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スパン！と派手な音がして、照は眉間に皺を刻むと仏頂面で振り向いた。 「戸はもう少し静かにー…、竜崎」 見る限り、壮絶に不機嫌な婚約者に、照は瞬きをして椅子を回転させた。 【籠の鳥・春をひさぐ】＃３ ■魅上照 「少し不貞寝します」 言ってつかつかと無人のベットに近寄る。具合が悪いのなら寝かせもするが、不貞寝と言い切ったLに、「待て」と声をかける。 いくら理事長の娘同然であろうと、婚約者であろうと、サボりは認められない。 「…なんですか」 「そこは体調の悪い人間の為のベッドだ。戻れ」 そこでそう窘めると、さっさと上履きを脱ぎ捨ててベッドの上乗り上げたLが険悪な視線を寄越した。 「心が最悪な気持ちです。十分体調が悪いと言えます」 ああ言えば、こう言う。 照は重く溜息を吐く。こんな事ではLの学園生活が思いやられる…が。確かに顔色があまり良くない。 「…お前より具合の悪い人間が来たら交代するんだぞ」 「分かりました」 それには頷いたLを一瞥して、シャッと間仕切りのカーテンを閉めて仕事に戻る。中でもぞもぞしていたLが、靴下をぽいと上履きの上に捨て置いて横になったようだった。 （相変わらず靴下が苦手なのか…） Lと出会ったのは、母親を事故で亡くしてからだ。 幼い頃に父親を失くし、女手一つで育てられた照には親類さえいなかった。そこで当時中学生だった照はキルシュに引き取られた。（後にそれは孤児院となるハウスのシステムに移行したが）そして照と同時期に引き取られたのがLだ。 （…随分と懐かしいものだな…） 照が引き取られた時、Lはまだ３歳だった。 学園はハウスよりも生まれが早く、キルシュの曽祖父が作った学園は半世紀を越える。当時、既に理事長の席に座っていたキルシュはLの両親と知り合いで、Lを引き取った際に孤児院の設立を考え、そうして照も実験的にキルシュの元に引き取られたのだった。 だから、どちらかというとLに対する情は婚約者というよりも妹に近い。 「…何かあったのか」 それでついついいらぬ世話を焼いてしまう。 話したいのなら勝手に話すだろうが、どうにもLには意固地な所があるから、こちらから聞いてやらねばならぬ気がして口を開く。 「保健医の勤めだ。」 「……どうして人間は性行為を行うのですか」 「種の保存の為だろう」 「もっと真面目に聞いてください。勤めなんでしょう？」 「私は真面目だが？」 「……。…では質問を変えます。何故種の保存以外の目的で行為に及ぶのですか。快楽？気味が悪い」 低い声で呟かれて、なる程、と合点が行く。その現場に鉢合わせでもしたか。 「…まあ、そうかもしれないな」 まあ、愛だ恋だとぬかした所で、行為に及べば純然たる快楽を求める動機と、根源は大差ないだろう。己の欲望であることには違いない。どちらに重きを置いているか、それ一点の問題だ。 「…本当に気持ち悪い…吐き気と頭痛がします…」 「薬は？」 「いえ、いいです。…ですが、あの」 「何だ？」 「少しだけ、手を握って貰ってもいいでしょうか？」 遠慮がちに言われた言葉に、照は「分かった」と席を離れた。 （全てがLみたいな人間だったら、もっと平和な世界になるだろうに） ≫０４：竜崎Ｌ NOVEL [0]back |