どうしてそんなに、私なんかの事を、好きでいてくれるんですか?
 そう言うとメロは顔を真っ赤にし、泣いて、怒った。


『たったひとつのためだけに』



「ここにいたんですね、メロ」
 父親と母親は喧嘩してばかり。それは日を追うごとに激しくなって来て、もうオレはそこにはいられなくなった。
 それで孤児院にやって来たオレはその自分の才能を認められて、このワイミーズハウスに移されたのだが、望まれてやって来たというのに、まだ一番が出せずにいた。
「…え、エル」
 背後から声をかけられて、メロは慌てて袖で涙を拭った。
 悔しくて、仕方なくて泣いていたのだなんて、見せられない。
 彼はこの院での最年長者だ。年は結構離れているし、優秀で強いので、多分彼が一番最初の世界一の探偵になるのだろう。
 そんな彼に、寂しかったり、悲しかったり、辛かったり、悔しかったりでべそを掻いていたなんて知られたら、きっと軽蔑されてしまう。
「なに?」
 メロはゴシゴシと、涙の一滴さえ残さないように擦り、明るく声をあげた。
「私もこの場所が好きなので、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
 Lが来訪の意を告げて、メロはこくこくと頷いた。
「いいよ、別に」
「それでは、失礼します」
 そう言って、Lがメロのすぐ後ろにまで近づいた。
「Σうわ!!」
 いきなりひょいっと抱えあげられて、メロは思わず声をあげる。
 驚いて、暴れそうになるメロの事などお構いなしに、Lはそのままメロを抱えてぺたりと地面に座った。
「気持ちの良い風ですね…」
 ぽかぽかと日差しは暖かく、忘れ去られたような裏庭には、それでも無数の花が咲いていた。
「う、うん…。てゆーか、あのさ、下ろしてよ」
「嫌です」
「Σ!…推理力が減少するんじゃなかったの」
 きっぱりと断られて、メロは目を剥く。むすっと答えるとLは「そうですねえ」と暢気を装って答えた。
 Lは、人に触られる事が嫌いだ。
 本人は隠しているつもりみたいだが、そんな事はすぐに分かった。
 嫌われるのは慣れている。
 そんな彼がメロを自らこうして抱きかかえて座っているという事は、きっとヘタな慰めをしに来たのだ。いつまで経ってもメロがニアに勝てないから。
「ッ、」
 そう思ったら、凄く腹がたって、たって、たって!堪らなくなった。
 Lに1番になれない気持ちなんて分かりっこない。
 メロは感情のままに己を抱きかかえるLの手に噛みついた。
 嫌われるのは、慣れている。ニアだって、メロの事を嫌っている。威勢だけはよくて、結果を伴わない、こんな癇癪持ち。
「…メロ、痛いです」
 Lの声が静かに、頭上から降ってきた。
 それでもメロはLが手を離すまで、ガジガジと齧りつく。
 とんでも無く、腹が立った。
 悲しくて、苦しくて、辛い気持ちで泣いているのを、足蹴(アシゲ)にされた気がした。
 恵んでもらった優しさが、持てる者だから与えられるのだという事に、どうしようも無く我慢が出来なかった。
「痛いです…メロ」
 強く、強く、自分の顎が痛くなる程噛み付くと、血の味が口の中いっぱいに広がった。
 確かに、声が語りかけるように、痛いのだろう。
 だったら、離せばいい。こんな癇癪持ちの、素直に恵んでもらえない嫌なヤツなんて、利の無い人間なんて、ぶっ飛ばしてしまえば、いいのに。今までメロを嫌ってきた沢山の人たちのように。
 突風が二人を嬲るように吹き付けたが、Lの声音は変わらない。
「メロ…」
 Lの声には一向に、咎める色が混じらない。
 ただただ、Lも痛いんだという事だけが、切なく伝わって来た。
「…っ」
 止まったはずの涙がぶわっと反乱のように溢れてきた。
 Lは優しさを恵んでやろうなんて、これっぽっちも思っちゃいないのだ。
 齧りついたはずのLの手に縋るようにして泣き始めた、メロのまるい背中を包むように、Lの体が寄せられる。
「皆、独りです」
 静かな声が、メロの耳を掠める。
「我慢しなくて、いいんですよ」



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2006.01.20up
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