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恋愛とは、ゲームだ。 どれだけ踏み込んで、どれだけ引けば、面白いものが見られるか。 父はしっかりとした教育を、と言っていたが、それならもっと早くに成し得なければならない事に気付いてはいない。 （腐ったものを再生させるなんて、神にしか出来やしない。腐ったものが清いものを育てるなんて、出来るはずがない。） 【籠の鳥・春をひさぐ】＃５ ■夜神月 「竜崎」 「…どうか、しましたか。２・３年担当の夜神先生？」 あれから１週間が過ぎての放課後。竜崎を図書室で小難しい書物と睨めっこしていた竜崎を捕まえると、はっと顔をあげてあからさまに嫌な表情をされた。月は極上の笑みを浮かべる。 （はは、よっぽど嫌われたみたいだね） だけど、そちらの方が面白い。 ６時も過ぎて、辺りは暗くなっている。先程、図書委員を後の事はやっておくからもう帰っていいと追い返したばかりだ。ここ数日竜崎の様子を窺っていて、彼女は何かに没頭している間は滅多に周りのことに気付かないことを知った。強く名前を呼ばれでもしない限りは誰かが傍に来たことにすら気付かない。 それで、易々と竜崎のテリトリーに入れた。 「この間のこと、理事長には言わなかったんだね」 「…そのことですか。ええ、ご安心ください。他言はしませんよ」 月の質問に、竜崎はさっと表情を消すとパタンと本を閉じて書架に押し戻した。 （指先なんかは、好みかな？抱き心地は、悪そうだけど） 「どうして？」 「…『どうして？』って何ですか。言って欲しかったのですか？貴方を免職するのにご協力いただけるのなら、今この足に理事長室に向かっても構いませんが」 ナイフみたいに声質を尖らせて抑揚なく言う竜崎に、月はクスクス笑いながら「そんなに邪険にするなよ」と竜崎に一歩近づく。途端にギロっと睨みつけられて、益々笑みが深くなる。 「夜神先生は、そんなに直ぐに生徒の前でプライベートな感情をお見せになるんですか」 「直ぐってワケじゃないよ。誰でもっていうわけでもないし。竜崎が最短かな？」 「不名誉です。教師じゃないんですか」 「教師の前に人間だからね」 「人間の上に教師です」 言われてフフフ、と笑う。読み通り、頭の回転が速い。 「奇遇だね。僕も人間は理性の動物だと思っているよ。思考してこそ人間だ。」 「本当だと、いいのですけど」 鼻で笑って、竜崎が本棚に囲まれた通路を塞いでいる月に向き直った。 「目に余るようなら通報しますが、今回は見逃します。これからは学園内での恋愛はお控えください。それでは、私は帰ります」 一歩竜崎が道を開けろというように踏み出した。月は動かない。 「人間は思考する動物だ。その頂点にいる僕が、弱味を握られたままお前を返すと思っているの？」 「頂点？バカも休み休み言いなさい。貴方が頂点の世界なんて虫唾が走ります。私は貴方に屈服なんてしませんよ」 「そう？いつまでそう言ってられるか、楽しみだ」 詰られて、心の奥に堪った淀みが楽しそうに蠢いた。瞳が合った瞬間、コイツは月と対等に渡り合える人間だと本能で悟った。感に間違はなさそうで、背中にぞくぞくと快感が走る。 あんな場面に鉢合わせていなければ、もっと違う方法もあったのだろうが、生憎出会いが悪かった。 （いや、むしろ最高に良かったのかな？） これで面倒な手順を踏まずに密接な関係を築いたまま腹の探りあいが出来る。 ぬっと手を伸ばすと、竜崎が少しばかり体を引いた。 （バカめ、後ろは行き止まりだ） 思った瞬間、ばっと飛び退った。鼻先を掠めて細い足が舞い上がる。 （まさかいきなり足技が来るとはね…） 月の運動神経と運と勘がなければ、確実に仕留められていただろう。道理で落ち着いていたはずだよと、そしてやはり一味違う、と舌なめずりする。 一体次は何が出てくるのだろうかと、熱が上がる。 「自分から足を開くなんて…ッグ」 直ぐに体勢を立て直して、その体勢から第２撃を繰り出そうとする竜崎の舞い上がったままの足首を捉える。その為にガクリと体勢を崩したように見えた竜崎の残った片足が鋭く放たれてわき腹にめり込んだ。 咄嗟に脇を閉めたが攻撃自体を回避することが出来ずにゴホッと咳き込んだ。しかし３撃目はなんとか捉えた。 「…なんて躾がなってないんだ。破廉恥だよ」 暗く笑って勢いよくうつ伏せに引き倒す。即座に細い体の上に乗り上げて、手首を自分のネクタイで結わえた。 「お仕置き、しないとね」 ≫０６：竜崎Ｌ NOVEL [0]back |