|
変わらない毎日に、いい加減嫌気が差す。 春も夏も秋も冬も皆一様で、季節が何度移り変わろうと、環境の多少の変化があるだけで、月の心境には何の変化もない。 うららかな、春の香りに、精のニオイ。 【籠の鳥・春をひさぐ】＃２ ■夜神月 「ね、ねー、月…。もう行っちゃった？」 「…ミサ。月じゃなくて、夜神先生だろ？」 思わず「いたのか」と言いそうになったのを飲み込んで嗜める。いたのをすっかり忘れていた。 扉からの死角からひょこっと金色のツインテールが揺れて現れ、指摘にエヘヘと笑うと「びっくりしたよねー、心臓がバックンバックン」と大仰に息を吐く。 カラカラと引き戸を閉めて戻ると、ミサが「バレてなさそうで良かったね♪」と肌蹴たままの胸を月の腕に絡めて来て、もうそんな気分ではなくなった月は、それでも笑みらしきものを口の端に浮かべながら「そうだね」と答えた。 （バカが、バレてる事に気付かなかったのか…。） 「でも、見つかっても良かったかな～♪そしたら、月はミサのものだって皆に言いふらせるのに♪」 （まあ、丁度いいか。言いふらされては大変だからね） 「弥。…そろそろ授業に戻りなさい」 嗜めるように名字を呼ぶと、ミサがピンクのグロスで固めた唇を突き出して「ちぇー」と不満を零す。それでも、月の命令は絶対とばかりに衣服を整えた。 「もー、あとちょっとだったのに。竜崎？本当、最低。タイミングが悪いったらない」 確かに現れたのは竜崎だが、諸悪の根源は松田だ。それをさらりと無視して当事者に怒りをぶつけるとは、本当に女とは単純なものだ。 「…松田さんはよく忘れ物をするからね…」 「私も取りにいかされたよー。まあ、月がいる事もあるから、無理やり代わって来てたけどね♪」 「そうだったね」 簡単な話題転換について来て、ミサはにっこりと微笑むとぎゅっと背伸びをして月の唇にグロスの痕を付けて行く。 「ここに誰が来ても、浮気しちゃダメだよ、ダーリン♪」 惜しみない笑顔で手を振ってミサを室内から追い出すと、月はぐいっと唇を拭う。 「浮気、ねぇ」 そもそもが遊び相手の一人に過ぎないと知ったら、ミサはどんな顔をするだろうか。面倒ごとは嫌いだから上手くはやっているが。 （本気だと思わせているだけだけど…素晴らしい誤解だな） むろん、本気の恋など有り得ない。 本気なんて、疾うに忘れた。 （ああ…でも先刻のは面白かったな…。竜崎L。…理事長のハウスに在籍、だったかな） 世の中は常に色褪せて、退屈でつまらない。 父の、まずは教育から、という理念に共感して、 腐敗した教育を立て直そうと教師になったはいいが。 （もう手遅れだろ？腐ってる） ≫０３：魅上照 NOVEL [0]back |