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貴方というヒトは完璧だと常に言われていて。 まあ、全部が全部完璧では無いと、知っていても。 ほとんど、満点。 僕としては、ちょっとばかり恨めしくも思い。 それから、何でそんなヒトと付き合っているのかも、疑問に思う。 『風邪をひいちゃいました』 渡り廊下を駆け抜ける風は、思わず首を竦めてしまうほど、冷たい。 こういう時、男子で良かったかなあ？と些細な性別の特典を喜ばしく思ったりもする。 普段からずっと閉めているから、今更襟首の苦しさなんかは、無いし。ズボンだし。 女子よりかは、暖かい格好をしていると思う。 子津はパタパタと足早に渡り廊下を決して走る事は無く、通りぬけてから、少しだけ暖かい室内に入ってほっと息を漏らした。 後はこの校舎の２階まで上がるのみ。 三年の校舎に来る事は滅多に無い1年という身分に在籍している自分だが、すっかり子津はここの空気にも慣れてしまった。 「牛尾、先輩」 冬のためにキッチリと閉められている戸をゆっくりと開けてから、牛尾に学生服、という奇妙なコーディネイトなシルエットを見つける。 （見なれると、学生服もしっかり似合ってるような気になるから不思議っすよね） はっきり言って、あの容姿には、既成の黒詰襟足の学生服よりも、ちょっと英国風の、ブレザー校の方が決まっていると思う。 三年の１２月という、やたらピリピリしているであろう空気は、その人が存在してるだけで、なんだか、３割減、という雰囲気で、今通り過ぎて来た他のクラスには無い暢気な風がふんわり流れて来て子津は思わず口を緩める。 すごい。 「あ、子津くんvV」 他のクラスから非難してきた、鹿目を含め、蛇神と一緒にご飯を食べていた牛尾と、蛇神達が顔を上げて、子津は小さく頭を下げた。 「早く入っておいでよ。寒いんじゃ無いのかい？」 今にも立ちあがって、子津を連れて来ようとする牛尾の手招きに、子津は「失礼します」と小さく呟いてから、境界線の内側に入る。 「ほらほら、子津くん、こっちこっち」 いつもにこにこした自称コイビトは手招きしつつ、自身の後方部に座ってるグループに向けて笑顔で椅子を催促する。 「いえ、すぐに戻らなきゃいけないっすし、いいっすよ」 後もう少しで椅子を奪われそうになった可哀想な牛尾のクラスメートと、牛尾に言いながら、牛尾の横に立つ。 「えー。そう？」 「子津。別に遠慮などしなくて、大丈夫なのだ。それとも、牛尾の膝にでも座るのだ？」 にやり。 多分、そういう擬態語が聞こえて来て、隣で輝きだす笑顔を見なくても想像してしまう。 「絶対、座らないっすから」 きっぱり、しっかりお断りしておいて、子津は本題に取りかかる。 「それで、っすね。今日僕がこちらに来たのは、受験で忙しいとは思うんすけど、たまには息抜きというか、皆でクリスマスパーティを企画したんで、それをお知らせに来たんすよ」 お祭り男猿野＋兎丸の手で作成された、招待チラシを「はい」と手渡す。 「一人一人に渡すのは、やっぱり大変っすし、よければ口コミで回して欲しいんすけど。」 皆が皆仲良しというワケでも、無いので、元主将の元にチラシを渡す。 「ほう、我は仏教徒だが、こういうのも楽しそう也」 「いい発散場所が見つかったのだ！これで猿野のヤツをどつき回せるのだ～！」 アイツは頑丈だからな、と不穏な事を言って軽やかに笑う鹿目に苦笑が深くなる。 「そうだね、皆ともそうそう会える事は無いし、都合をあわせて皆で遊びにひくよ」 「・・・？」 「・・・」 「・・・」 「・・・」 一瞬の静寂が耳を打って、原因となった男を一同が見つめる。 「お前、今噛んだのだ？」 「・・・牛尾？」 「・・・先輩・・・」 他のクラスメイトからも窺うように見られた牛尾が困ったように手を振り。 「あはは、僕だって、かみゅ事くらい・・・」 「「「・・・・」」」 不信な表情で牛尾を窺う皆の前で、そのまま、ふら～と体が傾ぐ。 「Σ！」 それを咄嗟に受けた蛇神が絶句する。 「・・・凄い熱也・・・」 急遽牛尾は自宅に返還されることになったのは言うまでも無いだろう。 「おかしいなあ・・・風邪なんかひく体作りなんかしてなかったのに・・・」 「何寝ぼけたこと言ってるんすか！ひく時はひいちゃうもんなんすよ。まあ、体作りが資本とは言っても、先輩忙しいんすから」 「うーん・・・野球やる回数が減ったし、子津くん不足だったからかなあ・・・」 学校をさぼる形で牛尾について来た子津は、虚言が続く口にすっと体温計をいれる。 「お医者さんから安静にって言われたのに何ぶつくさ言ってるんすか」 一応点滴も受けて、一時よりかほんの少し熱も下がったような牛尾は、体温計を突っ込まれて、仕方なく黙る。 「一偏寝ちゃって下さいっす。そしたら、もっと楽になると思うっすよ」 メイドさんが用意してくれたミネラルウォーターが入った銀のポットを枕元の机に置いて、その隣の椅子に腰かける。 牛尾はそれに不満そうな顔をした。 「・・・どうしたんすか。あ、でも今は喋っちゃダメっすよ。」 もごもごと口を動かした牛尾は、少し重くなった瞼をこすりながら、口を尖らせる。 （・・・うーん。なんかいつもと違う感じっすねー） いつも完璧な牛尾は、熱がある時でさえ、倒れる直前まで、それを窺わせない体裁をとっていた。 それは、付き合う上でも発揮されていて、子津は今でも何でこの人が自分を好きなどと言ったのだろうと常々思う。 大事にされていないわけでは無い。 『好きだよ』と言われても、それはテレビで見る社交界の紳士が絵画を見て『これ、いいね。僕は好きだよ』と言われているような感覚しか、覚えなかったり、する。 それで、何故現在も付き合っているのかは、自分でも不思議だったりするのだが、なんとなく、付き合っているのだから、仕方ない。 男同士とか、そういう厄介な問題を無視してでも付き合いたいと思う程、牛尾を好きなのかと聞かれたら、実は「うーん」と答えを渋ってしまう自信はある。 牛尾のことは好きだ。尊敬もしている。っていうか、あの日までは尊敬しかしてなかった・・・筈だ。 今でも、尊敬を越える好きがあるのかと言われたら、コイビトとして好きなのか、と聞かれたら、どうだろう、と思ってしまう。 そもそも、恋人としての「好き」がよく分からないのだ。野球一筋だった自分には。 それが、風邪をひいて、少し風変わりな牛尾を見ただけで、何故だか、胸がときめいている・・・ような感じがする。少女漫画風にいえば。 物思いに耽って、少し乱れた髪の糸を眺めていた子津は、電子体温計の「ぴぴっ」という音で我に返った。 「はい、貸してくださいっす」 口から、体温計を抜き取り、そのデジタルな数字を覗きこむ。 ３８．７℃。 大熱の部類にランクインしまくりだ。 早く寝たほうがいいだろう、と思って顔を上げると、先ほどから不満そうな顔をした牛尾が病床からぶすりと呟いた。 「・・・だろう？」 「は？」 語尾しか聞き取れず首を傾げた子津に、牛尾はそのままの表情で続ける。 「だって、子津くん帰っちゃうだろう？僕が、寝たら」 言われた言葉に、目を瞬き、子津は「まあ」と答える。 牛尾が寝ているのに、牛尾の家でじーっとしているワケにもいかない。 次に目が覚めるのがいつになるのか、分からないし、ここにはメイドさんも、家族もいる。一人きりならばいざ知らず、自分がいても役に立つ事はなんら無い。 「でも、先輩は寝なきゃいけないワケっすし。コレ以上熱が上がっても・・・」 「やだ」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |