自慢にもならないが)があったので、黙秘を通すにした。 「おや？宜しいのですか？」 「おー、流石にに俺とてガリガリ君２本目は腹冷えるしなー。辰っつんが食べかけ気にしなきゃ、食ってもいーぜ？」 ほらよ、と猿野が辰にアイスを差し出すのを見ながら、…そうだな、腹壊すのはいただけねぇな、ヤれなくなるし…とか、自分の都合のいい事をぼんやり考えていたら、辰は猿野が差し出したアイスを考えながら受け取り、少し口の端を上げて言った。 「…本当に宜しいのでしょうか…『猿野くんの『食べかけ』(←ここ重要)のアイスを私が食べてしまったりして』」 「…」 (猿の…食べかけ？) 辰の手を見ると、そこには今にも崩れそうな、まさしく猿野の食べかけのアイスが握られていた。 (…猿の食べかけ…) ≪ばくう！≫ 「ぎゃあ！」 「………………あははははは！！！！！！！」 「な、な、な、何してんだよ！い…犬飼っ！お前って奴はそんなに意地汚い奴…だったよな！」 「…………………あははははは！！！！！！！」 犬飼がばくりとアイスに噛みつくと、左手から、猿野の悲鳴、前方から壊れたような辰の笑い声が聞こえて、綺麗に食べたアイスの棒から顔を遠ざけ、口元を拭った。 「…………ふふふふ…、犬飼くんアナタ、ブラボーですよ…笑わせて貰いました」 くすくす笑いながら、犬飼の腕をぽんぽんと叩く辰に、じろりと犬飼は睨みつける。 「…とりあえずうるせえ…」 猿野は微妙に後方に下がり、うろんな目で此方を見ていた。 「…猿、行くぞ」 何事も無かったように、犬飼が呟き、後方に下がった猿野の腕を掴んで、進もうとすると。 「ちょっとお待ちなさいな、犬飼くん」 辰にがしり、と猿野を掴んでいる腕を掴まれた。 「…なんだ…」 「私。笑い過ぎてさっきよりも暑いんですよ」 「…そうか」 「わざわざ忠告をしてやった親友にそういう態度は宜しく無いと思いますが？」 ずいっと辰が手を差し出して来て、口を噤む。 「…ちっ」 舌打ちして、ポケットの小銭を漁る。 百円を辰の手に置くと、奴は不思議そうな顔で首を傾げた。 「…今時のコンビニでどのアイスを買えと？…それに、私、今ハーゲンダッツが食べたい気分なのですが」 いけしゃあしゃあと要求する辰に眉間の皺を増やしながら、もう一度ポケットを漁る。 丁度五百円玉が見つかり、辰の手の中の百円玉と交換する。 「おお、犬飼くん太っ腹ですね」 お前が要求したんだろう、と言う言葉は喉の奥に仕舞い、猿野の手を引く。 「あまり盛っちゃダメですよ～！」 今からコンビニに向かおうとする辰の忠告に、大きく『うるせえ！』と返す。 「テメエは腹でも壊してろ！」 捨て台詞を吐いて、一直線に自分の家に向かう犬飼に、猿野は笑った。 「…お前も辰っつんの前じゃ形無しだな、犬ー」 「んな事ねえ…」 笑ったままの猿野に犬飼は低く呟きもう一度強く腕を引いた。 1日が終わる、その時に傍にいる。 優しく髪を梳き、彼は笑う。 『いつでも、どんな時でも、お前が呼べば傍に行くからな』 それを聞いて犬飼は微笑んだ。 男同士の報われない恋でも。 それでも、ずっと傍にいる。 それが毎夜の猿野の口癖で。 「あっちー！！！！」 毎年、毎年、どうしてこんなに暑くなるんだろうな、と猿野が呟き、まったくだ、と犬飼が答えた。 「たまにゃ、アレだぜ。怠ける事も必要だってんだ。あー…、暑…。」 ギラギラとした陽射しの中を2人で歩く。 「…このグラサンが余計うぜえ…」 既に犬飼冥はプロ入りを果たし、今ではちょっとした有名人扱いだ。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |