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これは危険な人種だと、一目合わせた時点で気付いた。 けれど、関わらなければ安全だと思っていたのに、随分と甘かったとLは唇を噛んだ。 【籠の鳥・春をひさぐ】＃６ ■竜崎L ハウスで面倒を見てくれているペンバー夫妻の妻ナオミは少し変わった人物で、最近は何かと物騒だからと、お得意のカポエラを仕込んでくれた。 ハウスの者の中には、ママ先生は厳しすぎるとか、自分はいいと言う人間もいるけれど、Lはその特別授業が好きだった。兎角、動きが面白い。 それで、ナオミの一番弟子になったLだったが、いつもGrateと褒めて貰っていた。自分でも中々いい線をいっていると思った。 これならば、有事の際でも油断している相手になら充分効くだろうと踏んでいたが、それもまた甘かったのだろうか。夜神にあっさり避けられて、舌打ちしたい気分で技を繰り出す。一発はヒットしたが、それも逃げ出すだけのダメージを与えられずに、さっさと組み敷かれてしまった。 馬乗りになって、腕を戒めるそのスピードたるや、電光石火といわんばかりの速さで舌を巻く。 「いつも、こんな事を？随分手馴れてらっしゃるようですが」 うつ伏せにされたまま、憎らしい相手を前に怒りに染まらぬよう声を落ち着かせる。怒りや悲しみなどの激情は判断を鈍らせる。こんな時こそ冷静に、と言い聞かせると、夜神が「まさか」と言いながら「いいね」と笑った。 「そうやって会話で引っ張りながら、冷静さを取り戻して突破口を開こうとしてるんだろ？凄くそそるよ」 思わずカッと頭に血が昇りそうになって、臍を噛む。夜神の言葉に乗ってはいけない。そうやってこちらを煽り逃げ道を断とうとするのが、夜神の目的なのならば。 「自分の意のままにならぬ相手をこうやって無理やり組み敷く事が楽しいとは、夜神先生は変態なのですね」 「…まあ、なんとでも言いなよ。負け犬の遠吠えなんて痛くも痒くもない」 頭上でクスクスという笑い声が聞こえてやはりコイツは変態だ、とLは目を据わらせる。随分な危険人物に目をつけられてしまった。 先日の一件のような女性との関係ならば、この男とてそう害ではないだろう。綺麗な容貌の男の腹の内を知らないまま、夢のような恋をする。そしていつかは夢から叩き起こされ、本人は真実を理解しないまま後腐れのないように棄てられるにしても、哀れではあるが、身に危険はない。 「先日は見逃しましたが、今回は違いますよ。このまま先に進めば訴えます」 「僕は構わないよ？」 言われて眉間に皺を刻む。通りすがりの強姦魔とは違う。名前も住所も分かっていて、相手は教師でLは生徒だ。どちらに利があるかは明らかなのに…。 「…キルシュとハウスを盾にしますか。恩ある人物の風評を地に落しても、ハウスの皆の未来を奪ってもいいなら、と？」 「ふふ、賢い。正解だよ。相手が未成年ってだけで立場は悪いけど、強姦の疑いは５分に…いや、勝訴に持っていけるよ、僕ならね。」 「そのお綺麗な顔に騙されてくれるというわけですか？」 「それだけじゃない。僕の立場に、君の立場に周りは簡単に騙されてくれる筈さ。君はそうは思わない？だって僕は沈痛な面持ちでこう告げればいい。親を亡くして孤独に生きて来た人間に、『どうしても』とせがまれたと。涙の一つでも流して彼女の悲しみを埋めてあげたかったと言えば完璧だろ？手首を縛ったのも、彼女の心の闇が僕にそうしてくれと訴えたんだと言えば済む。酷い話だけど、強姦となれば検事はお前が感じたのではないかと聞くだろうから、それはお前の喘ぎでも巡回の警備員に聞かせてやれば解決する。…ま、竜崎がどうしても僕を訴えるというのなら、の話だけど」 「下劣な。…ならば、私はどんな手を使ってでも、最後には命を賭けることになっても、汚名を注いでみせますよ」 「それは無いな。」 「…何故、無いと？」 「死んだらそれで終わりだからさ。僕が何をしようと、止める術がないだろう？それともいっそ今舌を噛んで死ぬかい？」 逃げられぬ、そう知っていてこの男は言うのだと。 悟ってLは腹を括った。 「ならば好きにすればいい。何をされても、私はお前に落ちることだけはない。もしこれをゲームと謳うならば、身も心も落ちてこそお前の勝利。何度この身を穢されようが心だけは決して」 許しは、しません。 ≫０７：夜神月 NOVEL [0]back |