囚われては、いけない。
 情なんてもの、新世界の神になるのには相応しいものではない。
 そんな事分かっている事だ。
 でも、引き込まれる。
 その世界に引き込まれる。
 では、
 では、どうすれば、いい?

 もうアイツから離れる事は出来ない。そういう類の事は。
 ならば。

 答えは簡単だ。
 その対象を、完璧に引き込まれる前に消せば、いい。



『Call』



「名前って何だろうね」
「はい?」
 捜査本部にされているホテルの一室。
 月は資料を見ながら口を開いた。
「いや、キラが殺人をするのには、顔と名前が必要だろ?僕はここでは朝日月だ。その名前を使う時間の方が長くなったら、僕は何という存在になるんだろうね。それに不思議な事がある。結婚して籍を移したりした場合。どちらが本当の名前という事になるんだろうか。旧姓?それとも?・・・役所に届けた紙切れ1枚で名前が変わるっていうのは、なんだかとても不思議なことだ。名前というのはどういうものなのかな」
 ずずっと、月はLのように甘さの一欠けらもない紅茶を啜る。
 Lは、確かに、と口を開いた。
「そうですね、確かに。昨日と今日で名前が違う場合はどうすればいいのでしょうか。キラの殺人に必要なのは、とりあえずは本籍に載っている名前ですよね。古来から真名というものがありますが、今の時代にはそのようなものをつけている人はいませんし」
 Lは小さく首を傾げて目を伏せた。かりっと親指の爪を噛んだ。
 砂糖が沢山入った紅茶を飲んでいる、Lが噛んでいる爪の先は、きっと蟻がたかるくらい甘いだろう。
「…私の名前などはどうなるのでしょうね。」
「うん?」
「もう、Lという名前・・・通称ですが、この名前が私を表しています。まあ、流河と名乗り、竜崎と名乗る事もある。どれが私の名前なのでしょう」
 普通に話しに乗って来たLに、月は多少警戒する。ははっと笑ってLを見る。
「僕がキラかもしれないと疑っているというのに、いいのかい?そんな事言って」
 そう言うと、Lはひたりと月に視線を合わせる。
「ええ。別に。月くんがキラだとしても、きっと私は殺せませんから」
 唇の端をあげてLが笑う。どういう意味かは判然としなかったが、月はカチンと来た。表情にはださなかったけれど。
「えらく自信があるみたいじゃないか」
「…そうですね。きっと私には名前なんてものが無いからだと思います」
「は?」
 思わず、聞き返す。Lは少しだけ目を伏せた。
「私には名前なんて無いんですよ。文字通り。どのようなものを名前というのかの定義付けにもよりますが、私には妹がいて・・・」
 とつとつと話しだしたLに、意外な展開になった月の方が慌てる。
 これがLの作り話しである確立は高く無い。
 だからこそ慌てたのだ。「おい」と遮った月にLは首を傾げて問う。
「なんですか?」
「なんでって、いやその。・・・」
「月くん、キラですか?」
「は!?」
「ですから、月くんはキラなんですか?」
 いきなり話題を転換されて、月は声を失う。ぱくぱくと金魚が酸素を吸うように何度か口を開閉してから、思いっきりLを睨む。
「お前・・・」
「答えてください」
「・・・僕はキラじゃないと言っているだろう・・・」
「なら、いいじゃないですか」
「!」
 剣呑な顔で睨む月をLはさらりとかわす。
「月くんがキラじゃ無いなら、別に構わないんじゃないのですか?それとも口が軽いですか?」
「・・・、お前がいつも僕のことをキラだと言っているんじゃないか・・・。それに僕は口は固いよ」
 罠に落ちている気がする。というか完全に嵌っている。
「まあ、そうなんですけど。今日はキラでは無いという事で」
 Lは何が言いたいのだろう。月にも好奇心はある。月はとりあえず、Lの言葉を聞いてみることにした。嵌っても悪くなさそうな罠だ。この後回復出来る自信はある。
「まあ、いい。で?」
「はい。それで。私には妹がいまして」



『もう、亡くなっているのですけどね』
 そう前置きを置いて、Lは語り始めた。荒唐無稽な話しを。


////To be continiued////

2005.07.06


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