酷く、己が動揺したのを感じた。 先の誤認逮捕だったという放送は、Lが意図したところではなかった。 天の配剤。そういう風にしか捉えられない出来事で。 きっと夜神月は動揺していることだろう。 きっと私が仕組んだ事だと思っているだろう。 それならそれでいい。 キラという殺人犯は許し難い存在だ。 でも。それなら、私は? 私が今、生きているのは? ならば、私は。 どうしても、私 は。 『Call』 「竜崎」 捜査本部としておいているホテルの一室で、夜神総一郎の声がしてLは顔をあげた。 「はい。なんでしょう」 「月が『ありがとう』と言っておいてくれと。もう少し体調が戻ったらこちらにも顔を出すと」 「そうですか。有難うございます」 「・・・竜崎」 「まだ、何か?」 「竜崎もあまり顔色がよくないと思うが・・・」 総一郎にとってみれば、年齢不詳とはいえLも月とたいして変わらない息子のような存在である。 片手間というワケではないが、Lはキラ捜査と共に他の難事件も抱えている。それはコイルとドヌーブという世界3大探偵の仕事で、Lが動いている際にぴたりとそちらの依頼を受けなくなったというのでは可笑しいから、という名目であった。 その仕事量は総一郎達の活動量を遥かに凌ぐ。いつ寝ているのだろうかと思うぐらいLが寝ている姿というのは見たことが無い。 「少し休んだら、どうだろうか。それでは体が参ってしまう」 眉間に皺を寄せながらLを見遣る総一郎に、似てますね、とLは笑う。 「何がだ?」 「息子さんに、です。いえ、夜神さんの子供ですから、夜神さんが似ているというのは変ですね。月くんが夜神さんに、でも少しだけ可笑しいですけど。親子ですから」 Lは捜査ファイルをざっとスクロールする手を止めて、やはり笑う。 「今は違う人間なんだな、と普通に思いますが、小さい頃の彼はよく夜神さんにそっくりだと思った記憶があります。」 「・・・竜崎は・・・」 「はい。逢った事がありますよ。申し訳無い事にカメラ越しではありますが」 「・・・私には記憶が無いが・・・」 「ああ。あれは極秘捜査の場での事でしたので。日本警察の上部の方々が集まるパーティがありますね?年に一度。その際に家族でいらっしゃったでしょう?その場を拝見しました。私がLとして働いた最初の頃の話しです」 「・・・そうか。そういう事があったのか・・・」 「すみません。つい口が滑ってしまいました。申し訳ないですけど、秘密、にしてもらえると嬉しいです。夜神くんにも」 「ああ。分かった」 内密に覗かれていたという行為には腹が立ったが、総一郎はそれを抑える。多分社交場だけのことであろう。普通に監視カメラにも映っている。警備のものに見られていた程度のものだろう。でなければ、Lが口を滑らせるなんて事は無いはずだ。 有難うございます。夜神さんの言う通りにやはり疲れているんですかね、とLは呟き珍しくソファの背に凭れた。 「凄く印象的だったんですよ。多分夜神くんは暇だったのでしょうね。カメラの位置などを確認してたりしてまして。今回会えて、実は嬉しかったんですよ」 「・・・しかし、うちの息子がキラだというのは・・・」 「ですから、可能性です。それとこれは別ですから」 なんとも言えない顔をした総一郎に、Lは申し訳なさそうに笑った。それからゆっくりとソファを降りる。 「それでは、夜神さんの言う通り、少し休むとしましょう。夜神さん達も休憩はちゃんと取ってくださいね」 言って、自室として設けられている部屋に入った。 思い出す。 思い出す。 思い出す。 過去を。 過去の自分を。 過去の彼を。 過去の私を。 過去の・・・。 一度血に濡れた手は、穢れを落とすことなどできないだろうと思う。 忘れることなど出来ず、忘れられたとしても、それは心の淵に残りつづけるだろう。 忘れてしまったとしても、その手は以前緋色に染まったままだろう。。 そして、私はそんな事を望まない。 ならば、彼もそんな事を望まないだろう。 人はその闇を抱えたまま生きていくしかないのだ。 「夜神月」 ぽつりとその名前を呼んだ。 新月の闇夜は足元さえも照らす光を持たない。 Lは具合が悪く、真っ白の顔な月を思いだした。 背筋が震える。今にも彼を失ってしまいそうに思った。 彼がキラだと確信しているその心で、彼に想いを寄せた。 純粋で、無垢だからこそ、そのゲームは始まった筈。 生きるのに退屈で、何でも思い通りになっていた彼に、罰はじわりと寄せて来る。 FBIが、彼の邪魔をしたという事で殺されたならば、今回殺された無実の善良な、ただ不幸にも善良だったが故に、最大の苦痛を浴びせられた受刑者は。 Lは強く息を吸い込んだ。 自分は知っている。どんな最悪な犯罪者でも、死ねば、泣く人がいる事を。 ////To be continiued//// 2005.07.06 …………………… [0]TOP-Mobile- |