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「しかし、貴様２年だろう・・・。年上のしかも主将である鳥居を呼び捨てとは、関心せんな」 余所様の事、自分が何か言うべきでは無いとは思ったが、そうしてナメられるのは七橋、ひいては剣菱の為である。 （・・・何でオレはアイツの世話をやいてるんだ・・・） しかも敵校の。 「身内同士では構わんかもしれんが、せめて外にいる時くらいは、威厳を示したほうがいいだろう」 「剣菱がそれでいいって言ってたから、朕、それでいいと思ってたヨ」 その言葉と自身の葛藤に眉を寄せ、鳥居は何しているんだ、と呟くと、王がしゅんと小さくなって顔を伏せた後、がばりと顔をあげ力説する。 「でも、剣菱、凄く頑張ってるネ！とても、頑張ってるアルヨ！」 「・・・。そうか。頑張ってるだけではどうにもならん事もあるがな・・・」 唇の端を上げて言う皮肉に、自分自身ぎょっとして、唇を噤む。 （オレは一体何を言っているんだ・・・） 「そんな事、朕達だってよく知ってるアル！！剣菱、本当にずっと来ようとしてたヨ！こんなヤツに会わない方が良かったアル！！朕、もう用件伝えたから、行くアルー・・・」 目にいっぱいの涙を溜めて反撃され、屑桐はそれを黙って聞く。 （・・・言い過ぎたか・・・） ダッシュで去っていく後ろ姿を見ながら、その場で反省する。 （情けない・・・） 少し経つと、自分が王に言った事は全てヤツアタリだと知れて、さらに自己嫌悪に陥る。 敵だというのに、それを押してでも一緒にいる時間を増やした。 時間は余るほども無いことを知っていても、それでも時間を費やした。 （オレはアイツに会うのを存外楽しみにしていた・・・という事か・・・） それを待たされた挙句に、駄目になったと知れて理不尽な怒りを抱いてしまった。 （いつもちゃらんぽらんしてるからと言って、理由も無く遅れたりするヤツじゃない事など、分かっていただろう・・・） 今まで待ち合わせした時も、けして時間に遅れて来た事など無かったのに。 それどころか、大概早くついている剣菱に関心さえしていたはずなのに。 （・・・仕方ない、謝りに行くか・・・） どうせ、剣菱といるための時間分は空いている。 「あら、アンタ」 「・・・中宮と言ったか・・・」 七橋は全寮制であるから、ここにくれば王を探すのも、鳥居を探すのも、容易い。 しかし、中宮に遭遇するとは思ってもなく、しかも中宮をあまり得意としていないので、他に誰かいないか、周りを見渡した。 「華武校の屑桐ね。ことづてが伝わってない・・・っていうワケじゃないわよね？ワンタンが泣いて返って来たもの。本人は隠してるみたいだったけど。」 仕方ないコよね、と笑って「で、アンタは何の用？」と訊ねてくる中宮に、他に人もいないので、王と鳥居に会いたいという旨を告げる。 「うーん・・・ワンタンには今は無理ね。あのこ、今かなりきちゃってるから、今日、明日くらいまで、普通に話す事なんて無理だと思うわ。何言ったのかは、知らないけど」 「・・・そうか」 王が中宮に喋っていない事を、少し以外に思いながら、仕方なく諦める。 「では、鳥居の用は何時頃終わるか、教えてもらえるか？何なら―――」 「ちょっと待って」 ばっと手を出して遮る中宮に『何だ』といった風に見下ろす。 「・・・剣ちゃんには会えないわ。今日とかじゃないの。県の大会、華武戦の時までは会えないわ・・・」 「・・・。何だ。予選に入ったから、漏洩を防ごうとでも言うのか？お互い自分が負ける為に情報を流す事などせん事ぐらい、分かるだろう」 「あー、もう、セッカチさんって嫌よ。誰がそんな事いったのよ。・・・まあ、そうとってくれてもいいけれど。どっちにしても。剣ちゃんとは会えないわ。会えないのよ。会わせて、あげられないから。」 