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髪を梳くと、意外に手に馴染む糸がするりと滑った。 匂いを嗅ぐように、鼻面を竜崎の髪に埋める。 「…何か特別な匂いでもしますか…」 特別変わるワケでも無い声が耳を覆って、僕は小さく身じろいだ。 「…僕と同じ香りがする…」 『ロマンス』 「それはそうでしょうね。同じシャンプーを使っているのですから、当然です」 「…」 少し頭が痛んだ。 竜崎の体の上にのしかかったまま脱力する。 「…別にね、そう多くを望んでるワケじゃ無いんだよ。だけどさ…もう少し、こう…」 当然の事実ー…(まさしくそうなのだが)のように返す竜崎に、月は小さなため息をつきつつ上半身を微かに起こした。 「…っ、」 それに連動して竜崎が小さく呻き、月は眉を上げる。 「うん。こういうのがいいと思うんだよ。僕としては。」 にっこり笑って、乱れた前髪から覗く瞳に視線を合わせると、竜崎の眉間が不愉快そうに寄せられた。 「…今のは確信犯ですね、性質が悪い…。早く中から出て行って下さいよ」 「竜崎程じゃ無い」 「否定はしませんが、早く。」 もう呼吸も落ち着いたのか、少し気だるそうな瞳だけを残して竜崎の手が月の胸を押した。 「そのまま寝れば良かったのに。」 「嫌ですよ。まだ残ってる作業が…っ！」 さらりと否定する竜崎の声を聞いて、ちくりと悪戯心が芽生えた。 「…ン…っ」 結合部分を掻き乱すと、月の精と、竜崎の精で濡れた秘部が生々しい音をたてる。 「ちょっ…月、くんっ…。いい加減ーっぁ、…っふ…」 「今日はもういいじゃ無いか、竜崎。明日二倍頑張るから」 直ぐに情事の余韻を取り戻したのか、竜崎の声が切れ切れに甘く響き。 「…最初っ、からっ！…んっ…っ…卑怯、です、よ」 欲に爛れた襞が、本人の意志とは反して月に絡みつく。 「ははっ！僕はいつでも全力だけど、明日は特別頑張るって話さ。」 小さく小さく腰を揺らし続けると最早諦めたのか、最後の抗議に濡れた目で睨みつけて、奥歯を噛み締めた。 (…本当負けず嫌い…) 思って、苦笑する。 しまった。そこに弱かったんだ。 月自身負けず嫌いだが、自信の、実力が伴ってこそのそれは嫌いじゃ無い。 負けるのは嫌いだが、たまには負けてもいいかもしれないとすら思う事すら、ある。 負けて見せるのと、負けるのとでは全く違う。 (まあ、竜崎との負け、は負けじゃ無いんだけどね) 釣り合っている。絶妙なバランスで。 そこには、負けは無く、勝ちすら無い。 月の下の体が、快感による緊張に強張ったまま幾度も震えた。 こんな状態ですら消そうとする、しかしそこから滲む表情に煽られる。 「竜崎、皺がついちゃうよ？」 少し笑って、皺が幾重も刻まれた眉間を親指の腹で伸ばす。 『余計なお世話です』と言わんばかりの眼が月を捉えて、やっぱりは月は笑った。 黒目がちな大きな目に唇を寄せる。 竜崎が目を閉じなければ、その舌は瞳を掬う筈だ。 「…っ！」 痛みが走ったのか、竜崎の指が月の腕を捉え、抉った。 そっと竜崎の瞳から舌を離すと、彼の目が非難するように月の目に視線を結んだ。 同時に腕の鋭い痛みも消え、鈍い余韻だけがのこる。 『アナタはサディズムに侵されてませんか』 『竜崎こそあの状態で目も閉じないなんてマゾヒズムが浸透してるんじゃ無いのか？』 お互い視線だけで会話して、終える。 どこかで訴えかける別の声に、自身の感情が勝ったからだ。 緩く、緩く、表情が崩れた。 竜崎の顔が一瞬強張る程の。 月はなるべく体を揺らさないように気をつけながら、竜崎の頬を包む事に専念した。 この一瞬だけでいい。 竜崎の気持ちが誰でも無い自分に向くのが、言葉に出来ないくらい嬉しかった。 胸が、せり上がるような高揚感。 熱く浸透する、充溢感。 「竜崎、好きだよ」 「……そうですか」 「…うん。」 頬を撫でる。 一度。 二度。 三度。 「……早く終えて下さい」 それでも感情の窺い知れない竜崎の声が先を急がせる。 「…さっきも言いかけたけど、竜崎には風情というものが足りないよ」 「風情はなくともセックスは出来ますから」 「…まあ、違いない」 苦笑して、再びじんわり汗ばんだ竜崎の肌を、鬱血の跡を撫でる。 所有の印をつけた所で、竜崎が自分のものになる筈も無いのだが、それでも、愛おしい。 「…早く終わらせて下さいと言ったばかりなのに…。…そんなに楽しいですか？」 理解出来ない、というように問う竜崎に、『とてもね』と返す。 「竜崎は面白いよ」 言われた当の本人は、読めない顔をしていたが、なんとなく言いたい事は、理解した。 おもちゃを手にした子供みたいな…。そういう執着。 でも、僕達は底にあるものが似ている。 竜崎に、同じ想いを抱いていないなんて言わせない。 それがほんの一欠片だったとしても。 「…竜崎、動くよ？」 確認してから、二度目の情交を終える作業に取りかかる。 底から湧き上がる精神をも溶かしてしまいそうな甘さに、とろかされる。 「…竜崎、そんなに締めるな…」 「…っ知りませんっ！」 律動が大きく早くなるに従って、余裕が切れてくる。 「…が、我慢…、しなく、て、いいっ…んだけど？！」 口元に精一杯の笑みを浮かべて、射精感をこらえる。 「…っ、ん！そ、れは。此方、の…セリフっ…ぁ、です…っ」 続く≫ ≪new[3] NOVEL back≫ [0]TOP。 |