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「夜神ー…」 「うん？」 「…何だ？」 声をかけると同時に二人が振り返って、一瞬空白が空いた。 【染み渡る声】 「竜崎…どうして名前で呼べないんだ？」 聞かれたＬの背中がギッと、ゼンマイの切れた人形のように止まって、月は眉を上げた。 「…しつこいですよ…」 「…しつこい、と言われてもね。夜神は二人いるんだから、僕は下の名前で呼んだ方が混乱しなくていいじゃないか。僕がそれでいいと言ってるんだし、前はそれで呼んでたじゃ無いか」 「…ですから。夜神くんの問題では無いからいいのです。これで。多少不便さはあるかもしれませんが。最後まで聞けば分かりますし…」 捜査本部に詰めて働いていると言っても全員が全員同じ部屋だというワケでは無い。 食事は皆でとる事が多いが、バスタイムなどは各自に割り当てられた部屋で行う。 現在、Ｌの体からはホカホカと蒸気が立っていた。 そんな彼の背中を見つめながら、月は首を傾げる。 「…いつになく歯切れが悪いじゃないか。竜崎なら効率の良さを取りそうなもんなのに、一体どういう風の吹き回しだ？」 月がそういうと、なだらかに曲がった猫背のＬの肩から彼の顔だけが振り向いた。 「…あまり立ち入った話はしたくありません。」むすっとした言い方に、月も少し機嫌を悪くする。 「僕たちは友達だろう？君は『立ち入った』と言うけれど、この話のどこが立ち入ってると言うんだ」 「…それでも私は話したくありません」 きっぱりとした態度に、月は溜め息をついて頭を落とす。 全くなんて強情な。 「…なんだ、竜崎が僕がキラだというのに関係してるのか？…例えば情が移るとか…そういう事で話せ無いと？」 じろりと睨みつけると、その視線にはいっかな怯んだ様子も無く、Ｌは一拍置いてから返事をした。 「…そういう事でいいです」 「へえ？」 「…」 「竜崎は結構推理したりする時以外はまあ分かりやすいね」 「…」 半眼のままこちらを恨めしそうに見るＬに月は小さく笑みを漏らした。 「…そんな事はありません」 「ぷっ！あははは！いいじゃ無いか、僕は楽しい」 「…不本意です」 更に拗ねたのか、Ｌが何も言わずに歩きだして、鎖によって月はつんのめった。 「…笑ったりして、悪かった。でも好感は持てるよ。何、まだ糖分とるのか？」 「…別に好感なんて持ってもらわなくて構いません。…風呂あがりには欠かせ無いんです」 二人以外誰もいないからか、ぺたりぺたりと自分で取りに行ったハーゲンダッツのカップ(大)を抱え、ソファにいつもの格好で坐るＬの背後に立ち、月は上がる口角を手で抑えた。 「でも、僕は持ちたい」 「…」 「竜崎は僕がキラだから、もちたく無いか？情報が漏れそうで嫌だとか？」 「…そんなヘマはしませんが」 「だったら、もう少し歩み寄ってもいいだろう？僕も疑われたままじゃ嫌だしね。もう少しお互いの事を知るべきだ」 「…」 「…それで、どうして名前で呼べないんだ？ついこの間ミサと一緒の時は呼んだろう？理由さえ聞ければ譲歩するよ、僕は」 「…またそこですか…執拗ですね…」 はあ。 一つ溜め息をついたＬがまふっとアイスを口に入れるのに、バニラの匂いがふわりと香った。 「案外僕は執念深いんだ。根気もあると思うしね」 背後で忍び笑うのに、 Ｌはなんとも言えない表情を作ったが、それは月からは見えない。 「正直脱帽です…。仕方ありません。この口論でこれ以上時間と労力を費やしたくない…」 「ああ、それでこそ竜崎」 にこり、とからかうように言われた言葉に、Ｌは正直に「ムカつきます」と応えてから呟いた。 「笑わないで下さいよ」 「…分かった」 「…、慣れて無いのです。恥ずかしい」 「…」 「…」 「…」 言われた言葉にしばしフリーズする。 Ｌに認められた脳もこの時ばかりは回転を止めた。 「…何が？」 「…それは何かの仕返しですか？」 本当にむっすりしてる声音に、月は頭に手を当てて考えた。 Ｌは爪を噛むように、スプーンを噛んでいる。 「ええと、僕が名前を呼ぶ事に対しての返事だからー…、…え？」 きょとん、といった表記が正しいだろう。 月のそんな態度にＬは更に背中を曲げて嫌そうな顔でハーゲンダッツを貪り食う。 「笑われるよりも腹が立ったかもしれません。」 「え？笑おうか？」 「…殴りますよ。」 「ははっ、冗談さ。ほら、今度僕のハーゲンダッツをあげるから」 「…そんな買収には乗りません」 と、いいつつ、少しだけ機嫌がよくなったようなトーンに、自然に笑みが零れる。 「…そうだな、じゃあ二人きりの時だけでいいよ」 「…話、聴いてましたか？」 ぽつりと漏らした月の一言に、Ｌが不可解なモノを見るような目で月を見る。 それに月は自分の笑顔がどういう効果をもたらすのか分かっていて微笑みかけた。 …Ｌ相手に利くかどうかは知らないが。 「ああ、勿論さ。でも僕は君の初めての友人だろ？…君の本名を教えろなんて言わないから、そうだな、最初は気がむいた時だけでいいから」 「…ずっと気なんか向きませんよ…。」 「…それは困るな。竜崎のせいで仕事の効率が落ちそうだよ」 「…なんですか、それ。いいです、私一人でやりますから」 ふん、と月の顔から視線を背けて前を向くのに、月はしまったかな？と内心一人ごちた。 これはあまり、上手くなかったかもしれない。 「…竜崎…」 「…なんですか、月くん」 「いや、さっきの…、え？…月くん…」 謝ろうとした言葉の後に、Ｌの声が染み渡るって、月は半ば放心状態で呟いた。 「…竜崎？今、『月くん』って言ったか？」 ソファの背後から身を乗り出すようにして、Ｌの顔を覗き込むと、Ｌは案の定苦虫を噛み潰したような顔をしている。 月は胸の奥がムズムズするのを感じた。 「…正直言って不愉快です。そう何度も繰り返さないで下さい」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |