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ふと、視線をずらす度に目にする。 沢山の友人の中で快活に笑うお前。 酷く、眩しく。 同時に少し苦しい。 『俺のモノ！』 「さ…」 「猿野くん！」 ようやく、一人になった。 それを見計らって、声をかけようとすると、俺よりも遠い位置から、子津が手を振りながら走って来た。 「…」 「お、どうした？子津っちゅー」 猿野は始まりかけた練習の前に駆けつけた子津に笑顔を向けた。 それにつられたように笑顔を向ける子津は、身振り手振りを加えて、用件を話す。 基礎的な合同練習以外に姿を見せ無い子津は、大雑把に言い終えてから猿野の耳元で小さく何かを伝えていた。 猿野が嬉しそうに、笑う。 あの様子から見ると。きっと、子津の秘密特訓の話なのだろう。 猿野が笑み、それから、子津がそれに、心底嬉しい、と言った風に笑い返す。 チクリ、棘が刺す。 「猿野くん」 「あ、キャプテン、どうしたんすか？」 子津と入れ変わるように、上着を着た牛尾が猿野に声をかけた。 ぱっちりと開いた瞳が牛尾を映し出す。 「うん。打席の話なんだけど」 はい。猿野は返事をしてから、少し真剣な表情で牛尾の示すファイルを覗き込んだ。 これが野球を始めて１ヶ月ちょいの人間なのだろうか。 少し眉を寄せて、牛尾と二言、三言、言葉を交わすさまを見ていると、もう素人だのなんだのと言わせられない雰囲気がある。 どうやら真剣な話は終わったのか、牛尾が口元に当てた手を離して、猿野に微笑みかけた。 優しい視線と、優しい言葉に、猿野の頬がほんのり染まる。 頭を撫でられて、照れくさそうに、頬を掻く。 チクリ、棘が刺す。 ほんの数秒、下を向いて嬉しそうに笑った猿野は、此方が話かけるのには多少きまずい雰囲気をまとっていて、声をかけそびれた。 「おっい！猿野ー！」 顔をあげ、踵を返した猿野の肩を獅子川が抱え込むように抱き寄せた。 「うわ！なんすか、獅子かば先輩っ！」 「うっしおと何話込んでやがったんだ～？今度のレギュラーの話か？」 猿野は特別その手を話すワケでは無く、顔を覗く獅子川に、にっと勝ち気に笑いかけた。 少し目を丸くした獅子川が、何事か言い、猿野の額をこずく。 また棘に苛まれる。 「犬飼くん…」 「…辰…」 不意に背後から声がして、振り向いた。 「アナタ何やってるんですか…。いつまで私を待たせるつもりです？」 目を据えて、下から睨み上げる辰羅川に小さく「いや…」と返す。 「…悪ぃ…」 言うと辰羅川は小さく溜め息をついた。 「猿野くんに用事があるのですよね？…猿…」 「辰！いいっ」 むぐ！と辰の口を押さえ、阻む。 なんとも言えない顔で口を塞がれたまま犬飼を見た。気まずげに犬飼は視線を逸らして、手を離す。 「…いい。投球練習に入る」 「…アナタがそうおっしゃるなら。その代わりに、ちゃんと身をいれて、下さいよ。」 「…とりあえず」 夕闇が迫って来て、牛尾の終わりの声が響いた。 整列の後、各自が片付けに入る。 「犬飼くん、本当に伝えたい事があるのなら待っていても仕方ないですよ。猿野くんの周りには常に人がいますから」 言われて、解散の一瞬後には同級生に囲まれている猿野を見つける。 ヤツは中心で大きく笑っていた。 「恋人、なんでしょう？もう少し大胆に誘っても大丈夫だと思いますよ。誰も気づきませんよ、今アナタが切なそうな視線を送っているよりかは、余程」 「……」 「いくら猿野くんに言われたからって、変な所で臆病なんですから…」 思いが通じたのはほんの２週間前で、このそうそうたるメンバーの中で自分が選ばれるとは思っていなかった犬飼は地味に激しく喜んだのだったが…。 『バレたら困るだろ？だから、今まで通りに』 仲間を信じないワケでは無いが、確かに広まって喜べる話じゃ無い。 下手をすれば、強制転校だってあり得るのだ。 だからこそ。 「兄ちゃーん！」 どしー！と兎丸が猿野にタックルをかます。 部室で着替えていた猿野は、うおあ？！と叫んでロッカー衝突を避けていた。 「ったく！危な過ぎるぞ、スバガキ」 「ごっめんね～？今度から気をつけるよ」 にこり、兎丸が笑い、猿野から少し離れる。 仕方ねぇな、猿野は兎丸の頭をガシガシッと撫でた。 「ねぇ、兄ちゃん、今日一緒に帰ろうよ♪僕ん家に！」 「ああ…いい…、ん？！お前ん家に？」 「うん！新作のソフトが手に入ったからさ！」 そこで、初めて猿野がチラリと犬飼に視線を向けた。 「ね？お願い！僕、お猿の兄ちゃんとやりたいよー！」 がばっと猿野に抱きついて、うるうると猿野を見上げた。 「…あー…」 猿野が少し困ったように頭を掻いてから、兎丸を見下ろした。依然兎丸のうるうる攻撃は続いていた。 「…犬飼くん、大丈夫ですか？」 黙々と着替えを行っていた犬飼に、ひそりと辰羅川が声をかけて来たが、答えずに、ロッカーの扉を静かに閉じた。 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |