七転八倒堂

言って彼は私の背後より、鎖の邪魔にならない隣りに移動する。
「ご苦労様です」
「…本当にね。あ、竜崎。報酬にそれ一口」
「…。」「…そんなに嫌そうな顔するなよ。なんだか竜崎が食べてるの見ると美味しそうな気がするんだよね。…胸やけがする事もあるけど」
「…それなら、自分のを新しく取って来たらどうですか。」
「一つは僕には多いし、それに竜崎、僕が取りに行くとなれば、君にも立ってもらわなければならないのだけれど、それでもいい？」
「…」
ガジ。
スプーンを嫌そうに噛んだ私に、夜神月は「ほら」と口角を持ち上げる。
それに私は仕方なく、スプーンで一匙アイスを掬った。
夜神月が身を乗り出す。
顔が近くに寄った。
私の持つスプーンから、夜神月の唇へ、室温に溶けかけたアイスが移った。
「ああ、やっぱり一口目が一番美味しい」
夜神月がそう呟き、私の目を捉えた。
至近距離の為、私は目を細める。焦点が合わない。
それに誘われたのか、そうで無いのか。
理由は判別出来ないが、それはきっかけの一つであったのだろう。
次の瞬間、夜神月の唇が、私の唇を覆った。
私は驚く訳でも無く、漠然とそれを許す。
ひんやりとした唇が移る体温に、じわりと熱を灯した。
「…ン」
夜神月の手は私の肩を掴み、一方私の手はあても無く、スプーンを持ったまま宙を彷徨った。


長かった、触れるだけのキスがゆっくりと去る。
夜神月の伏せられた瞳がゆっくりと開くのを私は見た。
彼は苦笑する。
「もしかして、ずっと目を開けてたのか？」
それに私は、瞬き一つで答えを返す。
「…どうしてキスなんてしたのですか」
私の言葉に彼は困ったような顔をした後、やはり苦笑した。
「竜崎から『キス』なんていう言葉が聞けるとは思わなかったな」
「答えになってません。…はぐらかさないで下さい」
「…困ったね。僕は動揺しててね…。僕こそ自分に聞きたい」
「…全くそんな風に見えませんが。…以前の月くんならきっとこう答えたでしょう。『竜崎が驚くのを見てみたかったんだ』と」
「…」
「違いますか？」
「…そんな気もしないでは無いけど…。僕のキスは竜崎の中で随分安いんだね…」
「そうですか？…でも、別の意味でそうかもしれませんね。弥にも軽くキスしたそうですし。高田さん達とも同時に付き合える人ですから」
「…あれは…」
「はい？」
「…、嫌なやつだな」
「…そんなやつにキスしたのは月くんだったと思いますけどね」
私の言葉にぐっと歯の奥を噛み締める夜神月を、じっと観察する。
弥海沙は確実に第２のキラだ。物的証拠…には足らないが、それもある。
どう考えても高田やその他の女性と付き合いだしたのは、弥のカモフラージュ。
それすらも、今私の前にいる夜神月は忘れているようだった。
そんな風に思っていると、彼は小さく溜め息をついた。
「…男にキスされて嫌なのは分かるけど…。何もこんな風に仕返しする事は無いじゃないか…。あれの非が僕にあるのは分かってる…」
「…別に嫌だとは言ってませんけどね」
「え？！男にキスされても平気なのか？！…僕だったら殴ってるね…」
「…不愉快ですよ。その言い方。殴って欲しいんですか？」
「…うーん…。チクチクつつかれるよりかはマシかな…」
「…では蹴ってあげますから、もう少し離れて下さい。アイスが零れますので」
「…いや、嫌じゃ無かったのなら…。って言うか…僕のキスよりアイス…」
ぶつぶつ呟く彼に、私はジロリと目をやる。
「さっきから矛盾し過ぎてますよ。夜神月らしくも無い。答えも返してませんし」
「…。」
私の言葉に、彼は苦みきった苦笑を浮かべた。
「…それに、私に対して酷い誤解をしてます。誰にもキスさせてヨシとする程、私は寛大ではありませんよ」
「…でもそれは、僕がキラ候補だからだろう？」
「確かにそれもありますね」
「酷い奴だ」
「…月くん程ではありません」
「何と言おうが…僕はキラじゃ、無い」
「…そうですか」
「まあ、いいさ。…それから、僕の答えを言おう。『したかった』からした。それだけさ」
ふっ、と笑って少し距離を取る。
「…居直り強盗みたいですよ、それ」
「構うもんか」
言って再び距離がゼロになる。


私達はキスをする。


おわり


……………………
…懺悔…
レッツ懺悔ターイム！
ここまで読んで下さって有難うございましたっ！
長くてすみませんー。てへ☆(キモ)

なんだか最初予定していたものと、随分違うものとなりました。ホワイ？

自分で自分がよく分かりません。いや、よくありますよね！そうですよね！良かった！(どこの誰と交信中だ)
とりあえず、何回書き直したかはさっぱり覚えてません、が。
再び前回の続きみたいになりました。
なんか、出だしとか違う話題だと進まなくて…。脳の貧困さが如実に現れてますね…。
その変わり、バスルームでエロに走りそうになって違う意味で大変でした(笑)
違う！違うよライトっ！『まだ襲うっちゃダメ』だよ！と
何度自分(の中のライト)を諫めた事やら。
バスタイムは非常に書きたかった話の一つですね。
月(黒)もＬも低体温な方だと思うんですが、月(白)は普通体温。んで熱めのお湯が好き。
Ｌはぬるめの湯にちょこーんといつもの座り方で入るのが、好き…
…という妄想大爆発な設定にしてしまいました…。違和感あったらごめんなさい。…え？最初から違和感があるから大丈夫ですか？良かった～！(良く無いよ)


続く≫

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