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自分でも思ってもいない言葉がすらすらと口について、驚く。 退屈な日常に持て余した数奇な頭脳は、ただひたすらに活躍する場を求めていたのだな、と実感した。 病魔は、殆どの場合発病するまで気付かない。 きっと、それと同じだ。 【籠の鳥・春をひさぐ】＃７ ■夜神月 ばらけた髪の隙間から覗く首筋をピチャリと舐める。 竜崎は微動だにせずに死体のようにただ横たわった。 その心内では突然襲った身の不幸を嘆いているのだろうか。 それとも、どうやってカウンターを喰らわしてやろうかと考えているのだろうか。 （恐らく後者だな…） そう思うと、勝手に口角が吊りあがった。 正義も理想も信念も、そんなもの全部机上の空論だ。幼い頃はその空論を本気で信じていた。けれども、気がつけば捻じ曲がっていた。いつからかは知らない。特に何があったわけでも無い。緩やかに遅々と毒を盛られたように歪んだ。 もしも早くに膿を吐き出す場所を見つけることが出来たなら、ここまで歪みはしなかっただろうと、自身で思う。 病みはしたが、明晰な頭脳は失ってはいない。自己分析くらいお手の物だ。むしろ、全てを棄てることが出来ていたなら、こんなに深刻な事態にはならなかっただろう。 ただ死んだように惰性で生きていた。どうせ生きているなら、なるべく面倒な事は避けたかったからそつなく振舞った。少しでもその頭脳を使わなければならない事には関わらないようにすれば、…飴さえ最初から知らないフリをしていれば、苦しみも少ない。そうやって生きていたのだ。ずっと。 けれど、一目で気がついた。もし、世界に神がいたとするならば、これぞ神が与えてくれた祝福だと思った。 竜崎と一緒にいれば、この退屈から逃れることが出来る。そういう予感があった。 竜崎とは己が頭脳を戦わせる為にめぐり合ったに違いない。 だからあの日、いつもは危険を冒してまで行わない行為も悪くないと思ったのだ。 群がる女生徒の中から適当そうなのを選んで火遊びをした事は多々あるが、消火の準備は万全だった。万一の可能性であろうが、リスクの高い準備室で…校内で行為を行ったことなど、一度もなかった。それを、何故かあの時、自らミサを誘い行為に及んだのだった。それも竜崎とこうなる為なのだとしたら、合点が行く。 もっと早くに出会っていたら、ゆっくりとした恋の駆け引きなんかをしても楽しかっただろう。きっと傍にいれるだけで満足したことだろう。珠のように大切にしたことだろう。 だが、この身は既に病み過ぎた。 着衣の隙間から指先を這わせて、竜崎の躰の全てを調べる。その躰は薄くついた筋肉以外は丸みの欠片もなくガリガリで、月の好みではなかったが、さして気にはならなかったし、最初は色気のない下着にも呆れはしたものの、むしろ好感を持ちさえした。ゴテゴテした造り物ばかり食して些か傷食気味だったのだ。 人は最初から見目麗しい宝石の姿形ばかりに目を奪われがちだが、原石を発見して、磨きあげるのが宝石本来の愉しみ方だ。 猛獣は殺すものでも避けるものでもない、支配して服従させるためにいる生き物なのだ。 「ふふ、竜崎、濡れてるよ」 淫靡な音を聞こえるように鳴らすと、竜崎はブルリと背中を震わせた。きっと自分の体が赦せないのだろう。 行為が終わり開放されるまで、竜崎は一言も口を利かなかった。喘ぎも、悲鳴さえも飲み込んだ。 僕を一時でも愉しませてくれるなら、 君がいつか壊れても、一生この手で愛してあげよう。 ≫０８：魅上照 NOVEL [0]back |