「・・・どういう事だ・・・。オレは言いたいことがあるんだ。正当な理由を聞かずして、帰らんぞ」 頑固な様子に、はあ、と中宮は溜息をついた。 「・・・剣ちゃん。貴方に何か言ってない？」 「何かとは、何だ」 「・・・ま。今ここにこうして来てるくらいだから、そうだと思ったけどね。だったら他に言うことは無いわ。帰って頂戴。」 「おい」 くるりと振りかえって、スタスタ歩いていく中宮の肩を掴むと、思わぬ強さで肩の手を外された。 「貴方の戸惑いも分かるけど。今日はお願い、帰って頂戴。アタシ、剣菱から何も聞いて、ないわ。だから、貴方に言ってあげることは何ひとつ無いの」 そうか、 普段の自分なら、そういって帰る所だったはずだ。 しかし、何故か今ここを離れてはいけない気がして、その場に立ち尽くす。 「剣ちゃん、貴方に会えるの、楽しみにしてたのよ」 「・・・何、があった」 ふと、中宮や王に共通する何か、を感じたような気がした。 「何があった！何があったんだ！！」 声を荒げて、振り向いたままの姿勢でこちらを静にみつめる中宮の肩を再び掴み力を込める。 「・・・剣ちゃんが教えられないものを、私が教えていいはずが無いでしょう？」 くすり、と笑って、目を伏せる中宮の肩を軋むほどに力を入れる。 中宮は痛いとは一言も言わなかった。 「・・・決勝戦までには、まだまだ時間はあるぞ。・・・オレは、どんな手を使ってでも鳥居と会うからな」 「そう」 「だったら、今でも、その時でも一緒だ。場所を教えろ。寮にいるなら、侵入してもいい」 寮は基本的に寮生以外は受け付けられない。 許可をとっても良かったが、誰が許可を取らせてくれるだろうか。 脅しにも近い、その言葉に中宮は少し笑った。 「そんな事して、謹慎にでもなったらどうするの。剣ちゃん、貴方と戦う事を、とても楽しみにしてるのに」 笑って、少し空を見上げる。 「いっそ清々しいくらいの青空ね。貴方、時間あるんでしょう？ちょっとそこの喫茶店までつきあってくれない？」 少しの歩みよりに、黙って頷いて、中宮の後ろに続く。 カラン、とベルは涼しげな音を鳴らし、緩やかな音楽が聞こえて来る。 窓際に座った中宮がアイスコーヒーを頼み、屑桐も同じものを頼む。 しばしの沈黙と、ゆっくりと溶けていく氷が時間の経過を伝え、それ以上に心に募る影を伝えた。 「約束、して頂戴」 「・・・・」 「正当な理由無しに、会うのをやめる事は出来ないと、貴方は言ったでしょう？」 「・・・・理由にも、よる」 押しつぶしたような声に、中宮が何よ、と答えた。 「オトコらしくない返事ね。こっちが折角そう言ってるんだから、しゃきしゃきハイって言いなさい」 「・・・」 「まあ、貴方が何といっても、守ってもらいますけどね」 言って、ようやくそれの存在に気付いたように、アイスコーヒーのストローをくるりと回した。 「・・・、十二支の。せめて十二支の試合が終わるまでは。会わないで頂戴」 中宮はくるくるまわる氷に吸い寄せられるようにみつめてから、顔を上げて笑った。 「剣ちゃんはね、マウンドで死ぬのよ」 『それがアノコの望みなの。人の夢って書いて儚いって言うじゃない？だから、アタシは十二支の主将が言うような言葉は信じられないわ。信じていれば、叶う夢なんて無いのよ』 何も無い空間をまだ本人が座っているような感覚に陥りながら、睨みつける。 『いつか、人は死ぬの。剣ちゃんは、治癒が容易な病気ではないわ。今まで生きてこれた方が不思議なくらい。でも、アタシは哀れまないわ。いつか、人は死ぬものなのよ。元気そうにみえたって、明日事故で死ぬかもしれない。今ここにトラックが突っ込んでこないとも、限らないでしょう？』 緩く弧を掻く中宮の唇を見つめながら、奥歯を噛み締めた。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |