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叩き落された手を、呆然と見つめて、 その無体を働いた相手が、己よりも動揺していたから、何も言えなかった。 【籠の鳥・春をひさぐ】＃８ ■魅上照 最近どうも、Lの様子がおかしいそうだ。 甘いものが好きなのは元来からで、考え事があると爪を噛むのも癖の内だが、それが尋常ではないらしい。 元々一人でいるのが好きな性質ではあるが、部屋から出てもこないとキルシュが泣きついてきて、ようやく照はLの異変を知った。 先日、以前せがまれた約束を果たす為に赴いたとき、異変に気付くべきだった。 だが、会えぬほど具合が悪いと聞かされて、素直に帰ってしまったのだ。 昔からLの月経痛は酷く、その時は照を寄せ付けなかったものだから、それだと勘違いした。 「竜崎は…」 「え、さっき教室でましたよ？」 優秀な教師とは言いがたいが、生徒と仲良くなるのが得意な松田が放課後だというのに教室に残っていて、あっけらかんと答えた。 今日もまた逃げられた、と舌打ちしたくなる。 「用事があるので引き止めておいてくれと今朝頼んだ筈だが？」 「えっと、ですから、竜崎が保健室に行くって言って出て行って…」 余りの剣幕に松田の言葉がしどろもどろになる。やはりLを捕まえるのに他人の力を借りようと思ったのが失敗だった。今日中に捕まらなければ、明日は教室の前で待ち伏せしてやろう。 「失礼」 考えを纏めると素早く踵を返す。 最近Lは帰りも遅い。ハウスの皆に心配されてからは顔さえ見せぬように部屋に戻るようになったという。それは深夜の時もあり、明け方の時もあり。 （一体どこで何をしていると言うのだ…） キルシュや子供達、ペンバー夫妻をあれ程心配させるという事が照には信じられなかった。Lは基本的には奔放だが、話の通じぬ相手ではない。 何の説明もなしに無闇にこんな行動に出る人間ではない。 （厭な予感がする…） 早くLを見つけなければ、と照は学校を飛び出した。 「どう、いた？」 愛車を乗り捨てるようにしてハウスに戻った照を待っていたのはナオミだった。 照はそれに首を振って答える。「そう」とナオミが肩を落とした。 「あの子、一体どうしたのかしら…」 ハウスの誰よりも頭がいいので、ことごとく裏を掻かれる。いくら皆がLを心配しているからと言っても、誰もがLだけにかまけていられない。ここには他の子供達がいる。乳飲み子のような子までいるものだから、どうしても常に手が空くことがない。 「…部屋で待とうと思う」 「部屋で？鍵を持っているの？」 「いや、持ってはいないが、こうなれば仕方ない。鍵屋を呼んで開けさせる。」 「そうね…、ああでも多分今からじゃ、無理だわ。玄関の鍵ならともかく、個人の部屋を今の時間から頼んでも…」 「では、明日…」 「あ、ちょっと待って。いい方法がある。明日じゃ遅いかもしれない。私に任せて」 大人しげな面持ちのナオミはにっこり笑うと、お得意のカポエラでドアをぶち破った。 ≫０９：竜崎Ｌ NOVEL [0]back |