七転八倒堂

【兄と義兄の事情】２

『俺様マジ天才だぜ！』
ケセセセセと高笑いする男を前に、普段ならば頭イカレてんじゃねぇのか、と脳外科を勧めるだろうイギリスの頭は酒による酔いで確実にプロイセンよりも酷かった。合法的に甘えられる立ち場だと聞いて成程確かにそうかもしれねぇ、などと思ってしまった。だから「なあ、どうだよ名案だろ！」と言われて頷いて―…、「善は急げだ！」と酔っ払い特有の大胆な行動に釣られてイギリスも何となく、つい、女王に電話してしまった。大概の王は、寂しがり屋のイギリスをいつも気にしてくれて、心配してくれている。イギリスが…というよりもアーサーが国民以外の同じ時間を生きる『国』の誰かに愛されて幸せになる事を願ってくれている。だから報告すれば喜んでくれると、その時は思ってしまったのだ。
まあ、酔ってはいても、イギリスもプロイセンも立ち場というものは弁えている。
当然結婚という話も、国家間の何というわけでもなく、ただの手慰み状態である事は理解していて、理解していたから人名で話を進めた。当然のように女王は喜んでくれて、夜中であるにも関わらずドイツにいる駐イギリス大使まで使って、アーサーに必要な書類を届けてくれた。一方のプロイセンは、彼は既に国であって国ではないような曖昧な立場である。しがらみがあるような、無いような、権力があるような無いような…そんな見事な曖昧な立場をここぞとばかりに利用しそれなりの地位の奴を丸めこんで強引に手続きを完了させてしまった。
これがプロイセンが現役の『国』であるか、もしくは彼等の上司に相談していたのなら、酒の場の勢いである計画はとん挫する確率の方が高かったのだろうが、残念なことに書類は役所に届けられてしまったのである。
つまり、イギリスもプロイセンも、公式的な書類上、うっかりと二人は夫婦に準ずる地位を得てしまったのだった。

事の顛末を聞いて、ドイツは頭痛のする頭を抱えて項垂れた。
我が兄のする事で、今まで一番の大問題だ。
いくら公式ではないと言っても相手はイギリスの化身で、こちらは母体こそドイツに全て移譲してしまったものの、それでも兄はかのプロイセンの化身本人である。頭が痛い以外の問題ではない。
最早溜息をつく気力もなく、そっと視線を上げるとプロイセンの右隣に座っているイギリスはドイツと同じように項垂れたまま「死にたい」と繰り返している。こちらも酒の席での一番の大失態ではないだろうか。
酒と失態のせいで青い顔のイギリスを見つつ、ドイツはやっと現実に向き合う事にした。
「…俺の方で何とかしよう…」
はぁああ、と溜息を吐きながらそれだけを言うと「おいおいルッツ」と呆れたような声が聞こえた。
「『何とか』って何だよ」
「…そのままの意味だが」
「そりゃ、白紙に戻すって事か？」
「その通りだが…。…え？」
酒の席での過ちをもみ消してくれという告白ではなかっただろうか。疑問に思ってプロイセンの目を見ると、にやり、と笑われてドイツは絶句した。
「誰もんな事言ってねーだろ。つか、もみ消すくらい自分で出来るっつーの。現役引いたとはいえ俺様だぜ？」
「…は？…え？…いや…、それでは」
「だから、今日から”コイツお前の『義兄』な”…っていっただろ？」
何と大真面目な話だったのか？！と目を剥く。では、イギリスが先程から死にたいと呻いているのは一体どうしてだろうか。酒の席での過ちを起こしてしまい、しかもそれが他国での出来ごとで、自分ではどうしようもないから、恥を忍んでドイツに頼みごとをしにきた。それを恥じているのではないのだろうか。
プロイセンがいつから握っていたのだろうか、イギリスの手をぶらんと持ち上げて「だからこういう事だって」と言って、ドイツは目の前がすっと暗くなる感覚を覚えた。

END

後書き

こんにちわ、水野です。
短いですが、兄と義兄の事情の続きです。
これから色々楽しいことが起こってくれたらいいな～、恋に発展すればいいな～とニヨニヨしています。
が
引出の少なさに定評のある私としては、いい感じの展開が思いつかずに萎びてます（笑）
内なる神は多分痔か何かなんですね、わかります。といいながらフランス兄さんのようにハンカチを噛みたい気分！

水野やおき 2013.06.10

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