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【籠の鳥・春をひさぐ】＃１０ ■Final どうやって、さよならしたかは覚えていない。 ただ、今ふらふらと街を彷徨っているのを見ると、どうやら歩いて去ったのだということが窺えた。照は追うことが出来なかったのだろう。 安心して羽を休めることの出来る行き先などどこにもない。いうなれば一つしかない。 自ら籠の中に入って、見世物の鳥のように羽を手折られる。 そうして、籠の持ち主の好奇心を満たし、澱をいつまでも受け入れるのだ。 空虚を満たせば、膿みを排出させれば、束の間アレは正気に戻る。 ならば溜まった闇の全てをこそぎ落すまで、なんとしても自分を保ってやろう。 一人凍える夜を幾夜明かしたとしても、決して心までは明け渡さない。 これはゲームだ。 私と、お前の、心と命を賭けたゲーム。 例え籠の鳥になったとしても、爪を砥ぎ、牙を砥ぎ。虎視眈々と勝利を狙おう。 そして勝利の暁には、舌さえ噛まずに絶命してみせようではないか。 私はそんなに甘くはない。 直ぐに後を追わねば気が狂ってしまいそうな罠に落してあげましょう。 むしろ、あまりの驚きに心臓麻痺さえ起こして差し上げる。 それだけを楽しみに、私は自ら籠に入る。 一世一代の復讐です。 真夜中チャイムを鳴らした私に、貴方は「こんな夜中に連絡もなしに」と呟きながらも満足気な顔。 錠前が下ろされる音を聞きながら、私は嫣然と微笑んでみせましょう。 美しく鳴くカナリアに甘んじてあげましょう。 その夜明け、ご機嫌な貴方はこう言いました。 「レイプされて濡れるのなんて、ただ躰を傷つけないための肉体の反射なのにね」 と。 では、私は、肉体さえも汚れてなどいなかったのだ。あの手を払いのける必要は無かったのだ。 脳裏に、置いて来るしかなかった、兄のような、恋人のような、愛した人のような、涙で滲んで歪んで見えた彼の顔が掠めた。 春をひさぐ籠の鳥なれど、 ただ純粋な思いの接吻をあげればよかった。 最後ならば、せめてその唇に、 お別れの。 しかし、それは春の夢の…また夢。 ≫後書きとその後の展開 NOVEL [0]back |